Wednesday, August 05, 2015

Why Don't Present-Biased Agents Make Commitments?

今年のAERのPP(Papers and Proceedings)にTwenty Years of Present Biasというセッションがあった。LaibsonのペーパーとO'Donoghue and Rabinのペーパーが並ぶという豪華なセッションだ。20年というのが何を意味するのかはっきりとはわからないが、おそらくはLaibsonが有名なQuasi-Hyperbolic Discountingに関する一連のペーパーを書いたのが1990年代半ばなので、それを祝ってという趣旨であろうか...

Laibsonがそこで発表したペーパー("Why Don't Present-Biased Agents Make Commitments?")を簡単に紹介する。Present-Biasというのは、意思決定をするときに、今の利益を将来の利益に比べて過大評価してしまうということである。本来は今勉強しておけば将来役に立つことはわかっているのに勉強することによる今の苦痛を勉強から得られる将来の利益に比べて過大評価することで、結局勉強しないような例がわかりやすいか。あるいは、これも良く使われる例だが、今ポテトチップスを食べ過ぎると太ってしまい、健康を害することはわかっているのに、今ポテトチップスを食べることによる喜びを、今節制することで将来得られる利益に比べて過大評価してしまうので、結局食べ過ぎてしまい、太ってしまうということとらえても良い。

このような話は1990年代からモデル化していることで、2010年代の研究対象ではない。今関心がもたれているのは、こういう状況で、もし個人が将来の利益を過小評価しているなというのを意識しているのであれば(こういう人をSophisticated agent(洗練された個人)と呼ぶ)、自分が長期的に見て最適な行動を取れるように、自分に制約を課す(コミットメントと呼ぶ)のが最適な行動となるのに、なぜ人はそういうことをあまりしないのかということである。Laibsonによると、実験においても、現実世界でコミットメントが容易な状況でも、コミットメントはあまり見られない。

それはなぜだろう。もしかしたら、Present-Biasという仮定が間違っているのかもしれないが、それ以外の別の解釈の仕方はある。 このペーパーでは、コミットメントがあまり使われていないことを正当化する理論をいくつか提示している。

次のような設定を考えてみよう。詳細は実際のモデルと異なるがまぁ、そんなに悪い単純化ではないと思う。夏休みの宿題は終わらせなければならない。遅くすれば遅くするほど大変になる(先送りのコストは毎日「L」かかる)が、宿題をやるとすると苦痛である(宿題をするときの苦しみの度合いは「C」)。夏休みが始まる前に、親に話して(親にこれを頼むコストはとても小さいとする)、宿題をすぐにしなければ夏の間は大好物の冷やし中華が食べられないことにすることができるとする(これがコミットメントを実現するための仕掛け)。このとき、どういう状況で、コミットメント(冷やし中華なしの夏休み)が使われるか、を示しているのが下のグラフである。


Y軸は宿題を先送りすつコスト「L」、X軸は宿題をやる苦痛「C」をあらわしている。宿題を先送りするコストが大きい(Y軸に示された「L」が大きい)ときには、先送りせずに、すぐにやる(「Immediate Action」と示された領域)ことが最適となる。逆に、宿題を実施する苦痛が大きい(X軸に示された「C」が大きい)ときには、先送り(「Procrastination」)することが最適となる。そのどちらのケースでもない中間のケースでは「コミットメント」を使う(親が冷やし中華を作ってくれない事態を避けるためにすぐに宿題をやる)ことが最適な行動となる。

では、コミットメントが使われにくいケースとして、自分にPresent-Biasがあることをあまり強く認識していない(ナイーブな個人という)場合はどうなるであろうか?その場合、コミットメントが必要な場合でも、その必要性自体が認識できないので、コミットメントを使う領域が小さくなる。下の図がそのような状況を表している。
更に、親に、コミットメントを頼む(夏休み中すぐに宿題をやらなければに冷やし中華を作らないように頼む)際にコストがかかる場合(夏休みに入る前に親の肩を1週間毎日もまなければならない)はどうなるか?コミットメントを実現するためのコストが大きければコミットメントはもちろん使われなくなる。グラフとしては、下のような形になる。
コミットメントが使われるケースがとても小さくなることがわかるであろう。Laibsonは、比較的小さいコストでも、コミットメントが使われる領域がかなり小さくなることを示した。これはなぜか?コミットメントを実現するためのコストは前倒しで払う(夏休みの前に行う)のに比べて、宿題を先送りするコストや宿題をやる苦痛は将来の話なので、(将来のコストや苦痛を割引する限り)、コミットメントのコストに比べて(現時点での評価が)小さいからである。言い換えれば、コミットメントのコストが低ければコミットメントは使われる可能性はあるのだけれども、小さいコストがあると、Present-Biasがあっても、コミットメントが使われない可能性は十分にある。

多分、次のステップは、Present-Biasの観点から実際にコミットメントが有効だと思われる状況で、コストがどの位大きいのか、そのコストはここで挙げたモデルと整合的(コミットメントを使わせないくらいコストが大きい)か、と検証することだと思う。

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