Monday, February 27, 2017

Modeling Premium Friday, Part 1

前回のポストで、リバイズを進めるために新しい論文をほとんど読まないようにしているといってみたものの、ちょっと時間を食うことをやってしまった。

今回は、簡単なモデルで、プレミアムフライデーの効果を見てみたい。プレミアムフライデーというのは、毎月の最終金曜日に、皆がちょっと早く帰れる(例えば午後3時退社と書いてある)ように推奨することによって、余暇に使う時間を増やし、消費も刺激できるのではというアイデアである。

今回のポストを書くきっかけとなったのは、江口さんのこのようなtwitterでの発言である。

「プレミアムフライデーでGDPがどうなるかで、日本の低成長の原因が需要要因か供給要因かが分かるかも。供給要因なら労働時間減少でGDP下がるし、需要要因なら消費拡大(消費と余暇が補完的なら)してGDPが上がるはず。逆に言えば需要要因かつ消費と余暇が補完的でない限り景気拡大効果はない。」

とても面白い視点だと思ったんだけど、まずは、プレミアムフライデーのマクロ経済への効果をどういう風に考えたらいいのかな、と考え込んでしまったので、まずは、とても簡単なモデルからはじめてみようと思い立った。とりあえずは、「日本の低成長の原因が需要側なのか供給側なのか」という質問にどうリンクさせるかまでは思いつかなかったのだけれども、手始めとして、「需要側」を重視したメカニズムと「供給側」を重視したメカニズムで、どのようにプレミアムフライデーの効果が異なるかを考えて見たい。

では、どうやってプレミアムフライデーをモデルに取り込むかであるが、次のような入れ方を考えてみた。

  1. 「需要側」:これまでは、月末の金曜日の午後には皆オフィスにいつつも何も生み出していなかったと仮定する。もちろんこれはかなり単純化した非現実的な仮定なんだけれども、ちょっとくらい労働時間が減少しても(生産に役立つ)労働供給は変らないというアイデアを簡単に取り込むにはこういう仮定でいいのかなと思い立った。もし、これはおかしいとか、もっと良い入れ方があるという方がいたら、教えて欲しい。下のモデルでは、ラムダが無駄な時間を示す。このような状況では、プレミアムフライデーというのは、そもそも浪費されていた時間を余暇(あるいは労働)に開放すると考えられる。
  2. 「供給側」:プレミアムフライデーは、労働時間に関する制約と考える。これも、かなり単純化した仮定である。極端ではあるが、プレミアムフライデーは労働者が働く時間を強制的に減らすものと考える。

「供給側」についてちょっとコメントしておくと、もし労働者が月末の金曜日の午後に長く働けない分他の日により長く働くことができれば、プレミアムフライデーの効果は単に、働く時間が月末金曜の午後から他の日にシフトするだけである。残業代がかかるから雇用する企業にとってはコストが高まると考える人もいるだろうが、それは、単に、(残業時でない)平時の給料を下げることで対応できる。つまり、この考え方をとると、月ごとの総労働時間は変らず、平時の給料は下がる(が賃金収入の合計は変らない)と考えられる。マクロ経済(GDP、消費、投資等)への効果はない。これではあまり面白くないので、「供給側」チャンネルはもっと強いものとしてモデル化してみることにした。

基本モデルは成長のトレンドを除去した新古典派成長モデル(Neoclassical Growth Model)である。このモデルでは、定常状態であれば、GDP、消費、投資、資本は、一定のレベルで変らない。この状態は、これらのマクロ変数が一定の成長率(例えば年率2%)で成長していることを意味する(けどモデルでは定率の経済成長を単純化のために除去している)ので勘違いしないで欲しい。新古典派成長モデルという名前は、内生的成長モデルと対応しており、定常状態での成長率が外生的に決まってくるモデルをさす。

では、モデルを構成する式を挙げておく。並べただけで、あまり厳密にモデルを書いていない(例えば、代表的個人に関する変数とマクロの変数を区別していない)が、許して欲しい。
式(1)は、効用関数である。消費と余暇から効用が得られ、log-logの形式をとっているので、余暇が増えれば消費も増える。Lは最大労働時間、ラムダは上で書いた、「オフィスで過ごす無駄な時間」である。「供給側」のモデルの場合、ラムダはゼロにする(このチャンネルは使わない)。

式(2)は労働時間に関する制約である。「供給側」モデルでは、プレミアムフライデーはこの上限値が引き下げられると仮定する。

式(3)は消費者の予算制約である。消費者は労働時間あたりwの賃金を受け取る。貯蓄に対しては年率rの利子が得られる。

式(4)は資本の蓄積がどのように起こるかを示している。資本は年率デルタの割合で磨耗し、投資iをすることで増やすことができる。

式(5)は生産が消費あるいは投資に使われるという、マクロレベルの資源制約を示している。

最後に、式(6)は、生産関数である。上に書いたとおり、簡略化のため生産性(z = TFP)は一定としておくが、一定の率で成長すると仮定してもモデルの挙動は基本的には変らない。生産には資本(k)と労働(l)が用いられる。また、これも通常の仮定であるが、コブ・ダグラス型の一次同次の生産関数である。

ちょっと特別な仮定は、生産関数にcが入っていることである。通常のモデルであればこれはない(オメガ=0)。この仮定は、総消費が増加すると生産活動が刺激されるという、需要側のチャンネルを簡単に(ニューケインジアンモデルのように名目価格の硬直性を入れずに)入れるためのトリックで、最近のDirk KruegerのHandbook Chapterで使われていた。但し、この仮定はあまり標準的ではないので、以下では、オメガがゼロのケースも示す。オメガがゼロでないケースをオメガがゼロのケースと比べると、総需要チャンネルも考慮するとプレミアムフライデーの効果がどのように変ってくるかを見ることができる。

以下の表に、パラメーターの値を示す。1期間は1年で、全てのパラメーターはとても標準的なものである。
ベータの値は最初の定常状態で実質金利が年率4%になるように選んだ。資本の減耗率は年率8%、生産における資本の重要度は0.36、この辺はスタンダードな値である。オメガは、上に書いたとおり、総需要効果を考慮しないケースではゼロ、考慮したケースではKrudgerが使った数字(0.3)にしてみた。労働、あるいは余暇に使える時間の合計は1週間に98時間とした。1日あたり14時間である。ミューは、週当たりの労働時間が、プレミアムフライデー実施前に40時間(一日8時間)となるようにセットした。異なるモデルに同じターゲットを適用しているので、2つのモデルではミューの値が多少ではあるが異なっている。

「需要側」のモデルでは、プレミアムフライデー実施前(2016年まで)はラムダが1(1週間当たり1時間は無駄になっている)であるのが、プレミアムフライデー実施(2017年以降)によってゼロになると仮定する。週当たり1時間というのは、1ヶ月で4時間、つまり、月末の金曜日は午後に完全に休めるという仮定である。実際の時間(午後3時帰宅)よりはちょっと大きいが、金曜に残業している人とかを考えれば、それほど悪くない数字かと思う。もちろん、現実は全ての人がプレミアムフライデーの対象になるわけではないので、その意味では、このモデルでは、プレミアムフライデーの効果がかなり大きめ目に設定されている。

「供給側」のモデルでは、プレミアムフライデー実施前の週当たりの労働時間の上限は40時間であったものが、プレミアムフライデー実施によって39時間に引き下げられると仮定する。そもそもプレミアムフライデー実施前は、労働者は最適に40時間働いていると仮定しているので、この制約には引っかかっていない。そういう意味でも、プレミアムフライデーの影響が過大にモデル化されていると考えて欲しい。

では、今回は需要側のモデルの結果を示す。2016年まではプレミアムフライデーはなくて、経済は定常状態にあったものの、2017年に、急にプレミアムフライデーが実施され、プレミアムフライデーは永久に続くとする。期待は(2017年のプレミアムフライデー実施以外は)完全予見とする。ちょっとナーディーなコメントだが、モデルは、シューティング・アルゴリズムでもポリシー・イテレイションでも、価値関数イレテーションでも解けるが、労働が内生化されていて、消費が生産性に影響を与えるので、シューティング・アルゴリズムはちょっと難しかった。

上段のグラフはGDPと総消費、中断のグラフは総投資と週当たりの労働時間、下段のグラフは時間当たりの賃金と実質利子率を示している。2016年までは定常状態で、2017年以降は、プレミアムフライデーのある経済の定常状態にゆっくり収束していく。青い実線が、総需要チャンネルのないモデル、緑の点線が、総需要チャンネルのあるモデルである。GDP、総消費、総投資、賃金は、効果の大きさを見やすくするために最初の定常状態を1をしている。

「需要側」のモデルでは、プレミアムフライデーの効果は、余暇(あるいは労働)に使える時間が週当たり1時間増えた考えられる。それを反映して、労働時間は2017年に急に減少するが、39時間までは低下しない。それは、経済が刺激されて、生産を増やすために、労働時間も(39時間から)増えるからである。一つの解釈としては、オフィスの人の余暇が1時間増えた分、より多くの人がレストランに行くので、レストランは人を増やさなければならないというものだ(もちろんモデルは代表的個人を仮定しているので実際にはそういうことは起こっていない)。

GDPや総消費は順調に増加し、新しい定常状態では、総需要効果を考慮しなければ1%、総需要効果も考慮すると1.9%増加する。総需要効果がなければ2017年に経済成長率が押し上げられた後はほぼ経済成長へのの効果はないんだけれども、総需要効果を加味すると、成長率の押し上げは(低減していくけれども)30年程度続く。このパラメーター設定では総需要効果はかなり大きいことがわかる。新しい生産量を維持するために投資も同じ割合で増加する。

プレミアムフライデー実施当初は、労働供給に対して相対的に資本が不足するので、金利が0.1%程度上昇するが、新しい定常状態ではまた4%に戻る。賃金は、総需要チャンネルのないスタンダードなモデルであれば、資本の不足を反映して最初は下がるものの、定常状態では元のレベルに戻る。面白いのは総需要チャンネルがあるモデルの場合で、新しい定常状態では消費のレベルが高いので、賃金は前のモデルと同じく当初は一旦低下した後で、高い水準に収束していく。最終的には賃金は0.9%高いレベルに収束することとなる。

というわけで、「需要側」を重視したモデルでは、賃金は一時的に低下するものの、プレミアムフライデーの効果は総じて景気刺激的である。次回は、「供給側」を重視したモデルではどうなるか、を見ていくことにする。

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