What People are Talking about Piketty

もう既に時期を逃したけれども、アメリカ等英語圏において2014年上半期の最大の話題作であったThomas Pikettyの"Capital in the Twenty-First Century"についてメモしておく。断っておくと、僕はこの本を読んでいない。そもそも読むスピードが遅いのに、700ページ近い本を読むほど時間はない。但し、話題の書なのでいろいろな人がコメントしているので、それらのコメントは興味深く読ませてもらった。ここでは、まず、(インターネット上のコメントに基づいているので間違っているかもしれないけれども)、Pikettyの本の概要を書いて、その後に、様々な角度から寄せられたコメントのうちいくつかについて書いてみる。ちなみに、Piketty自身によるスライドはここにある。

まずは本自体であるが、皆が絶賛するデータのパートと、皆が批判している理論のパート、それに政策のパートに分かれているようだ。以下、データのパートは1-x、理論のパートは2-x、最後の政策のパートには3-xという数字をつける。なお、データはPikettyのウェブサイトに公開されているので、そこから取らせてもらった。

(1-1) 資産(Capital)の不平等は19世紀の間、各国で上昇し続けた。しかし、20世紀前半、世界大戦や大恐慌が起こったことで多くの富が失われたため、資産の不平等は大幅に低下した。しかし、20世紀の半ば以降、経済が安定するにつれて、資産の不平等は再び上昇基調にある。

 上のグラフは、アメリカにおいて、資産保有額で見た上位10%と上位1%がどれだけの資産を保有しているかを示している。1810年から1910年の間は上昇し、それ以降、1950年くらいまでは低下し、それ以降間tら上昇しつつあることが見て取れるであろう。
 上のグラフは、アメリカとヨーロッパ(イギリス、フランス、スウェーデンの平均)の資産の不平等度合いの時に伴う変化を示している。どちらも、1910年まで上昇、20世紀中ごろまで低下、その後再び上昇というパターンが見て取れる。

(1-2) では、その背後には何があるのか?所得の不平等度合いも同じようなトレンドを示している。所得の不平等が資産の不平等を生み出している面がある。20世紀の初めは所得の不平等は激しかったが、20世紀の中ごろに向かうにつれて、不平等は低下した。しかし、1980年ごろ以降、アングロサクソンの国々では所得の不平等が再び高まっている。大陸ヨーロッパや日本でも所得の不平等は1980年ごろから緩やかな上昇基調にあるがアングロサクソンの国々ほどの所得の不平等の上昇は見られない。以下のグラフは所得の上位1%が国の全所得の何%を得ているかを描いたものである(1%であれば平等なのだがもちろん1%より高い)。

(1-3) では、所得の不平等の上昇の背後にあるものは何か。ひとつの要因は、所得に占める資産収入の割合が高まっていることである。資産はそもそも不平等の度合いが高いので、資産所得の比重が増加すると、資産を多く持つ(比較的少数の)人々の収入が大きく上昇する。
上のグラフは、総所得に占める資産収入の割合の変化を示している。どの国においても、資産収入の割合が1975年以降高まっていることが見て取れる。

(1-4) おそらく本の中では、これらの変化の背後にある経済の変化について丁寧な議論がなされているはずであるが、ここでは立ち入らない。例えば、労働を置き換える機械の発達で、労働者に回る収入が減少傾向にあるというのはよく言われているトレンドである。

(2-1) では、このような変化を理解し、さらに将来何が起こるかを理解するための理論的なフレームワークを紹介しよう。Pikettyが導入するフレームワークは「資本主義に関する3つの法則」から成り立っている。ではその一つ目を。資本主義に関する第1の法則とは、「資本所得が総所得に占める割合(上のグラフで示された割合)はr *(k/y)と表記できる」というものだ。ここでは、rは(実質)利子率。k/yは資本と所得の比率である。r*kが資本所得であることが理解できれば、この法則というのは単に資産所得の定義であることがわかる。この「法則」(法則なんて呼ぶようなものではないけれども)については誰も文句はつけていない。

(2-2)  資本主義に関する第2の法則とは「k/yはs/gと等しくなる」というものである。sというのは(資本減耗の分を差し引いたという意味での)純貯蓄率、gは経済全体の成長率である。貯蓄率が高まれば経済の資本ストックは高まるというのは理解できるであろう。成長率が高まると資本と所得の比率が小さくなるというのは理解しにくいかもしれないが、他を一定とすると、成長の速い経済であればあるほど、その高い成長率を維持するためにより多くの投資を必要とするので、経済の資本ストックの大きさは小さくなるというのが直感的な説明だ。この関係式から、今後経済の成長率(g)が低下していく一方、貯蓄率が変わらないとすると、資産と所得の比率は上がっていくことにある。例えば、s=12%、g=4%であれば資本の所得に対する比率は3倍であるが、将来的に成長率が2%まで低下すると
資本の所得に対する比率は6倍になることがこの関係式からわかる。

(2-3) さらに、これら二つの法則を組み合わせると、 資本所得が総所得に占める割合はrs/gと表記できる。sとrが変わらずにgだけ4%から2%に下がると、資本所得が総所得に占める割合が倍増することになる。

(2-4) 最後に、資本主義に関する第3の法則として「r>g」が挙げられる。利子率は経済の成長率より一般的に高い。労働収入(賃金)がgの率で伸びていくとする一方、資産収入はrの率で増えていくので、資産が経済全体の総収入に比べて速いスピードで膨張してゆき、資産の不平等が加速していくことになる。

 (コメント) ここまで書いてきて、自分でもわけがわからなくなってしまった。そもそもPikettyがきちんとしたモデルを使っていないので混乱が生じているように見えるのと、やはり自分で読まないで書くとわけがわからなくなる。一応残してくけれども、またちゃんと理解できたら修正する。ごめんなさい。

(3-1) では、gが低下して、資産の量が増え、かつ資産の不平等が拡大して行くという状況を打破するためには何をしたらよいか。コメントを読む限りでは、資産(収入)に対する高率の課税を行うことで、資産収入が資産の不平等を拡大してゆくことを防ぐことを主張しているようだ。それに、資産が資産課税が低い国に逃げないように、国際的に協調して同時に高率の資産課税を実施することを象徴しているようだ。

では、いろいろな人がいろいろな角度から批判を加えているが、そのうちのいくつかを紹介したい。

(Financial TimesのChris Giles) Chris GilesはPikettyのデータ部分の数字を丹念に検証して、彼の数字に間違いがあることを報告した。 僕の記憶では、以下の4点が主要な批判だったと思う。
  1.  アメリカとイギリスの資産の不平等に関しては、別のデータを使うと、1970年ごろからの不平等の上昇については上昇度がPikettyが示したものに比べて緩やかである。
  2. Pikettyは「ヨーロッパ」として、イギリス、フランス、スウェーデンの3カ国の単純平均を取っている。そもそもこの3カ国の平均をヨーロッパと読んでいいのかというコメントもあるが、スウェーデンの不平等の度合いの上昇が高めなので、人口でウェイト付けをすると、「ヨーロッパ」の資産の不平等の上昇のスピードはPikettyが示したものより緩やかになる。
  3. 元データからグラフに数字を移す時に単純な間違いが散見された。
  4. また、理解できない調整が数字になされているときがある。
これらの批判に対しては Pikettyが詳細な反論を発表した。それについては省くが、Economistが整理しているように、これらのコメントを考慮したところで、Pikettyの基本的なデータの特徴が変わるわけではない(FTはセンセーショナルなタイトルで発表したが、そういう意味ではReinhart-Rogoffの場合とは大きく異なる)。

(Krusell and Smith) 彼らは、理論のパートにコメントを加えた。彼らの批判の中心は、Pikettyが使っているモデルはマクロ経済学者が通常使うソローあるいは新古典派成長モデルと異なっており、より一般的なモデルを使えば、gの変化が経済にそれほど大きな影響は与えない、というものである。ソローモデルをといたことがある人であれば、資産と所得の比率はs/gではなく、s/(g+d)であることを覚えていると思う。dは資本の減耗率である。Pikettyの場合は、成長の停滞や人口増加率の低下によってgが半分になると資産の所得に対する比率が倍になるけれども、スタンダードな成長モデルではそうではない。例えば、s=0.24(スタンダードな成長モデルでは貯蓄率は資本減耗分を含むので、Pikettyの使うsとは異なる)、d=0.06として、gが4%から2%に下がったとすると、資産と所得の比率は2.4から3に上がる。これももちろん大きな上昇率だけれども、Pikettyのモデルのような倍ということではない。

それに、貯蓄率が消費者によって決定される(Cass-Koopmansモデル)とすると、経済の成長率が下がれば貯蓄率も低下するので、資産と所得の比率の変化はより小さいものと成る。彼らは、アメリカにおいて、経済の成長率と貯蓄率を比べると、実際に負の関係があることを示した。彼らのグラフは以下のものだ。
 上の線は(資本減耗も含んだ)貯蓄率(新古典派モデルで使われる)。下の線は(資本減耗を含まない)Pikettyの貯蓄率である。どちらのケースでも、貯蓄率は経済の成長率が低いときには低いという関係が見て取れる。

彼らは、Pikettyがスタンダードな成長モデルを使っていないことから生じてくるスタンダードなモデルとの違いについて細かく議論しているが、ここでは立ち入らない。

(Debraj Ray) Rayも、理論のパートにコメントを加えた。彼の主要な論点は、 資本主義に関する第3の法則(r>g)というのは、不平等とは関係なく多くのモデルで成り立つというものだ。よって、Pikettyが言うように、r>gが成り立つからといって、不平等の度合いが上昇するということは必ずしもないとコメントした。

(Bonnet, Bono, Chapelle, Wasmer) 彼らは、Pikettyの示した資産が所得に比べて急速に増加したという事実と、資産の不平等の度合いが上昇したという事実は、住宅価格の上昇によってかなりの部分を説明できることを、最近のペーパーで示した。住宅を除けば、生産に使われるという意味での資本の蓄積は特に急速に進んでいるわけではないし、資産の不平等が大幅に加速しているわけでもない。

そもそも元の本を読まずに書いている上、いろいろ書くことがありすぎて、 取り留めのないものになってしまった。ちょっとづつ改善していくので、許して欲しい。

0 comments:

Post a Comment