- 政府の予算の構造というのは複雑で、僕には良くわからないのだけれども、簡単に言うと、消費税率を上げなければならないのは、既に支出の大きな部分を占めていて今後も増えていく公的年金を将来なるべく減らさないようにするためだと思う。
- だから、消費税率を上げなければ将来の年金はこれだけ下がってしまうけれども、消費税率を今上げる代わりに将来の年金の金額はこれだけ増えますよ、という説明の仕方ができれば、比較的若い世代の反対は多少和らぐと思うのだけれども、日本の政府にこんな複雑な計算をする能力もそういう簡単でない議論を展開する能力も意思もなんだろうなという気がする。
- では、なぜ消費税じゃなきゃダメなのか?議論を単純にするため、所得格差のようなものを捨象する。消費税率の代わりに所得税率を上げるとすると、今働いている人から多く税金を取って、彼らが退職した時にそれを、年金の増額(あるいは年金の金額が少なくなることを食い止める)という形で帰すことになり、今働いている人たちにとって何のメリットもない。リカードの等価定理の世界だ。働いている世代がもし、借り入れ制約に引っかかっていれば、借り入れ制約に引っかかっている時に使える可処分所得が減るので、彼らの幸福度としてはマイナスとなってしまう。もちろん、行動経済学者であれば現在バイアスのような物を使えばこのような状況でも政府の介入が正当化できると思うけれども、まぁ、そういうのは、あんまり面白くない議論だ。
- では、所得税と比べて消費税率を上げることによるメリットは何かというと、所得税と違って退職した世代からもより多くの税金が取れるということである。つまり、消費税の増税は、現在退職している人たちの実質的な年金を減らして、将来年金を受け取る人たちがより多く年金を受け取るようにしていると考えることができる。もちろん、もっと直接的には、現在の年金を減らせば、現在働いている人たちが消費税増税で苦しまなくてよいのだけれども、多分、年金生活者の支持は得られないだろうから、政治的にこの方法は困難だ。
- このように、間接的に、所得を移転するというのは、あまり皆気がつかないから政治的に実行しやすいのではと思う。財政政策による所得移転より、金融政策が実施しやすいのは、間接的に損する人もいるんだけれども、わからない人が多いというのもある。
- もちろん、所得税のほうが労働のインセンティブをゆがめると言う効果があるので、消費税に切り替えたほうが望ましいというメリットとか、税収が安定するというメリットもある。
- もう一度書くと、消費税率を上げる時に、今働いている世代に、彼らのメリットを説明できればいいのだけれども、そうすると、退職した世代が損をすることが明らかになってしまうので、そういう宣伝がしづらいという特徴が、消費税引き上げを困難にしている面があると思う。
- ちょっと話は変わって、消費税率引き上げが現在のマクロ経済に引き起こす影響であるが、消費は一度だけ2-3%下がると考えると考えるのが自然だと思う。退職した世代は事実上可処分所得が3%程度恒久的に減少するから、消費を3%程度カットすると思う。働いている世代については、将来の年金の増額を完璧に予想できて、かつ、借り入れ制約に引っかかっていなければ、消費は変わらないはず。但し、そこまで日本政府の能力は多分信用できないのと、将来何が起こるかわからないこと、および、借り入れ制約に引っかかっている家計も多分少なからず存在していることを考えると、彼らの消費も2-3%減るのが想像できる。
- マイクロデータがあれば、借り入れ制約に引っかかっていない人の方が消費の減少幅が小さいか実際にチェックできる。こういう研究してみたいなと思うのだけれども、多分こういうデータもタイムリーには手に入らないのが日本の悲しいところなのだろう。
- GDPはどうか。所得効果が強く働けば、余暇の消費が減って、労働時間が増えることも考えられ、GDPが増えてもおかしくないという議論もできるかもしれないけれども、日本においてそんな風に短期的に労働供給が増やせるとは思えない。その一方、一時的には総需要(消費)が減少するので、GDPは2%くらい(消費はGDPの2/3位なので)減ると考えるのが自然だと思う。ただ、この効果は一時的なものである。GDPのパスが平行に2%下がるだけで、将来の成長率は影響を受けないと考えるのが自然だと思う。
- 実際、ちょっと前のポストで書いたが、GDP成長率は消費税率引き上げの直後で下がったが、そのマイナスの効果は一時的ににみえる。
- 誰だか知らないけれども、消費税増税でGDP増える(あるいは減らない)といった人がいるらしいが、どんなチャンネルを念頭においているのかわからないが、むちゃくちゃだと思う。
- 同じく、労働市場の改革をすれば消費税増税によるGDPへの負の効果を相殺できるという話も誰かが書いていたがそれもむちゃくちゃだと思う。そもそも、構造改革のようなものは時間がかかるし、例えば、労働市場の流動性を高めるために、解雇をしやすくすれば、短期的にはGDPに負の影響を与えるはずである。どんなチャンネルを念頭に置いているのかわからない。
- あと、どこかで読んだのは、消費税を上げたことで、GDPあるいは消費がトレンドを下回っているので、減税などで景気を刺激すべきだという議論である。誰だかしらないがこれもむちゃくちゃだ。そもそも、消費税率の引き上げは、長期的な財政の健全性を高めるために行うものであり、上で述べたとおりGDPあるいは消費が一時的に下がらるのが自然だ。逆に下がらなかったのであれば、効果がなかったと心配すべき話だ。政策の変更やその他の構造的なブレークを考えないで、単純に適当なトレンド線を引いてそれより上だったらちょっと引き締め、それより下だったら景気刺激すべきというような、1970年代の学部の教科書のような単純な話ではない。
- こういうむちゃくちゃな議論ばかり出てこないように、もっとまっとう議論ができるマクロ経済学者が日本で活躍して欲しいものだ。
Monday, March 21, 2016
Again (Hopefully the Last Time) on Consumption Tax
消費税の効果について、あいかわらず間違ったことがたくさん言われている気がするので、思うところをラフに書いておく。
No comments:
Post a Comment