以前のポストで触れた阪大社研DP(ディスカッションペーパー)についてTwitterで意見を求めている。注目しているのは、日本のトップの国立大学の経済学部において、所属する教員の2005-2015年の10年間にトップ200のジャーナルにパブリッシュされた論文数の中間値をとるとゼロである、つまり半分以上の教員は過去10年にトップ200のジャーナルにひとつもパブリッシュできていないという事実である。ブログ記事でも触れたが、半分以上の人が過去10年に1本はパブリッシュしている機関は大阪大学の社会経済研究所(このDPを書いたところ)と京都大学の経済研究所だけである。トップ200のほとんどはかなり細分化された分野のジャーナルを含むのであまり知識が広くない僕なんて多分聞いたことないジャーナルがほとんどだと思う。
この理由については、いくつか考えられる。いくつかを挙げてみよう。
- 昔は英文のジャーナルへのパブリケーションが求められていなかったので、昔の人はあまりそういう業績を出そうとしてこなかった。
- アジアも含む海外の方が研究環境が圧倒的によいので、欧米のトップスクールでPh.D.をとった場合、若くて生産的な時期は海外で過ごして、生産性が衰えてきたころに日本に戻るパターンが多い。
- 従来の日本では、(国際)ジャーナルにパブリッシュせず、政策に直結する仕事をする人が出世してきた。
- 日本の研究環境が劣悪なので、海外であればパブリッシュできる生産的な人も日本ではパブリッシュできていない。
- 経済学部にはマルクス経済学(あるいは経済史)の人が多く在籍しており、そういう人たちは英語のジャーナルに載せる文化ではない。
- 経済学部に在籍する経営学(マーケティング、会計等も含む)の人も(日本では)国際ジャーナルにパブリッシュする文化ではない。
経済学部(あるいは他の学部)を改革するか、そしてどのように改革するかを考える際には、パブリッシュされていない理由は何か、そして、実際パブリケーションを重視する方向に移行するのか、などを考えなければならないが、これ自体も難しい問題である。
日本の経済学部で何が起こっているかを知るひとつの材料として、東京大学の経済学部がどのような構成になっているかを見てみた。何で東大を選んだかというと、日本のトップの大学であること、そして、日本の大学の特徴を考える上で典型的な学部かなと思ったからである。それに、分析というほどのことはしていないにしても、HPに載ってる人をひとりづつ見ていくのは東大だけでも大変であった。社研DPの作成に携わった人々の労力に敬意を表したい。
まずは、誰を含むかだけれども、そもそものモチベーションが社研DPなので社研DPにあわせることにした。社研DPでは、研究に特化できる環境にあるかもしれない助教ははずしているので、ここでもはずすことにした。経済学部がメインの所属ではない(と思われる)人も社研DPにあわせてはずしてある。社研DPでは、専任講師以上を含むとあるが、東京大学のHPでは「講師」と「特任講師」がある。この二つの役職が何を意味しているのか僕にはよくわかんないのだけれども、「講師」は含めて、「特任講師」は外すことにしてみた。その結果、経済学部の人数は64人であった。社研DPでは60人となっているので、もしかしたら講師とかをどうするかの判断が間違っているのかもしれない。もしそうだったら誰か教えて欲しい。
更に、社研DPではトップ200のジャーナルに過去10年にいくつパブリッシュしたかをみているが、そんなの見るのは時間がないので、とりあえずは、国際ジャーナルに載せているかは安田さんのリストに載っているかで判断した。
では、ちょっと数字を見ていこう。まずは64人の分野および役職による内訳。分野は教員一覧に記載されていればそれを、そうでない場合はgoogleで検索して出てきたページを元に決めた。その上で、分野は「近経」、「経営」、「歴史」、の3つに分類した。「経営」は、経営学、ファイナンス、会計学を含む。アメリカであればいわゆるビジネススクールに所属する分野である。「歴史」は分野の名前に歴史が含まれるもの、およびマルクス経済学はここに入れた。「近経」はそれ以外である。財政学(僕の印象では、自分の分野を「財政学」と呼ぶ人は、アカデミックなジャーナルにパブリッシュするよりも政策に直結した研究を行っている人が多いように思われる)はここに含まれる。ちなみに、教員のリストはこのポストの最後に載せてある。名前は書いていないけれども、基本的に教員一覧と同じあいうえお順なので、その気になればすぐに誰が誰かわかるようにしてある。間違い等があったら教えてくれるとうれしい。
では、上の表のそれぞれのセルにおいて、国際ジャーナルにそれなりにパブリッシュしている人の割合はどのくらいかを見たのが以下の表である。上で書いたとおり、国際ジャーナルにパブリッシュしているかどうかの判断は安田さんのリストに全面的に依存した。以前のポストで触れたが、安田さんのリストに載る規準は彼の判断した「一流誌」35誌に2本以上載せていることである。彼の「一流誌」35誌は、社研DPのトップ20の25誌とは異なるが、オーバーラップも多い。また、河野議員が注目した論文の出版数の中間値では、トップ200のジャーナルにパブリッシュした本数であるが、東大のようなトップの学校の研究者であれば、基本的に安田さんの「一流誌」35誌位にしか載せないのではないかと思う。更に、安田さんのリストは過去10年ではなく、キャリアを通した数字なので、過去に多くパブリッシュしても過去10年にはパブリッシュしてないケースはここでは把握できない。もちろん、キャリアの浅い若手についてはあまり違いは生み出されない。この3つが安田さんのリストと社研DPのリストとの主な違いである。
では、内訳を見てみると、教授では41人中21人が安田さんのリストに載っている。つまり、約半分の人が国際ジャーナルに2本以上載せている。更に、国際ジャーナルにパブリッシュことが(最近は)重要である「近経」に限ると、その割合は26人中20人(77%)まで上がる。逆に経営系では8人の教授で安田さんのリストに載っている人はゼロ、歴史系では7人中1人である。安田さんのリストは経済学のジャーナルに基づいているので、経営系については驚くべきことではないだろう(とはいえJournal of FinanceとJournal of Financial Economicsは含まれている)。准教授では、全体で11人中4人が安田さんのリストに載っている。教授の割合(約半分)よりちょっと低めである。分野別に見ても「近経」が6人中4人、その他の分野はゼロ人である。講師で見ると、12人中リストに載っているのは1人だけ。これは、講師の人たちはまだキャリアの序盤なので論文がたまっていないことが主要な理由であると考えられるだろう。特に、経済学の論文はレビューに時間がかかることが指摘されているので、(最初からパブリッシュしまくるスーパースターを除けば)論文が最初たまってくるまでにちょっと時間がかかることも影響しているかもしれない。
ちなみに、安田さんのリストでは、2本以上載せた人、5本以上載せた人、10本以上載せた人が区別できる。その区別をしたのが以下の表である。
以下が元データ(名前は載せていない)である。参考まで。
(追記1:2017年1月16日)@D_A_worksさんから数字が少し間違っていることを指摘され、修正。ありがとうございます!それに幾分加筆した。とはいえ、全体的なメッセージには影響はない。
(追記2:2017年1月16日)@nii_tsukuさんより、リストの20の方は既に東大から移動しているとの指摘を受けた。ありがとうございます!但し、一人ひとりチェックするのは大変なので、東大経済学部がホームページに記載している教員一覧に基づくこととており、おそらくはそのリストがアップデートされていなかったことによると思われる。
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