Friday, October 14, 2016

Raising Consumption Tax Rate to Stimulate the Economy?

多分、消費税率引き上げの話が盛り上がっていたころだと思うが、消費税率の引き上げを、景気刺激策として使おうという議論があった。Hall (2001)やCorreia, Farhi, Nicolini, and Teles (2013)あたりがそのような議論をしていたようだ。消費税率を「上げて」景気刺激というのはちょっと逆説的に聞こえるかもしれないが、ロジックは次のようなものである。今後毎年、消費税率が毎年1%づつ上がっていくと政府が決めたとしよう。この場合、消費税率の引き上げがそのまま消費者が払う価格に転嫁されるのであれば(毎年引き上げることになれば、多分そうなるだろう)、消費者がみた(税込み)価格は毎年上がっていくことになる。もし消費税の上昇分を除いた物価が変らなかったとしても、これは、まさに(年率)インフレ率1%と同じことである。予想インフレ率を引き上げることで、(実質)金利を下げるという政策を実施したいのであれば、これほど、確実な方法もあるまい。実質金利というチャンネルでなくても、毎年ものが高くなることが確実なら、消費者は、特に耐久消費財を、買うタイミングを早めるであろう。

ただ、この議論はあまり流行らなかったように見える。どうしてか?多分、所得が上がらなければ(増税による価格の上昇を考慮した)実質可処分所得が減ることになり、負の所得効果・資産効果が懸念されたのであろう。但し、これに対処することは理論的には比較的簡単だ。消費税増税による政府収入の増加分をそのまま消費者に返還すればいいのである。但し、消費した金額に比例させると消費税増税の効果を打ち消すだけなので、(1) 国民全員同じ金額をあげる、(2)所得が低い人には大きな金額が返還されるような逆進的な形で返還する、(3)年齢に応じて(年齢が低い人ほど金額を大きくする)金額を決める、などの形が考えられるだろう。要は、消費税率は上がるけど、(特に所得が低い人の)生活は悪化しないようなイメージを植えつけることができればいいのだ。

このような政策は実際に有効か?実際にこのような政策を実施した例がないならば(聞いたことはないがあるのかな?)、それに似た政策を通じてその効果を実証する必要がある。"The Effect of Unconventional Fiscal Policy on Consumption Expenditure" by D'Acunto, Hoang, Weber, NBER Working Paper 22563は、ドイツで2005年の11月に付加価値税(消費税みたいなものだと思ってよい)の税率が引き上げられたときに何が起こったかをみることで、上で議論したような非伝統的財政政策の効果を類推してみようというものである。というか、そういう売り方をしてる。

2005年11月に、ドイツの付加価値税が現行の16%から19%に、3パーセンテージポイント引き上げられることが発表された。実際の実施は2007年1月である。この事例が、消費税率引き上げの効果を測るものとして優れている点はいくつかある。1つ目は、この引き上げは、EUが加盟各国に課している財政均衡を達成するために、EUから強制されたものであることが挙げられる。つまり、ドイツのそのほかの経済政策とは連動していないので、同じ時期に実施された他の政策がどのような効果を持っていたかを考えなくて良い(逆に、さまざまな景気刺激策がパッケージとなった経済政策が実施されたときには、それぞれの刺激策の効果は測りにくい)。2つ目は、ドイツはユーロ参加国なので、金融政策はECBがドイツとは独立に決める(ドイツはメンバーなのでその経済状況を反映した政策になるにせよ、完全ではない)ものであり、ドイツの財政政策と(完全には)連動はしていない。3つ目は、この政策は突然アナウンスされ、あまり予測されていなかったものであることだ。

実際に著者らが使ったデータは、ドイツの2000の家計に対して毎月実施されているサーベイである。特に、「この先12ヶ月のインフレ率は上昇するか」という質問と「今は耐久消費財を買うのにいい時期か」という質問である。下のグラフは、これらの二つの質問の相関を示している。
x軸において右に行くと、インフレ率が高まると考えている家計の割合が増えていることを示し、y軸において上に行くと、今は耐久消費財を買うのにいい時期だとより強く家計が考えていることを示している。一つの点が2000年から2013年の間の一月に相当する。青い点が付加価値税率引き上げが発表されてから実際に実施された間、主に2006年、を示している。赤の点は青い点以外の月である。2006年には、2007年からの付加価値税率引き上げを見込んでインフレ率が高まると考えている家計が増え、それとともに、耐久消費財を買うのにいい時期だと考えている家計も増えたことを示している。

ここまでは単純な相関を見ただけであるが、ペーパーでは個別の家計の回答の相関を用いた分析がされている。さらに、もう少し手の込んだ事も行われている。例えば、このサーベイはヨーロッパのほかの国でも行われているので、ヨーロッパのほかの国でも同じ質問がなされている。よって、ドイツで付加価値税が引き上げられたときにそのような大きな政策変更が起こらなかった国をコントロールグループとして使ってDID(Difference-In-Difference)を行うことができる(もちろん、似た家計を選ぶというプロセスを経なければならないが)。EUは様々なデータが横断的に集められているのでこういうことができてうらやましい。日本も、もっと、EUなどのデータに参加できないもんだろうか?

著者らによると、ドイツにおける付加価値税率の3パーセンテージポイントの引き上げによって、耐久消費財を買いたいと思う家計の割合は34%も上昇した。もちろん、今回の引き上げは一回きりなので、実際に引き上げがあった後でその反動の落ち込みが生じたはずであるが(これは日本の消費税引き上げ時と同じ)、継続的に付加価値税率を引き上げて行った場合に耐久消費財の購買に影響があることへの(間接的な)証拠となっている。

一方、著者らも述べているように、この実験は完全なものではない。付加価値税率引き上げにともなう税収の増加が返還されていない、つまり、財政に中立的ではないので、耐久消費財購入へのポジティブな効果は財政中立的な場合より弱いはずである。また、これはサーベイなので、「本当に買うの?」という疑問がある。さらに、このサーベイでは耐久消費財の需要しか測れない。ということは、耐久消費財から非耐久消費財へのシフトが見落とされているかもしれない。さらに、著者らによると、ドイツも軽減税率があり、軽減税率の税率は据え置かれたので、軽減税率が適用される商品、そのすべてが非耐久消費財、へのシフトが考えられるが、2006年には非耐久消費財の消費額も増加したので、実際にはそのような効果は強くないと著者らは推測している。

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