もう何度も同じことを言っているけれども、もう少し短い(そして簡単にかける)ポストを増やすことで、更新を維持しようと思う。
今回は、Cao and L'Huillierの新しいペーパー(Technological Revolutions and Debt Hangovers: Is There a Link?)について簡単に触れる。このペーパーのモチベーションになっているのは、アメリカのGreat Depression(大恐慌)期、最近のGreat Recession期、そして日本の1990年代の不況期に共通しているのは、景気が後退する前に技術革新が活発な時期があり、民間の債務が増加したということである。このような動きをDSGEモデルで再現できるかやってみたというのがこのペーパーである。
具体的には、以下のようなメカニズムが想定されている。経済は技術革新が活発になることによって長期的な経済成長率が上がることもあるが、成長率が一時的に上昇することもあり、経済主体(主に消費者の話なので以下では消費者と呼ぶ)は、経済成長が起こっているときに、これは長期的な経済成長率が上がったからなのか、短期的に経済が好調なだけなのかを識別できない。よって、消費者は、高い経済成長が続けば、経済成長率が長期的に高まったという確信をだんだん深めていくことになる(専門的な説明のしかたをすればカルマンフィルターを使って長期的な経済成長率に関する確信の度合いをアップデートしていく)。消費者は経済成長率についてゆっくりと学んでいくので、経済成長率の変化に対する消費者の反応はゆっくりとしたものになる。
このようなモデルにおいて、まずは大規模な技術革新が起きて長期的な経済成長率が高まったとしよう。消費者はそのことについてゆっくりと学んでいき、だんだん消費を増やし、債務を増やしていく(長期的な成長率が高いとわかっていれば将来の所得を前倒しして消費するのが最適だからだ)。日本で言えばこれが1980年代前半までである。1980年代の後半に経済成長が鈍化しても、消費者はそのことに気づくのに時間がかかるので、消費は簡単には減らず、債務はしばらく蓄積され続ける。その後、消費者が経済成長の鈍化に気づくと、消費はだんだんと下がっていく。債務残高は経済成長の鈍化に気づいた時点でずいぶん積み上がっており、債務の削減には時間がかかる。
ちなみに、著者らは、Debt Hangover(債務の過剰蓄積)が 景気後退を引き起こす可能性について言及しているが、このモデルでは、債務から景気循環へのフォードバックは全然(あるいはほとんど)ないように見える。
ペーパーでは主にGreat Recession近辺のアメリカの例が挙げられているので、その結果をちょっと見てみよう。
上のグラフが、Great Recessionあたりのアメリカの例を使って推定されたモデルの挙動を示している。(黒の)点線は実際の長期的な経済成長率である。Great Recessionの始まるずいぶん前から経済成長のスピードは落ちていることが見て取れる。それに対して(青の)実線は、消費者が考えている長期的な経済成長率を示している。まずは、実践は点線とずいぶん違う動きをしている(実践の方がずいぶんスムーズ)ことがわかるであろう。消費者は実際の長期的な経済成長率の動きをすぐには認識できないからである。下のグラフは、経済予測の専門家による6-10年先のGDP成長率の予測を示している。形状は青の実線と近いことがわかるであろう。つまり、モデルにおける消費者が考える長期的な経済成長率と実際に予測されている長期的な経済成長率の動きが似ているということで、著者らは彼らのモデルを支持する証拠として取り上げている。
このようなモデルでは、消費の動きは経済成長率の動きに比べて非常にスムーズなものになる。上は、日本の経済生産性を民間消費で割ったものである。1990年ごろまでは生産性が消費に比べてずいぶん高いものの、1995年以降は、消費の方が生産性に比べて高くなっている。2000年を過ぎたあたりから、経済成長のスピードは回復しつつあると見ることもできる(もちろんこの後で震災などがあるのだが)。
著者らは、Great Recession期の金融政策などを分析するためにこのフレームワークにゼロ金利を加えるようなことも言及しているが、学習も入ったモデルが比較的簡単に解ける(その上ショックの推定も行っている)のはモデルを線形化して解いているからなので、非線形モデルで同じような分析を行うのはとても難しいだろう。
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