Tuesday, April 12, 2016

Why More Households without Savings in 2013?

舞田さん(@tmaita77)という方が、twitterに、2001年と2013年で、「貯蓄が無い」と答えた家計の割合が大きく増加しているというグラフを示していた。以下のグラフはそれを再現したものである。元になっているデータセットは厚労省が作成している国民生活基礎調査というデータセットである。3年に一回、貯蓄に関する質問が行われているので、3年おきのデータがある。以下のグラフでは、2001年と2013年の間の全ての年について示している。
ちょっと前にtwitterで投稿したバージョンでは、分母に、回答=「不詳」という人たちも入れていたのだが、片山さん(@mnchk)のアドバイスにしたがって、「不詳」の人たちを除いてみた。「不詳」の人は少ないので、どちらにしても、メッセージは同じで、2013年だけ、「貯蓄が無い」と答えた家計の割合が大幅に上昇している。この上昇は、もともと高い29歳以下の家計を除くと全てのグループグループに当てはまる。

舞田さんは、おもしろい相関なり、データの変化を探すのがうまい人のようだ。但し、家計調査の専門家とかではないようだ。この関連の話をどこかに書いていたが、変なことも書いていた。ただ、この変化はとても面白いと思った。このグラフを引用して、あんまり考えずに緊縮的な増税を批判するのに使うような人もいたが、こういうデータに慣れているのであれば、これはおかしいと思うのが普通じゃないかと思ったので、このグラフは面白いと思ったのである。そもそも、どのように貯蓄を増やすかというのは、マクロの短期的な状況で大きく影響を受けるものでもない。2001-2010年に比べて、2013年の景気が圧倒的に悪いということもない。震災の影響かとも思ったが(確かに、2011年は被災地域を調査対象からはずしたりしているし、いろいろなデータが2011年は違っていたが、貯蓄に関するデータは無い)、震災から2年もたった後の話である。それに、例えばアメリカのこういうデータを見ていても、1980年以降、貯蓄がない人の割合がこんなに動いたことは無いと思う。

では、どうしたらこういうことが起こりうるか?を知るために、データをいくつか別の側面から見てみた。まずは、家計の年齢の分布が2013年だけ変わったりしてないか?以下のグラフが年齢分布である。
どの年も大体同じようなもんである。若いときは親と住んでたりする(その場合、家計としてカウントされない)ので、割合としては低くなる。高齢世代が少ないのは、子供と同居したり、死んだりするからだ。まぁ、一番最初にあげたグラフは、各年齢グループの中での、「貯蓄が無い」家計の割合なので、年齢の分布が変わっても影響は受けないんだけれども、いちおう念のため見てみた。では、一人暮らしの家計の割合はどうか?
見事に毎年同じである。一人暮らしの家計の比率は20代の時にとても高く(50%程度)、結婚するにつれ下がっていく(40代では約10%)。その後、おそらくはパートナーが死んだりすることでまた一人家計の割合が増えていく。このパターンは2013年とそれ以外の年で違わない。では、核家族(大人が二人、あるいは大人と子供)の割合は?
これも見事に毎年同じパターンを示している。2013年だけ異なるということはない。この二つのグループで家計の大半を占めるので、このグラフは上のグラフをひっくり返したような形になっている。ちなみに、この2つに含まれないのは、3世帯同居で、割合はあまり高くない。では、核家族のなかでも、一人親家計の割合はどうか?
2013年はちょっと高いが、そもそもこれらの家計の割合は高くない(最高で全家計の9%くらい)ので、2013年とそのほかの年の差が全家計を集計した時に大きな影響を与えるとは思えない。

では、なぜ、違うタイプの家計の割合を見て行ったかというと、それぞれのタイプの家計の「貯蓄が無い」家計の割合は大きく異なるからである。まずは、単身家計の「貯蓄がない」割合を見てみよう。
最初に見たグラフと同じく、2013年だけ際立って高い割合となっている。では、核家族家計はどうか?
同じく、2013年だけ際立って高い。ちなみに、「貯蓄が無い」家計の割合は、単身家計(2013年を除くと20-25%程度)のほうが核家族家計(2013年を除くと10%程度)より高くなっている。所得が高くて余裕のある人が結婚したり子供を作ったりしがちなのか、二人で働けるから貯蓄ができるのか、逆に、結婚したり子供ができたりすると貯蓄しなければと思うので貯蓄しがちになるのか、はこれだけではわからない。では、最後に、一人親家計の中で「貯蓄が無い」割合は?
かなりばらつきがあるが、これは、そもそも調査において、このような家計の数はとても小さいからである(例えば20代で貯蓄が無い家計の数は20以下)。但し、2013年の線が他の年より常に高いところにあることがわかるであろう。

これらのことから何が推測できるか?最初に示したグラフ(2013年に「貯蓄が無い」と答えた家計の割合が急に増えている)は、2013年に貯蓄の無いタイプの家計(単身、一人親等)が増えたからではない。どの年齢層も同じように上昇しているので、教育費とか、家を買うための支出といった、ある特定の年齢に集中するイベントに関連することが理由とも思えない。

同様に、消費税増税が原因であれば、そもそも資産をあまり持っていない若い家計や単身家計における「貯蓄ゼロ」の割合が高まると思うのだけれども、必ずしもそうはなっていない。核家族家計では実際若い家計の「貯蓄ゼロ」の割合がより多く上昇しているが、ほかのグループも上昇している。逆に単身家計では、若い家計では「貯蓄ゼロ」の割合が低下し、50代における割合が最も上昇している。これらが、消費税増税やちょっとした景気の悪化(2013年の景気が2010年に比べて圧倒的に悪いわけではない)によって引き起こされると考えるのは難しいかなというのが現時点での感想だ。

というわけで、おそらくは、2013年に、調査方法が何かしら変わったのではないかと思った。実際、2013年には、「貯蓄がない」かどうか聞く質問表の文言が、以下のように変更されている。
右が2010年、左が2013年である。どちらの場合も、4つのカテゴリについて、貯蓄があるかないかを答え、全てにおいてないと答えた場合に、「貯蓄なし」となるようだ。但し、2010年には質問に対する答えの選択肢が「有」「無」であるのに対し、2013年は「貯蓄あり」「貯蓄なし」となっている。大石さん(@Kikoao)という方も先にtwitterで指摘してくれたけれども、この変化によって、もしかしたら、同じであるはずの質問に対する回答の仕方が変わったのではないかというのが、今のところ、僕の唯一の仮説である。行動経済学的であるが、今のところこれしか思いつかない。どなたかほかの仮説があったら教えて欲しい。

「変更理由」として、「記入者がわかりやすいようにする」としているが、この変更を実施する前にちゃんとパイロットプログラムのようなものを実施して、この変更が回答方法に影響を与えないか、とか、ちゃんとチェックしたのだろうか?(既に集計されたデータだけれども)これまで自分で触ったことは無かったが、とても面白く、役に立つデータセットなので、年毎に比べられないなんてことが無いように、がんばってもらいたい。元のマイクロデータ二アクセスできたらいろいろ面白いことができるなぁ、と思うのだけれども、簡単じゃないんだろうなぁ。アメリカだったら(このレベルのデータであれば欧州も)簡単にダウンロードできるのにな…

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