How to Analyze the Current Policy Options in Japan, Part 2

第1回に続いて、政府が提案している経済政策の変更(消費税率を2%上げる際に全部を公的年金に使うのをやめて、1%を幼児教育無償化等に使う)を、簡単なモデルを使って分析するために、一歩一歩進んでいく。

前回は、どのような効果を取り入れたいかを考えてみた。今回は、モデルの構築に入ろうかと思ったが、その前に、データについてちょっと書いてみる。モデルをつかって意味のあるシミュレーションをするためには、モデルが大まかではあっても日本経済の特徴を表現していなければならない。ただ、現実は複雑なので、モデルが表現できる現実の側面は限られている。そこで、まずは、日本経済のデータをちょっと見てみて、どのようにモデルに取り込むかについて考えてみた。主に、政府の活動に関するデータについて書くつもりである。恥ずかしながら、日本政府の活動の大きさについて、あまり知らなかった。まだ、いろいろ間違いがあるかもしれないが、勉強の経過の記録として読んでもらえればうれしい。

今は2017年の途中であるが、2016年のデータはまだああまりきちんと整備されていないようなので、2015年のデータを見ていく。時々、過去はどうであったかについても触れる。

まずはGDP(国内総生産)から。2015年の名目GDPは530兆円であった。数字があまりに大きすぎて、直感的にわかりづらいので、これ以降は対GDP比で示していく。そうすると後でモデルにも対応させやすい。GDPの支出面での内訳を見ると、民間消費(C)は56.6%、政府の消費(G、政府による投資も含む)は19.9%、民間投資(I、在庫調整も含むが小さい)は23.9%、純輸出(NX)は-0%である。閉鎖経済モデルを使う時には、NXをどうするかという問題がいつもあるが、都合のいいことに、2015年は純輸出がほぼゼロなので、調整の必要がない。ラッキーである。もちろん、定義上、これらを合計すると支出面から見たGDP(100%)になる。

時々、日本政府の大きさは経済規模(GDP)の20%という表現を見かけるが、それはこの19.9%から来ているのではと思う。GがGDPに占める比率は年々大きくなってきている。1995年には15.4%、2005年は18.1%であった。ちょっと前のペーパーを見ると、GがGDPの15%としてカリブレートされているケースを見かけるが、ここから来ているのではと推測する。

ただ、GDPのデータをよく見てみると、「修正版」のCとGも記載されている。2015年でいえば、修正されたCはGDPの68.6%、修正されたGは7.8%である。最初にあげた数字とずいぶん違うが、これはなぜか?これは何を政府の消費(G)に含めるかという問題と関連している。修正していないG(GDPの19.9%)には、国防とかインフラ投資といった、まぁ、Gと考えるのがどう考えても適当だろうと思われるものから、教育への支出、医療への支出、社会保障関連費(失業保険、年金、障がい保険等)のように、最終的には個々の消費者が消費するものだから民間消費に入れるのが適切ではと思われるものも含まれているのである。特に、公的年金については、一般予算から公的年金に補填された金額がGに加えられているみたいだ。これらを政府の消費(G)と考えるか、民間の消費(C)と考えるかは、クリアな話ではなくて、何を分析したいかによるのではないかと思う。上で言及した「修正版」では、教育、医療、社会保障関連費をすべて民間の消費に移しかえたものなので、Cがかなり大きくなって、Gがかなり小さくなっているのである。

とりあえず、今回の分析で注目しているのは年金なので、モデルと付き合わせるときには、広義のG(GDPの19.9%)から公的年金に関連する部分だけをCに移そうと思う。Gのうち年金関連はGDPの1.9%なので、この調整後は政府の消費(G)は17.9%となり、民間の消費(C)は58.5%となる。しばしば、民間消費はGDPの60%というが、この数字と整合的だ。

では、一般政府(中央政府と地方政府の和)の支出と収入についてちょっと見ておこう。政府の支出はカレンダーイヤー(1月から12月)ではなくて、4月から3月であるがしょうがない。2015年(度)の予算規模は96.3兆円で、GDPの18.2%である。上で触れたGの数字とちょっと違うが、まぁ、予算だというのと、年度であるのと、いろいろ細かい調整がされているのであろう。財政収入を見ると、消費税からの収入は17.1兆円、財政規模の約18%、GDP比では3.2%である。その他の税収など(個人所得税、法人所得税、酒税など)はGDPの8.0%である。残りのGDP比で7.0%は新規の国債の発行に頼っているようだ。支出面で目に付くのは、既に存在する債務に関する支払いで、23.5兆円、予算規模の約1/4、GDP比では4.4%を占めている。ちなみに、既存の財務の支払いがGDPに占める大きさは2005年は3.5%であり、年々経済規模に比して大きくなっている。

ここまで「政府」としてきたものには、一般予算からの補填分を除いて、厚生年金や国民年金などの公的年金の活動が含まれていない。モデルでは、公的年金が重要な要素なので、公的年金が経済においてどのくらい大きいかを確認しておこう。いろいろな公的年金の年金受給額を合計すると、2015年は51兆円であった。GDPの約9.6%である。ちなみにこの数字は2005年には9.1%であり、高齢化が進み、退職世代の数が増えるにつれ、年金受給額の総額が経済規模に占める割合は大きくなってきている。2008年に世界同時不況が起こった際には、この数字が初めてGDPの10%を超えたことがニュースになったが、それ以降は、年金を受け取る世代の割合は着実に増えているが、再び10%以下のレベルに落ち着いている。

このGDP比9.6%はどのようにファイナンスされているか?働いている世代が払う拠出金の合計は2015年は33.8兆円であり、公的年金総受給額の約2/3、GDP比は6.4%である。年金は、働いている世代が払った拠出金を退職した世代に渡すというシンプルな構造が一番簡単だが、それでは、現在の日本の場合、働いている世代からあと50%多く取るか、あるいは、退職した世代の受け取る受給額を1/3カットしなければ成り立たないので、一般財政(消費税などの普通の税金)から差額が補填されている。まぁ、お金に色はないので、どこから出してもあまり気にすることはない。消費税がこの補填に役立っているが、労働に不のインセンティブを与える労働所得税を消費税に置き換えるのは悪いアイデアではない。

公的年金のサイズ(GDP比で9.6%)を政府の消費(17.9%)に加えると、合計の政府の活動のサイズはGDP比で27.5%となる。更に、モデルと比較するために既存の債務の支払いの分(4.4%)も加えると政府の活動のサイズは32.0%となる。

更に、公的年金と並んで既に大きく、今後高齢化で更に大きくなっていくのは公的医療保険である。今回行おうと思っている分析では医療費・医療保険は捨象するが、簡単にサイズだけ確認しておこう。2015年の医療費の合計は42.4兆円、GDP比で8.0%である。このうち患者の自己負担分は約88%のようだ。この分も加えると、広義の政府の大きさはGDP比で39%となる。時々、日本の政府の財政規模はGDPの約40%という数字を見かけるが、この数字は、このように、公的年金、公的医療保険、その他(失業保険等)も含めたものかと思う。

次回は、モデルを紹介する。モデルのパラメータを設定する際に、ここで見てみた数字とできる限り整合的になるようにするので、ここで見た数字がまた出てくることになる。

How to Analyze the Current Policy Options in Japan, Part 1

日本では衆議院が解散され、総選挙がおこなわれるようだ。今度の選挙の重要な争点のひとつとして挙がっているのは、消費税が2019年10月に現行の8%から10%に引き上げられる際、その使い道として、これまでは社会保障の安定化(政府の借金の返済と読み替えているところも多いがそれでよいのかな)だったものを、その一部を幼児教育無償化などに振り替えることらしい。そもそも消費税率が引き上げられた際の新たな収入の使い道について、国民から了承を得ていたとは考えづらいのだけれども、そういうことらしい。そもそも、僕は日本の細かい政策オプションに通じているわけではないので、間違いも多いと思うので、細かいことなど、いろいろ指摘してもらえるとうれしい。

というわけで、簡単なマクロ経済学のモデルを使って、このような政策変更の効果を分析できないかと考えてみた。とはいえ、今回は、その取っ掛かりの部分を紹介するだけである。まだ、どうすればよいかというのは見えてきていないので、うまく行かないかもしれないけれども、数回にわたって試行錯誤してみる。いつものように途中で投げ出してしまうかもしれない。

まず、どのような政策を分析しようとしているのかについて考えてみよう。国の借金返済というのは、言い換えれば、将来の年金受給の原資として使うともいえるのだろうか。今のままでは大幅に債務の額を増やさずに今計画されている年金受給額を維持できないのであれば、消費税の増税によって将来の年金受給額を(あまり)減らさずに済むようにできるかもしれない。但し、将来のどの時点の年金受給額の補填に使うかははっきりしていない。もしかしたらそういう計画も示されているのかもしれないが、僕はまだ見ていない。もしすぐ近くの将来の年金受給額の補填に使うというのであれば、いわゆる、現在年金に貢献している比較的若い世代からもう退職した世代への所得移転と捉えることができるかもしれないが、もし、かなり先の将来の年金受給額の補填に使うというのであれば、もしかしたら、現在年金に貢献している比較的若い世代も恩恵をこうむるのかもしれない。但し、将来の年金関連政策は、不確実性の高い将来の経済状況に左右されるだろうし、将来誰が政権についているかによって変わりうる物なので、現在の政権が信用できるレベルでコミットできるようなものではないことから、きちんと政策をモデルに取り込むのは難しいなと感じている。

では、幼児教育無償化の方はどうか。こちらの方は、単純化すれば、幼児を持っていて、かつ私立などに入れる予定ではない(慶応の幼稚園とかに子供を通わせる費用が補助されるとは思えない)、おそらくは比較的低所得で中年の家計への補助金と考えればよいであろう。

但し、原資は消費税率の2%引き上げである。消費税は、(累進性の高い)所得税とは違って、誰にでも比較的同じような税率でかかるものなので、多くの家計に比較的「平等に」負担が生じる。結局、増税と、その使い道を同時に考えてみると、以下のように分類できるのではないだろうか。

1. 現在および近い将来退職する世代にとっては、政策変更前は、消費税増税の負の効果と、年金受給額への補填の正の効果のどちらが大きいかというのが問題であった。彼らは幼児を抱えていないとすると、今回の政策変更で、年金受給額への補填が小さくなるので、彼らはおそらく損をすることとなる。

2. 現在幼児を持っていて、比較的低所得の家計にとっては、政策変更前の消費税増税の効果は、消費税増税の負の効果と、将来の年金受給額への補填を通じた正の効果の比較であった。政策変更後は、将来の年金受給額への補填がおそらくは減る一方、幼児教育無償化を通じた補助金が増えることになる。おそらくは後者の効果の方が大きい、つまりプラスであろう。

3. 幼児がいるものの、高所得の家計への効果は、政策変更前は、消費税増税の負の効果と将来の年金受給額への補填を通じた正の効果の比較であった。政策変更に伴って、後者の正の効果が弱まるので、これらの家計は損をすることになる。

4. この政策が続くと仮定すると、現在幼児がいなくても、将来幼児を持つ可能性のある家計についても上の議論が当てはまる。但し、若い家計であれば、年金受給額への補填効果は弱いだろう。

5. まだ退職してなくて、将来にわたって幼児を持たない家計にとっての政策の効果は、退職者のグループと同じである。但し、幼児教育への補助金を通じた正の効果はない一方、若い家計であれば年金受給額補填の効果も弱いと考えられるので、政策変更の効果はあまりないと考えられる。

予想外に長くなってきたので、今日はここでやめておく。次回は分析に使えるかもしれないモデルを組んでみようと思う。

What Really Really Happened to Income and Consumption Inequality?

家計レベルの消費を記録しているデータセットで最も広く使われているCEのデータを何も加工せずに使うと、1980年以来、所得の不平等の度合い(不平等の度合いを測る指標として上位10%の所得と下位10%の所得の比を使う)は大きく上昇した(36%)にもかかわらず、消費の不平等の度合いの上昇度は小さい(16%)ことがわかっている。

このような状況下、前回のポストでは、CEのデータを改善すると、消費の不平等の上昇度(30%)は所得の不平等の度合いに比べて上昇度が低いことはないという結論になるというAERのペーパーを紹介した。

ところが、NBERの最新のペーパー("Consumption and Income Inequality in the U.S. since the 1960s")で、MeyerとSullivanは別の方法でCEのデータを改善すると、やっぱり消費の不平等の上昇度は所得の不平等の上昇度に比べて小さいということを報告しているので紹介する。結局、消費の不平等の上昇度合いがどのように変化したかということについては、明確な結論はまだ出ていないのだろう。

いくつかのグラフを彼らのペーパーから転載する。上のグラフは、所得の不平等の変化を示している。不平等の度合いは、上位10%の所得と下位10%の所得の比(90/10比)であらわされている。税引き前の所得(ピンク色)も、税引き後の所得(えんじ色)も、1962年から2014年の間に大きく上昇している。彼らの計算によると、所得の不平等の度合いは29%上昇した。

次は、消費の不平等の度合いの変化を示したグラフである。加工していないデータは茶色、彼らが改善したデータは緑で示されている。レベルは違うものの、どちらも、1960年から2014年の間にあまり上昇していないことがわかるであろう。所得の不平等(紫色)の上昇度に比べたら変化はとても小さい。彼らによると消費の不平等は7%しか上昇していない。

では、前回のペーパーとどのように異なるのか?前回のデーパーでは、エンゲル曲線を使って家計レベルの総消費額のデータを計算した。今回のペーパーでは、常によく把握されているカテゴリーだけに注目し、よいデータであるカテゴリーから各家計の総消費額を逆算して各家計の総消費額を計算している。言い換えると、彼らによると、常によく把握されているカテゴリーの消費額の動きは、加工していない総消費額の動きとあまり変わらないということである。

では、所得の不平等と消費の不平等の動きはどうして連動していないのか?その問いに答えるため、彼らは、所得と消費の不平等の動きを、家計のタイプ別に計算した。上のグラフは、家計のタイプ別の所得の不平等の変化である。見やすくするために、全ての家計タイプの所得の不平等を1980年時点でゼロに基準化している。これを見ると、全ての家計タイプで、所得の不平等は高まっているが、高まり度合いは、独身の家計(濃い青および薄緑)で大きく、結婚している家計(紫および赤)および退職している家計(薄い青)で小さい。

最後に、消費の不平等の動きはこれらの異なる家計のタイプでどう異なるかを示しているグラフである。所得のグラフと同じように、消費の不平等の度合いはグループごとに1980年のレベルをゼロと基準化している。面白いのは、結婚している家計および退職した家計では、消費の不平等は所得の不平等ほどではないもの順調に上昇している一方、独身の家計の消費の不平等は所得の不平等の上昇傾向とは逆に低下傾向にあるという点である。著者らはこのことについて、(消費ではなく!)所得のデータが、独身の家計の所得をうまく把握できていないのではないかと推測している。

上で書いたとおり、消費の不平等がどのように変化したかについてはまだ決着はついていないのかもしれない。今後よりよいデータやよりよいデータの補完方法が出てくるのであろう。

What Happened to Income and Consumption Inequality?

今回は、簡単に、Aguiar and Bilsによる2015年のAERのペーパー("Has Consumption Inequality Mirrored Income Inequality?")について触れてみる。まずは背景から。アメリカを始めとして、多くの先進国で、所得の不平等が1970年以来高まっていることはよく知られている。2010年には、REDが、主要な先進国で所得の不平等がどのように変化したかという研究を集めた特集号を出版した。

但し、最終的に重要なのは厚生(幸福度)の不平等であって、所得の不平等が厚生の不平等に直結しているとは限らない。まずは、「所得」といった場合に、「税や補助金等を考慮する前の所得」を指すと考えよう。このような所得を「税引き前所得」と呼び、税や補助金を考慮した後の所得を「税引き後所得」と呼ぶ。この場合、税引き前所得が不平等であったとしても、政府が所得の高い人に高い税を課し、所得の低い人には低い税と多くの補助金を与えれば、税引き後所得の不平等はあまり大きくない可能性もある。但し、アメリカを始め多くの国で、税引き後所得も高い水準にあり、1970年以来更に高まっていることがわかっている。

加えて、重要なのは消費の不平等の度合いである。極端な話、全ての人がリスクを嫌い、生まれる前は同じ所得の可能性を持っており、市場の失敗がなければ、生まれる前から所得が高くなった人から所得が低くなった人へ所得を移転する契約を結ぶことができ、このような所得移転の結果、所得の不平等は存在しても、消費の不平等はまったく存在しないということが理論的には考えられる。ここまで極端ではなくても、人々が貯蓄を持っていて、短期的な所得の変動を貯蓄で補う(所得が高いときには貯蓄を増やして、所得が低いときには貯蓄を切り崩す)ことができれば、消費額の不平等は(税引き後の)所得の不平等に比べて小さいことが期待される。消費の不平等の度合いは厚生の不平等の度合いに直結するので、本当に重要なのは消費の不平等がどのくらい大きいか、あるいは上昇してきたか、ということなのだが、消費のデータは所得のデータに比べてよくはない。

もちろん、こういった背景を元に、所得の不平等に関する研究は理論・実証の両面で行われてきている。有名なペーパーとして、Krueger and Perriによる、2006年のREStud論文がある。この論文で、彼らは、1980年から2004年の間に、所得の不平等の度合い(不平等の度合いを測る指標として上位10%の所得と下位10%の所得の比を使うが、他の指標でもメッセージはあまり変わらない)は36%上昇したが、消費の不平等の度合いは16%しか上昇しなかったと計算した。つまり所得の不平等の上昇は、本当に重要な消費、あるいは厚生の不平等よりずっと大きく、所得の不平等の上昇をもとに厚生の不平等も大きく上昇したと自動的に考えるのは間違っているということである。

上のグラフは、Aguiar and Bilsがアメリカについて計算したものである。グラフでは、労働所得(サラリーとボーナスだけ、金利収入とかは含まれない)、税引き前の所得、税引き後の所得、および消費の不平等の度合いが、1980年から2010年の間にどのように変化したかを示している。所得に関する不平等の度合いは軒並み上昇する一方、消費の不平等の度合いはあまり上がっていないことがわかるであろう。

このことは、ちょっと不自然に感じられるかもしれない。Krueger and Perriの論文が流行った理由のひとつは、重要なデータの動きが直感と異なっていたからだと思う。普通に考えれば、所得の不平等の度合いが上昇すれば、消費(および厚生)の不平等の度合いも上昇するのが自然であろう。だから、所得の不平等の度合いが、厚生の不平等の度合いを測るのに使われているのである。

Krueger and Perriは、なぜ消費の不平等が所得の不平等ほど上昇しないということが起こりうるかというメカニズムも提示した。所得の不平等が高まるということは、高い所得になるチャンスも高まるが、低い所得になるリスクも高まるということである。リスク回避的な人々であれば、このような状況に直面して、これまでよりいっそう、所得の変動に対する保険を入手したくなるということになる。もし、人々が、低い所得を非常に避けたければ、所得の変動に対する保険をより手厚くするようになり、結果として、所得の不平等が上昇して、所得の変動リスクが上昇しても、保険が手厚くなった結果、消費の変動は小さくなることがありうるというのが、彼らの提示したメカニズムである。もちろん、この議論は、抽象化されたものであり、実際に人々が直接的に所得変動に対する保険を増やしたというデータはないような気がするが、所得の変動に対して(間接的な方法で)保険をかける方法はいろいろあり、このペーパーではどのような方法が用いられたかまでは踏み込んでいないが、別の方法で所得の変動に対する保険をかけていたとしても、彼らのメカニズムは当てはまる。 

このペーパーはとても評判を呼んだペーパーだが、それ以降、本当に消費の不平等は上がらなかったのか?ということは常々疑問が投げかけられてきた。その背景としては、以下の点が挙げられる。
  1. 消費の不平等を計算するには、様々な品目について家計ごとの消費額を毎年記録しているデータセットであるConsumer Expenditure Survey(CE)が使われる。特に、Krueger and Perriをはじめとして多くの研究では、各家計にインタビューを実施することによっていろいろな品目への消費額を記録した結果が使われてきた。インタビューは過去の消費額について聞くので、ちゃんと思い出しているかという問題が常に存在する。
  2. 特に、近年、CEのインタビューの結果を集計して計算された総消費額と、GDPの一部として計算される総消費額に大きな乖離が生じていることが問題視されている。1980-82年には、CEから計算された総消費額はGDPの一部の総消費額の86%と、まずまずの比率であったが、この数字は、2008-2010年には66%まで低下してた。CEのインタビューで記録される総消費額は(GDPの方が正しいとして)実際の総消費額のたった2/3しか把握していないのである。
  3. CEには、少数の家計に、何を買ったかを頻繁に記録してもらうことで各家計の消費行動を把握する日記方式のデータもあるが、日記方式のデータによると、消費の不平等はインタビュー形式のデータから計算されたものより、上昇度が高かった。
  4. 各家計の消費額を含むデータセットとしてはPanel Study of Income Dynamics (PSID)もあるが、1990年代までは食料への支出しか記録していないので、(食料だけでなく総)消費の不平等の研究にはあまり使われてこなかった。このような問題点に対して、最近のペーパーで、Attanasio, Hurst, and Pistaferriは、PSIDにおいて、各家計の食料だけでない総消費を推計し、その不平等の度合いの変化を計算すると、所得の不平等の上昇と同じようなスピードで上昇していることがわかった。
このような背景を元に、このペーパーでAguiar and Bilsがやったことは、所得の異なる家計の消費パターンの違いを使って、インタビュー形式のデータが補足し損ねているであろう消費を補完することで、CEのインタビュー形式のデータの改善版を作成し、このデータをもとに、消費の不平等がどのように変化したかを計算しなおしたというものである。彼らによると、消費の不平等は所得の不平等と同じくらい上昇した。具体的には、1980年から2010年の間に、彼らの作成したデータに基づく消費の不平等は30%程度上昇した。この数字は、CEのインタビュー形式の元データに基づく不平等の上昇の度合い(16%)よりかなり大きく、所得の不平等の上昇度合い(36%)ととても近い。ある意味、リーズナブルな結果であると言える。

最後に、Aguiar and Bilsがどのようにインタビュー形式のデータを補完したかについて簡単に述べておこう。彼らが使ったのは、所得が高い人と低い人の、消費パターンの違いである。ちょっと専門的な用語を使えば、エンゲル曲線を使ったとも言える。エンゲル係数はもしかしたら聞いたことがあるかもしれないので、エンゲル係数を使って説明してみよう。エンゲル係数というのは、所得の何割を食費に当てるかという数字である。この割合は、所得が上がれば上がるほど低くなることが知られている。所得が上がれば、食料以外のものをいろいろ買うようになるからだ。この係数は人々のそのほかのいろいろな特長によって変わってくる。では、ある人についてエンゲル係数がわかったとしよう。そうすると、その人の食料への支出額もわかれば、総支出額が逆算できる。食料への支出額をエンゲル係数で割ればよい。このようなプロセスを様々な消費カテゴリーについて行うことで、より信用できる総支出額が計算できるというわけだ。

もちろん、消費の不平等がとても重要なことは背景にあるのだけれども、このようなある意味データだけのペーパーがトップジャーナルであるAERに載るのは、最近のデータ重視の流れとも合致しており、望ましいことだと思う。REDの特集号では、多くの国について消費の不平等の上昇が所得の不平等の上昇より小さいことが報告されているが、他の国に対する同じような研究が今後出てきて、REDで報告された各国の結果が覆されていく可能性もあるかもしれない。

Rising Big Firms and Declining Labor Share

ここ20年程度、日本やアメリカを含む多くの国で、(メディアンという意味での)平均的な家計の所得があまり増えていないというようなことがいわれている。このことが、いわゆる「閉塞感」や「経済状況への不満」につながっているのかもしれない。一方、国の総所得(実質GDP)は過去ほどのスピードではないにしても、トレンドとしては増え続けている。

ではなぜ、国の総所得は増え続けているのに、平均的な家計の所得は増えていないのか?わかりやすくするために、国には生産性の異なる2人の労働者しかいないものとして、国の総所得を以下のように分けてみよう。

(0)国の総所得=(1)資本に配分される所得+(2)企業の利益+(3)生産性の高い労働者に配分される所得+(4)生産性の低い労働者に配分される所得

(1)は機械などを保有している人がその生産の対価として受け取る収入である。(4)が最初に書いた、平均的な家計の所得を捕捉している。また、(3)+(4)が総所得に占める割合は労働分配率(labor share of income)と呼ばれ、(1)が総所得に占める割合は資本分配率(capital share of income)と呼ばれる。このような分解をすると、総所得が増えているのに、平均的な家計の収入が増えていない理由は以下のように考えることができる。(A)労働分配率が低下している、(B)労働分配率は減っていなくても、生産性の高い労働者の取り分が増えている。今回は、なぜ労働分配率が低下しているかについて分析した最新のペーパー2つについて簡単に書いてみる。

Autor, Dorn, Katz, Patterson, Van Reenenは、最近のNBERワーキングパーパーとして出版された論文("The Fall of the Labor Share and the Rise of Superstar Firms")において、多くの先進国で労働分配率に何が起こったかを分析した。彼らによると、1982年から2012年の30年間で、労働分配率は67%から61%に低下した。大体カリブレーションを習うと、労働分配率をあらわすパラメーターは大体2/3と習うが、それが67%という数字に対応している。しかし、彼らによると、今では67%という数字から10%程度低下しているということになる。更に、彼らは、このような労働分配率の低下は全ての産業・企業で起こったのかという疑問に答えるため、企業レベルのマイクロデータを使って、労働分配率の過去30年の変化を分析した。彼らによると、各産業・企業の労働分配率はあまり変っていないけれども、労働分配率の低いスーパースター企業が経済に占めるしシェアが高まったことが、マクロで見た労働分配率の低下に貢献していることがわかった。彼らのスーパースター企業というのは、売り上げに占める利益の割合が高く賃金の割合が低い企業である。アップルのような企業を想像すればよいのかな。彼らによると様々な産業において、アップルのような、相対的に利益が大きく労働分配率の低い企業のマーケットシェアが高まってきたことで、マクロで見た労働分配率は下がってきているということである。

次の疑問は、このような変化はなぜ起きたかということである。彼らによると、このようなスーパースター企業のシェアの高まりは多く国で同時並行的に起きている。各国が同じようにスーパースター企業優遇政策をとってきたとは考えにくいことから、このような労働分配率の低下は政策の結果ではなく、おそらくは、スーパースター企業が1人勝ちすることを容易にした技術革新の結果であろうと分析している。但し、著者らは、このようなスーパースター企業を生じさせた原因が技術革新だとしても、大きなマーケットシェアを持つに至ったスーパースター企業がシェアを生かして競争を阻害することで、労働分配率の回復を妨げたり、あるいは更なる低下を生み出す可能性があることに警鐘を鳴らしている。

De LockerとEeckhoutは最新のNBERワーキングペーパー("The Rise of Market Power and the Macroeconomic Implications")において、アメリカの上場企業におけるマークアップ率(売値と減価の比率、大雑把には利益率と考えてもよい)の平均が1960年から2014年の間にどのように変化したかを計算した。彼らの採用した計算手法にはいろいろイシューがあるんだけれどもここでは割愛する。彼らが計算したマークアップ率の平均は以下のグラフで示される。


1960年から1980年ごろまではマークアップ率は18%程度(グラフでは1.18)程度の水準にあったが、そこから急上昇し、2014年にはマークアップ率は67%に達した。ラフにいうと、100円の原価に対して、1980年までは18円の利益を乗せていたのが、2014年には67円も乗せられるようになったということである。

ところで、マークアップ率というのは、必ずしも利益率と同じように考えることはできないものの、著者らは、このようなマークアップ率の変化は、経済全体で集計された配当の総額の変化と対応していると主張している。以下のグラフは、マークアップ率の動きと配当の総額の動きを重ね合わせている。著者らは、マークアップの上昇は配当の総額の上昇と同時に起こっており、(大)企業の市場支配力が1980年以降上昇した結果マークアップも高まったというストーリーと整合的であると主張している。

更に、著者らは、簡単なモデルを使って、マークアップ率が何らかのショックの結果高まった場合に、マクロ経済に何が起こりうるかという分析を行い、以下のことが起こりうると主張した。これらはいずれもアメリカで近年起こっていることである。もちろん、別のショックが原因でこれらのことが起こった可能性も十分にあるし、そもそも市場支配力が高まったせいでマークアップ率が上昇したのかもわからないけれども、少なくとも、(大)企業の市場支配力が増した結果、高いマークアップをつけることが可能になり、実際にアメリカで起こっている様々なマクロ経済のトレンドが引き起こされたというストーリーと整合的であるといえる。

  1. 労働分配率の長期的な低下傾向((2)の割合が高まることによる(3)+(4)の割合の低下)
  2. 資本分配率の長期的な低下傾向((2)の割合が高まることによる(1)の割合の低下)
  3. 生産性が低い労働者の賃金の低下傾向((4)の低下に対応している)
  4. 労働参加率の長期的な低下傾向(賃金の低下の結果である)
  5. 労働市場のフロー(労働者の動き)の長期的な低下傾向(賃金が低下することで労働者が高い賃金を求めて労働市場で動く頻度が低下する)
  6. 労働者の移住の頻度の長期的な低下傾向(同様に、労働者が高い賃金を求めて移住する頻度が低下する)
  7. 実質GDP成長率の長期的な低下傾向(労働者がその生産性を生かせる職に移る頻度が下がることで経済全体の生産性が停滞する)

Example of Why You Should Not Trust Evidence-Based Policy

最近は「エビデンス」を基に政策を決めていこうという話がよく出ているが、「エビデンス」を見るたびに、ほんとかなと思って、「エビデンス」のもとになっている論文をチェックしてみると、眉唾なことが多い。それらを全て列挙するのは大変なので、代表的なものをひとつ挙げておこうと思う。他の「エビデンス」もこんな風に突っ込みどころはいろいろある。

受動喫煙を禁止しようという動きの根拠のひとつとなっているのは、受動喫煙が大きな害を生じさせるという「エビデンス」である。最近は赤ちゃんのいる家庭では喫煙を禁止させようという、こんなことどうやって実施するんだというような政策も議論されているようだ。

その中のひとつの「エビデンス」として、受動喫煙をしている赤ちゃんは乳幼児突然死症候群(Sudden infant death syndrome、SIDS(シッズ))にかかる確率が4.7倍になるというものがある。Wikipediaによると、SIDSというのは「何の予兆もないままに、主に1歳未満の健康にみえた乳児に、突然死をもたらす疾患」一般を指すらしい。もちろん、1歳未満の赤ちゃんが突然なくなるというのはとても悲しい話であり、なるべく防ぎたいということについてが多分議論の余地はないだろう。では、この、4.7倍というとても大きな数字はどこから来ているのか?

「4.7倍」の根拠となっている論文は厚生省心身障害研究という、僕にはぜんぜんわからない雑誌に1997年に掲載された、「乳幼児突然死症候群の育児環境因子に関する研究ー保健婦による聞き取り調査結果ー」という論文である。まず、いちゃもんをつけさせてもらうと、喫煙に反対している厚生省が出している雑誌なので利益相反の疑いがあることと、そもそもちゃんと専門家にレビューされているのかよくわからない論文である。政府の債務が大きくなりすぎると経済に悪影響を与えるので増税しましょうという論文が、ぜんぜんちゃんとしたレビューもされず、財務省の雑誌に書かれている様なものである。それを元に増税するのはまずくないか?

では、この論文で何をやったかというと、SIDSで子供を失った両親に聞き取り調査を行い、SIDSに関連のありそうな行動(喫煙やうつ伏せで寝かせていたか等)をとっていたかを記録する。一方、コントロールグループとして、SIDSで亡くなった子供に年齢・地域等の面でマッチした子供を選び、その子達の親にも同様のインタビューをする。それで、この2グループの親の行動にどのような行動の差があるかをもって親のいろいろな行動とSIDSとの相関を分析している。いわゆるケースコントロール(症例対象)研究という手法である。以下に、この2グループの特徴のサマリーの、喫煙に関する部分をコピーする。
この研究で使われた、SIDSで亡くなった子供の数は377人である。そのうち両親ともに喫煙者である割合はSIDSで子供が亡くなった両親の場合は23%(86人)、そうでない両親の場合は8%(30人)である。この差は大きいので、おそらくは、両親が喫煙者であった場合に子供がSIDSにかかる確率は高く出るだろうなと思うだろうが、その通りで、よくマスコミなどで見られる4.7倍というのはこの差を元に計算されている。但し、他にも注目して欲しいのは、片方の親だけが喫煙者である場合の差はそれほど大きくない。SIDSで亡くなった子供がいた家庭で、片方の親だけが喫煙者であった割合は52%であり、そうでない家庭の場合はその割合は58%であった。結局、両親のいずれかあるいは両方が喫煙者であるというように条件を緩和すると、SIDSにかかる確率は1.6倍に大きく下がることになった。

この調査は1997年なので喫煙者が多いが、それでも両方とも喫煙者の家庭の割合は低い(上の表によると両親とも喫煙者の家庭は8%のみの一方、片方だけ吸っている家庭の割合は58%だ)。このことだけ考えても、1.6倍ではなく4.7倍という数字を使うのは誠実ではないと言える。更に、以下のグラフ(データの出典はJT。グラフはここからコピーさせてもらった)に見られるとおり1997年以降、喫煙者は大きく下がってきている。
このことを考えると、両親とも喫煙者というケースはかなり減ってきているのではないか。こういう状況で、1.6倍ではなくて4.7倍を使うのは誠実な態度とは思えない。

しかも、喫煙とSIDSの関係という意味では、ここで取り上げた分析は基本的に何もコントロールせず相関を出しているだけである。この研究では、うつぶせに寝かさせていた子供や、母乳ではなくて人口栄養を与えられていた子供がSIDSにかかる確率も高く出ているが、それらを同時にコントロールしたりももちろんしていない。それに、マッチング(SIDSで亡くなった子供と似た子供の選び方)もかなりいい加減だと思う。年齢と住んでいるところしかマッチングしていないが、おそらくは、SIDSで亡くなった子供の親の学歴や収入は、コントロールグループの親のものより低いのではないか?ふたグループの差はこれで説明できるかもしれない。しかも、片親だけが喫煙者である場合の効果が弱いということは(もちろんいろいろ他の要素との相関も考える必要があるが)、タバコを吸う量(intensive margin)も重要なのかもしれない。その場合、もし近年喫煙者の減少(extensive margin)に加えて、喫煙者であっても吸う量が減っているというのであれば、喫煙がSIDSに与える効果は更に弱くなっているかもしれない。どれもこれも「相関と因果」を重視する人であれば気にしなければならない基本中の基本である。こういうことを気にせずにおそらくは人々を煽る目的で4.7倍なんていう数字を使っていいのか。

受動喫煙の効果に限らず、確固たる「エビデンス」なんて経済学に限らずあまりないのではないか。最近「エビデンス」と叫んでいる人たちの「エビデンス」を注意深く見てみるとその思いがいっそう強くなっている。その場合、「エビデンス」とか叫びつつその背後にあるあいまいなところ・弱いところを隠すような不誠実な態度をとって非専門家を「だます」よりも、「エビデンス」が不十分であることを認めつつも、利用できる中でベストを尽くしているという態度をとる方が、長期的には「エビデンス」ベースの政策決定に対する信頼を高め、それをより広めていく上で役に立つと思う。

Trading Stocks with Trump's Tweets

前に書いたけれども、NPR(National Public Ratio、アメリカの公共ラジオ局)のPlanet Moneyというポッドキャストが僕のお気に入りだ。経済学や経済一般についてのいろいろな内容を、30分以内で紹介するポッドキャストだ。今回は、Planet Moneyが行っている、面白い試みを紹介する。

アメリカのトランプ大統領はTwitterにかなり頻繁に投稿することで知られているが、Planet Moneyのメンバーは、アメリカのトランプ大統領がいろいろな企業についてTweetを投稿していることに注目した。例えば、トランプがある企業について悪いことをTweetしたら、その企業の株価が下がる可能性が高い。そこで、トランプ大統領がある企業についてTweetをしたら、悪い内容ならその企業の株をショートし、よい内容ならその企業の株を買えば儲けられるかもしれないと考えた。但し、常にトランプ大統領のTweetをチェックして何らかの企業に言及したらすぐに手動で株の売買を行うのは非効率なので、自動化することが望ましい。

では、このような売買をどのように自動化できるだろうか?アメリカではこのような自動的な株取引が可能なシステムが存在するらしい。どのように実装するかについて簡単に説明してみよう。このプログラムはトランプ大統領のTweetをフォローし全て自動的に分析する。注目するのは次の2つの要素だ。1つ目は、ある(上場)企業の名前が言及されているかだ。2つ目は、その企業について、ポジティブな内容かネガティブな内容かということだ。1つ目については、トランプ大統領が言及したら反応する企業名のリストを用意しておくだけである。とはいえ、難しい要素もあるようだ。例えば、「ティファニー」というキーワードは結局使えないことがわかった。大統領の娘の一人の名前がティファニーであり、娘のことを言っているのか、企業のティファニーについて言及しているのかを識別するのは困難なことがわかったからだ。2つ目の方が難しい。ある企業について言及する表現はいくらでもあるからだ。例えば「トヨタがメキシコに工場を作るらしい。トヨタはひどい(Toyota is terrible)。」であればトヨタに対してネガティブなことをTweetしていることは容易に判断できる。しかし、例えば、「トヨタはメキシコの計画を取りやめてアメリカに工場を作るらしい。トヨタの考えはひどかったが考えを改めたようだ。ホンダも見習うべきだ。」というTweetがポジティブであることを自動的に判断することは難しい。しかも、この場合、トヨタについてなのかホンダについてなのかの判断も簡単ではない。どのようにポジティブかネガティブかの判断の質を高めたかというと、トランプ大統領の過去のTweetをプログラムに分析させ、その分析結果を人間がチェックして、間違っていたらそれをプログラムに学習させることで判断の精度を高めていったのである。機械学習と呼ぶのかな。

では、トヨタについてネガティブなTweetだと判断したとしよう。次に決めなければならないのは、どのようにトヨタの株を取引するかだ。パラメーターとなるのは、いくらショートするか(ネガティブの表現度合いによって金額も変えたほうがより期待利益が高まるかもしれない)と、どの程度保有するかである。これについては、これまでの株価のデータがあるので、どのような売買ストラテジーに従えば、少なくとも過去の株価の動きによると期待利益を最大化できるかを試すことができる。もちろん、彼らのプログラムは株価を動かさないという仮定が必要だ。結局わかったのは、トランプ大統領が何かの企業についてネガティブなTweetをするとその企業の株価は低下することが多いが、その効果は比較的すぐに消えてしまうので、Tweetがでたらすぐ株を売買し、30分くらい保有してから逆の取引を行ってポジションを解消するのがもっとも期待利益を高めることがわかった。

Planet Moneyでは、このシステムをBOTUS(Bot of The United States)と呼んで、BOTUSが何をしているかをリアルタイムで公開している(@BOTUS)。ちなみに、BOTUSというのは、アメリカ大統領をPOTUS(President of The United States)と呼ぶことに引っ掛けている(ついでに書いておくと、ペンス副大統領のペットのウサギはTwitterのアカウントを持っていてこれもBOTUS = Bunny of The United Statesと呼ばれている)。

最近、BOTUS(ウサギじゃないほう)が何をしているかについての報告がPlanet Moneyあったが、今のところ、BOTUSは何のトレードもしていないらしい。というのは、トランプ大統領は(最近は)Tweetを夜中にすることが多いので、取引をしたくても株式の取引時間外だからである。時間外取引をするという手もあるが、時間外取引は取引量が少ないのでリスキーであり、時間外取引をするか考えているところらしい。引き続き注目している。