Thursday, January 19, 2017

Does When and How to do Fiscal Adjustments Matter?

Alesina, Azzalini, Favero, Giavazziによる最新のNBER Working Paper ("Is it the "How" or the "When" That Matters in Fiscal Adjustments?" No. 22863)を簡単に紹介する。

多くの先進国で、政府債務が膨らんでおり、財政再建が大きな課題の一つとなっている。ユーロ圏ではギリシャの政府債務返済への懸念が生じたことがきっかけとなって経済危機が生じ、それがその他の政府債務が大きい国(ポルトガル、スペイン、イタリア)にも飛び火したことで、ユーロ圏経済に深刻な影響を与えたことは記憶に新しい。日本においても、消費税率引き上げの背景にあるのは財政再建への取り組みである。

では、財政再建を行うに当たって、どの方法(税率引き上げか支出削減か)あるいはいつ行うか(好況の時か不況のときか、あるいはゼロ金利制約に引っかかっているときか)によって財政再建の効果は異なってくるか、という問題は常に重要であり続けている。長期的には財政再建をしたいとしても、財政再建は緊縮的政策であり、一時的には経済活動(GDP)が低下することとなる。そうであれば、できるだけ経済活動への悪影響が小さい手段、時期を選びたいからだ。

今回簡単に紹介する彼らのペーパーは、クロスカントリーデータ(たくさんの国の時系列データ)を用いて、財政再建がGDPに与える効果をVARを使って分析したものである。具体的には、彼らは、16のOECD諸国(オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、UK、US)の1981-2014年のデータを使って、財政再建のGDPに与える効果を、手段別(増税か支出削減か)および時期別(不況期か好況期か)に推定した。また、ゼロ金利制約の時期でその推定値が異なるかも検討してみた。また、ちょっとテクニカルになるが、彼らは、政府による政策の発表を持って「財政再建」が行われたとした。その結果は以下のグラフにまとめられる。

  1. GDPの1%に相当する財政再建を行った場合、増税によって行うか、支出削減によって行うかによって、GDPへの影響は大きく異なる。支出の切り下げで財政再建を行った場合のGDPへの影響は小さい(青い線、0.5%以下)一方、増税によって財政再建を行うとGDPへの影響は大きい(黒い線、1%以上)。
  2. 財政再建をいつ行うかは財政再建がGDPに与える影響に大きく影響しない。上のグラフでは、濃い線が好況期に財政再建を行った場合、薄い戦が不況期に財政再建を行った場合であるが、両者は近い。
  3. ちょっと驚くべきことかもしれないが、不況期に財政再建を行った方が、GDPに対する負の影響は小さい。但し、この点に関して、著者らは、GDPへの影響と厚生(幸福度)への影響をごっちゃにしないようにと言っている。GDPへの影響は小さくても、経済厚生をみると、不況期の財政再建のほうが負の影響が大きいことは十分に考えられる。
  4. ゼロ金利制約が財政再建のGDPへの効果に影響を与えるかについては、ゼロ金利の期間が短いので、綿密な分析はできないが、上の分析において、ゼロ金利制約に引っかかっていた国・期間をはずして推定を行っても、結果は大きく変らない。このことは、ゼロ金利であるか否かは、財政再建のGDPへの効果に大きな影響を与えないことを示唆している。
一つ注意書きを書いておくと、これをみて、やっぱり消費税増税による財政再建は間違っているんだ、と短絡的に考えないようにして欲しい(そう考える人は多い)。日本の場合、そもそも、支出削減による財政再建をしようとしても削るところがないかもしれないからだ。最近は特に、社会保障制度(生活保護等)をより充実させるべきとか、子供に関する政府の支出(保育所、学校等)を拡大するべきとかいう考えが広まっているようなので、支出を減らそうと言う方向にはないようにみえる。そういう中で財政再建も行っていこうとすると、GDPへの影響は比較的大きいかもしれないが、増税に頼るしかないともいえる。著者らの議論とも重なるが、GDPへの影響と経済厚生への影響はまったく異なっている。必要なのは、直近のGDPへの影響だけ見て騒ぐことではなく、長期的に支出と課税をどのようなバランスで、長期的に実行可能なプランで行うかという大枠の議論だと思う。

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