今回は、簡単に、Justiniano, Primiceri, and Tambalottiによる最新のNBER Working Paper ("A Simple Model of Subprime Borrowers and Credit Growth")についてメモしておく。
Great Recessionの前触れとして、主に住宅およびモーゲージの市場において以下のことが起こったことはよく知られている。
- モーゲージの証券化が進み、モーゲージの貸し手である金融機関はよりリスクをとるようになった(後から考えるとリスクをきちんと把握してはいなかったようだけれども…)。これによって、貸付の供給が拡大した。それにともない、以下のことが起こった。
- モーゲージの金利が下落した。
- 住宅価格が大幅に上昇した。
- 家計の(主にモーゲージによる)借入残高が上昇した。
Justiniano, Primiceri, and Tambalottiは、以前のペーパーにおいて、これらの事実を再現できるモデルを作った。チャンネルは簡単である。貸し出しの供給を外生とし、供給量が増加したとしよう。貸し出し供給量の増加によって金利は下落する。モーゲージの借り入れ制約に引っかかっている家計がいるとすると、その家計は金利が下落することでモーゲージの支払額が減少し、より大きなモーゲージを得て、より大きな家を買えるようになる。住宅の需要が増加するので、(住宅の供給があまり増やせないとすると)住宅価格も上昇する。とても簡単なチャンネルである。
では、このモデルをちょっと拡張して、アメリカの都市間の違いを説明できるかということにトライしてみたのがこのペーパーである。 アメリカの都市間の違いというのは、有名なMianとSufiによって発見された。彼らによると:
- サブプライムの借り手(リスクの高い借り手)が多いエリアほど、2000-2006年の住宅価格の上昇度合いは大きかった。その弾力性は0.35である。つまり、サブプライムの借り手の割合が10%高いエリアは住宅価格の成長率が3.5%高くなった。
- サブプライムの借り手(リスクの高い借り手)が多いエリアほど、2000-2006年のモーゲージの残高の成長率は大きかった。その弾力性は0.30である。つまり、サブプライムの借り手の割合が10%高いエリアはモーゲージの残高が3.0%多くなった。
彼らのシンプルなモデルを拡張すると、 これらの数字と整合的であろうか?これを調べるために、彼らは、上で書いたようなチャンネルが効いている「サブプライムの借り手」と、借り入れ制約に引っかかっていない(ので上で上げたようなチャンネルは生み出さない)「プライムの借り手」がいるモデルを構築した。そして、モデルの中で、サブプライムの借り手が多くいるエリアとあまり多くないエリアを作り、貸付供給量が拡大したときに、これらの異なるエリアで反応がどのように異なるかを見てみた。その結果、貸付供給量は、実際の2000-2006年のように、金利が5%から2.5%に低下するように増やされた。この実験の結果、モデルの中では、住宅価格も、モーゲージの残高も、弾力性が0.25であった。つまり、サブプライムの借り手が10%多くいるエリアでは、住宅価格及びモーゲージの残高が2.5%より増えることを示している。データの数字より小さいが、それほど悪くない、という結論となっている。
かなりシンプルなペーパーなので、おそらくは来年のAER-PP用なのかな、という気がする。
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