家計レベルの消費を記録しているデータセットで最も広く使われているCEのデータを何も加工せずに使うと、1980年以来、所得の不平等の度合い(不平等の度合いを測る指標として上位10%の所得と下位10%の所得の比を使う)は大きく上昇した(36%)にもかかわらず、消費の不平等の度合いの上昇度は小さい(16%)ことがわかっている。
このような状況下、前回のポストでは、CEのデータを改善すると、消費の不平等の上昇度(30%)は所得の不平等の度合いに比べて上昇度が低いことはないという結論になるというAERのペーパーを紹介した。
ところが、NBERの最新のペーパー("Consumption and Income Inequality in the U.S. since the 1960s")で、MeyerとSullivanは別の方法でCEのデータを改善すると、やっぱり消費の不平等の上昇度は所得の不平等の上昇度に比べて小さいということを報告しているので紹介する。結局、消費の不平等の上昇度合いがどのように変化したかということについては、明確な結論はまだ出ていないのだろう。
いくつかのグラフを彼らのペーパーから転載する。上のグラフは、所得の不平等の変化を示している。不平等の度合いは、上位10%の所得と下位10%の所得の比(90/10比)であらわされている。税引き前の所得(ピンク色)も、税引き後の所得(えんじ色)も、1962年から2014年の間に大きく上昇している。彼らの計算によると、所得の不平等の度合いは29%上昇した。
次は、消費の不平等の度合いの変化を示したグラフである。加工していないデータは茶色、彼らが改善したデータは緑で示されている。レベルは違うものの、どちらも、1960年から2014年の間にあまり上昇していないことがわかるであろう。所得の不平等(紫色)の上昇度に比べたら変化はとても小さい。彼らによると消費の不平等は7%しか上昇していない。
では、前回のペーパーとどのように異なるのか?前回のデーパーでは、エンゲル曲線を使って家計レベルの総消費額のデータを計算した。今回のペーパーでは、常によく把握されているカテゴリーだけに注目し、よいデータであるカテゴリーから各家計の総消費額を逆算して各家計の総消費額を計算している。言い換えると、彼らによると、常によく把握されているカテゴリーの消費額の動きは、加工していない総消費額の動きとあまり変わらないということである。
では、所得の不平等と消費の不平等の動きはどうして連動していないのか?その問いに答えるため、彼らは、所得と消費の不平等の動きを、家計のタイプ別に計算した。上のグラフは、家計のタイプ別の所得の不平等の変化である。見やすくするために、全ての家計タイプの所得の不平等を1980年時点でゼロに基準化している。これを見ると、全ての家計タイプで、所得の不平等は高まっているが、高まり度合いは、独身の家計(濃い青および薄緑)で大きく、結婚している家計(紫および赤)および退職している家計(薄い青)で小さい。
最後に、消費の不平等の動きはこれらの異なる家計のタイプでどう異なるかを示しているグラフである。所得のグラフと同じように、消費の不平等の度合いはグループごとに1980年のレベルをゼロと基準化している。面白いのは、結婚している家計および退職した家計では、消費の不平等は所得の不平等ほどではないもの順調に上昇している一方、独身の家計の消費の不平等は所得の不平等の上昇傾向とは逆に低下傾向にあるという点である。著者らはこのことについて、(消費ではなく!)所得のデータが、独身の家計の所得をうまく把握できていないのではないかと推測している。
上で書いたとおり、消費の不平等がどのように変化したかについてはまだ決着はついていないのかもしれない。今後よりよいデータやよりよいデータの補完方法が出てくるのであろう。
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