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SED 2019: Day-Ahead Conference

(特にミネソタ系)マクロで最もレベルの高い学会の一つである、SED (Society of Economic Dynamics)の年次総会が、今年はセントルイスのワシントン大学のキャンパスで行われた。最近は、大きな学会があると、その前日にその町にあるFRBなどがDay-Aheadカンファレンスという学会を開催するのが流行りになっている。今回もやはり、SEDの年次総会の共同スポンサーでもあるセントルイス連銀が、SED開催の前日にDay-Ahead カンファレンスを実施したので、そこで発表されたペーパーについて簡単にメモしておく。

Michele Tertiltの"Regulation of Consumer Credit with Over-Optimistic Borrowers"(Florian Exler, Igor Livshits, James MacGeeとの共著)は、「行動経済学的な」仮定を入れた、ヘテロマクロモデルを使った分析である。消費者には所得が高い確率が高いタイプ(良いタイプ)と低いタイプ(悪いタイプ)の2つのタイプがいるが、どちらのタイプも自分が所得が高いタイプだと思って行動する。もちろん、長期間にわたって所得が低ければ、自分は所得が高い確率の低い(悪い)タイプだと学ぶのが普通であるが、消費者は皆「楽観的」(自分は「良いタイプ」だと考えて行動する)だというのがこのモデルの肝である。この仮定により、悪いタイプが、よいタイプに成りすますことのコストを考えて行動したり、これらの消費者にお金を貸す貸し手がどうやったら良いタイプにだけお金を貸すことができるかと考えるような、難しい問題を解く必要がなくなるからだ。これらの消費者は消費をスムーズにするためにクレジットカード会社からお金を借り、時によっては破産を選択する。クレジットカード会社の方は、お金を貸したときに、どの割合が良いタイプかを知っているが、良いタイプと悪いタイプは全く同じ行動パターンをとるので、2タイプを見分けることはできない。つまり、均衡では両タイプが同じ金利で借りることになる。このようなモデルの均衡では、自分の所得能力について楽観的な(悪い)タイプは、(自分のリスクにも相当した高い金利より)低い金利(低いリスクプレミアム)で借りることができる一方、良いタイプは悪いタイプと混ざっているので、高めの金利でしかお金を借りることができない。このような均衡では、政府が政策によって破産のコストを低くすることができると、実際に破産しがちな悪いタイプは得をするのだけれども、破産をあまりしない良いタイプは、破産が増えることによるリスクプレミアムの上昇で、損をしてしまう。

Maaten Meeuwisが発表した"Belief Disagreement and Portfolio Choice"(Jonathan Parker, Antoinette Schoar, Duncan Simesterとの共著)は、今流行りの、普通には手に入らないデータセットを使った分析である。詳細には立ち入ら(れ)ないが、彼らは、アメリカの数百万人がどのようにポートフォリオを組んでいるかというデータを入手し、彼らのポートフォリオが、2016年11月の大統領選(トランプが僅差でクリントンに勝った)の結果によってどのように変化したかを分析した。彼らのデータではそれぞれの投資家がどちらの政党を支持しているかはわからないが、どこに住んでいるかはわかるので、共和党支持者の多いエリアに住む人と、民主党支持者が多く住んでいるエリアに住んでいる人で、2016年11月の選挙の結果を受けたポートフォリオ組み替え方がどのように違っていたかを見ることができる。彼らのメインの結果は、大統領選での共和党の勝利の後で、共和党支持者の多いエリアに住む人は、民主党支持者が多いエリアに住む人に比べて、より株式への投資割合を増やしたというものである。著者らの解釈は、よく仮定される、全投資家が同じ(合理的)期待を持つという仮定よりも、皆が異なるモデル(に基づいて将来の資産のリターンを計算している)を持つという仮定が支持された、というものである。

S. Boragan Aruobaの"Pure Wealth Effect or Credit Constraints? Decomposing the Response of Consumption to House Prices"(Ronel Elul, Sebnem Kalemil-Ozcanとの共著)は、アメリカでGreat Recessionの時に住宅価格が下がったことで、消費が落ち込んだというMian-Sufiの有名な結果を、さらにいいデータを使ってより詳細に見てみたペーパーである。住宅価格が下がると消費が落ち込むというのは、理論的には十分あり得ることだが、その主なチャンネルは2つある。1つは「資産効果チャンネル」である。自分がもっている資産の価値が下がったことで、将来それを取り崩して実行できる消費額が下がるので、それに合わせて現在の消費を減らすというものである。もう1つは、「借入制約チャンネル」である。住宅価格が下がるとその価値を担保に借りれる金額が低くなるので、お金を借りて消費に回していた家計は消費を切り詰めざるを得なくなる。このペーパーでは、Great Recessionにおいてこの2つのチャンネルがそれぞれどのくらい強かったかを調べてみた。基本的なアイデアは、クレジットスコアの低い(高い)家計の住宅価格の下落に対する消費の反応は、借入制約チャンネル(資産効果チャンネル)によるものだろうと仮定することである。彼らの分析の結果は、Great Recession時における消費の下落のうち、資産効果によるものはほぼゼロ、借入制約チャンネルによるものが70%ほど、金融機関のバランスシートが痛んだことで貸し出しが制限された効果は20%ほど、残りの10%程度は一般均衡効果(消費の低迷に合わせて雇用が減少して所得がさらに減少することによる消費の減少)というもの。

Tim Landvoigtの"Financial Fragility with SAM?"(Daniel Greenwald, Stjin Van Nieuwerburghとの共著)では、SAM(Shared Application Mortgage)という新しいタイプのモーゲージ(住宅ローン)をマクロモデルの中で分析している。SAMというのは、住宅価格が下がった(上がった)ときには、モーゲージの支払額も下げる(上げる)という形態のモーゲージで、住宅価格が下落したときには自動的に支払額を引き下げることによって、(不況で失業するなどして所得が下がってモーゲージの支払いが困難になって)デフォルトに陥る人の数を減らそうというアイデアである。僕は全然知らなかったが、こういうモーゲージを提供しているフィンテック会社がすでにあるらしい。彼らのモデルはとても複雑なので、詳細には全然立ち入ら(れ)ないが、彼らは、モーゲージの支払額を国全体の住宅価格の動きに合わせて調整するSAMと、モーゲージを借りている人が住む地域の住宅価格に合わせてモーゲージの支払額を調整するタイプのSAMの効果を分析した。彼らのシミュレーションによると、経済全体に前者が導入された場合、基本的には景気変動のリスクをより金融機関に負担させることになるので、金融機関のバランスシートが景気の動きに対して敏感になりすぎてしまい、金融セクターの危機の頻度が増えてしまう。その一方、後者の場合、金融機関が各地域の住宅価格変動のリスクをシェアすることができていれば、住宅価格変動のリスクを別の地域に住んでモーゲージを持っている人々の間でシェアすることになるので、好ましいという結果になった。

Fabrizio Perriの"Unequal Growth"(Francesco Lippiとの共著)は、アメリカでは過去40年程度の間に、個々人の所得の不平等度が上昇し、同時に、経済全体の成長率が低下してきたが、これらの間の関係を、PSID(1967年から個々の家計の所得が見られるデータ)を使ってちょっと深く見てみたという論文。具体的には、次の関係に注目した:

  • ⓪経済全体の成長率=①個々の家計の所得の成長率の平均(個々の家計の所得のレベルでウェイト付けされていないもの)+②個々の家計の所得のレベルと所得の成長率の相関(×それぞれのばらつき具合)。

直感的に説明すると、個々の家計の所得の増加率が同じであれば、経済全体の成長率は①と等しくなる(②はゼロになる)。個々の家計の所得の成長率が異なる場合、もし、所得が高い家計の方が所得の伸びば大きければ、経済全体の成長率は①より大きくなる。経済全体の成長率を計算するにあたっては所得のレベルでウェイト付けするので、所得が高い家計の所得成長率が高ければ、経済全体の成長率は高くなるからだ。このような分解の方法はOI(Olley and Pakesなど)で頻繁に使われているらしい。彼らの分析によると、過去40年で、①は特に1990年以降上昇傾向にある。しかし、②は常にマイナス(所得のレベルが高い人の所得成長率は比較的低い)だが、そのマイナス度合いが特に1990年以降高まった。1990年以降②の低下のスピードが①の上昇のスピードを上回っていたことで、経済全体の成長率が低下したというのが彼らの発見である。②のマイナス具合がさらに低下したというのは、所得が高い人の所得成長率がさらに低下したことと、所得が低い人の所得成長率がさらに高まった、ことの両方によるもののようだ。彼らのペーパーでは、この後、モデルを使った分析もなされているが、メカニカルな分析で、では、なぜこのような変化が起きているのかはわからない。とはいえ、こういう分解による分析もできるんだなぁという感じ。

最後に、Mariacristina De Nardiの"The Lost Ones: The Opportunities and Outcomes of Non-College Educated Americans Born in the 1960s"(Margherita BorellaとFang Yangとの共著)では1960年代に生まれた、大学に行っていない白人のアメリカ人は、1940年代に生まれた人たちに比べて、①平均寿命が短く、②医療費が高く、③(教育の度合いをコントロールした後の)平均的に賃金が低い(特に男性)。これらの要因によって、1960年代に生まれた白人アメリカ人は、1940年代に生まれた人たちに比べて、どのくらい「幸福度」が下がっているかを、上の①~③を外生的な変化とするライフサイクルモデルを用いて計算した。彼らのモデルによると、1960年代生まれで、大学に行っていない、白人のシングルの男性は1940年代に生まれた場合に比べて、生涯賃金の12.5%損をしていることがわかった。1960年代生まれのシングルの女性の場合はこの割合は7.2%、カップルの場合は8%だった。

Facebook and House Prices

いつもの調子にもどって、面白いペーパーを見たので、その紹介をする。Bailey, Cao, Kuchler, Stroebelの新しいペーパー("Social Networks and Housing Markets")である。最近は面白い(けど著者だけがアクセスできることが多い)マイクロデータを使った研究が増えているが、このペーパーもそのようなものの典型例である。

まずは、ビッグピクチャーから話してみよう。同じような人が住んでいる経済で、皆が住宅価格の先行きについて同じような予想を持っていたら、取引は発生しない。皆が住宅価格が上がると思えば皆買い手になるので取引が生じようがないし(売り手がいない)、逆に、皆が住宅価格の先行きに悲観的であれば、皆今のうちに売り抜けようとするので、同じように取引が発生しない。もちろん、現実的には、若い人は結婚や子供の誕生をきっかけに、買うことが多いし、年をとれば、大きな家が要らなくなって、小さい家に引っ越したりする。これらのライフサイクルに基づく行動は、住宅価格の将来の期待に多少は左右されるかもしれないが、住宅価格についての予想が皆同じようであっても、住宅市場において取引を可能にするであろう。

でも、実際は、皆が同じような情報を入手できるにもかかわらず、住宅価格の先行きに関する予想は異なっている。彼らのペーパーから、住宅価格の先行きについての質問した答えの分布を紹介しよう。
同じ郵便番号(zipcode)のエリアに住む人たちに、住宅に投資することはどのくらい良い(悪い)投資かを聞いた質問に対する答えだが、「かなり悪い」という人もいれば「かなり良い」という人もいる。(ちなみに、これらの違いは、各回答者の目に見える特徴をコントロールしても存在する)同じ郵便番号のところに住んでて、普段は多分同じ上方に接することができるにもかかわらずなぜこのように違いが生じるのであろうか?

彼らの仮説は、それぞれの人は友人の経験を聞くによって、自分の住んでいる地域の住宅価格の先行きについての予想が影響を受けるというものである。同じところに住んでいる人でも、友人は違うところに住んでいるので、友人の多くが住宅ブームにあたって住んでいる住宅の価値が上がってそのうれしい話をたくさん聞かされれば、自然と自分の住んでいるエリアの住宅価格に対する予想も楽観的になり、逆に、友人の多くが住宅価格の下落によって損をすれば、その話を聞かされることによって、自分の見通しも悲観的になる、というのが彼らの仮説である。実際、人は友人と住宅について話すようだ。下のグラフは、どのくらい友人と住宅価格について話すかについてのアンケート結果である。「しばしば(often)」という人と「ときどき(sometimes)」という人を合わせると半分以上だ。

ここで、Facebookのデータが役に立ってくる。彼らの共著者の一人はFacebookの研究部門で働いているので、Facebookのデータにアクセスできる。それに加えて、上で挙げたような質問をFacebook上で実施することができる。著者らがどのようにFacebookを使ったかというと、Facebookのユーザーの友人が住んでいるところ(郵便番号)はFacebookで(だいたい)把握できる。そのデータと、各郵便番号のエリアの住宅価格の推移(これについてはオンライン上の住宅売買サイトのデータを使っている)をリンクすると、あるユーザーの友人が住むエリアの住宅価格の変化の平均を出すことができる。下のグラフは、ある郵便番号エリアにおける、そのような「友人の住宅価格の2年間の変化の平均の分布」を示している。結構ばらけていることがわかる。例えば、LAの同じエリアに住んでいる人でも、友人の多くがシリコンバレーにいれば彼らの話を聞かされることで自分の住んでいるエリアの住宅価格の見通しについて楽観的になる一方、デトロイト出身とかで、そのエリアに友人がいっぱいいる人は、LAの同じエリアに住んでいても、住宅価格が大きく下落した知人の話しをたくさん聞かされるせいで、自分の住んでいるエリアの住宅価格の見通しについても悲観的になってしまうのである。
彼らの主要な実験は、この各ユーザーの友人の住宅価格の変化が、本人の住宅売買行動に相関しているかなどを調べたものである。Facebookのデータを住宅取引に関する登記のデータベースと連結することで、Facebookのユーザーの住宅売買行動も把握できるのである。主要な結果は、以下の通りである。

(1) 人は住宅価格について友人とよく話し、友人の住宅価格の変化は自分のエリアの住宅価格の予測に対して有意な影響を与える。これについては上で既に説明した。この結果はFacebook上でアンケートを容易に実施できることで簡単に得ることができる。

(2) あるユーザーのSocial Networkに入っている友人が住むエリアの住宅価格が過去2年間で5pp上がった場合、そのユーザーが賃貸から持ち家になる確率は3.1pp高まり、平均で1.7%大きい家を買い、家を購入する際に3.3%多く支出をすることがわかった。

(3) 友人の住宅価格が上がった人の多いエリアではそのエリアの住宅価格もより上昇した。また、友人の住宅価格の変化の平均がよりばらけているエリアでは、より住宅が取引され、住宅価格の上昇率も大きかった。二つ目の結果は、マーケットに参加している人の予想が大きく異なれば異なるほど取引も発生しやすいという考えと整合的である。

モデルとかは別になくても、面白いデータを使って、重要な質問について、シンプルな分析を行うという、いかにも今流行のど真ん中のペーパーという感じだ。こういうプロジェクトをやってみたいものである。

Simple Model of Prime and Subprime Borrowers

今回は、簡単に、Justiniano, Primiceri, and Tambalottiによる最新のNBER Working Paper ("A Simple Model of Subprime Borrowers and Credit Growth")についてメモしておく。

Great Recessionの前触れとして、主に住宅およびモーゲージの市場において以下のことが起こったことはよく知られている。
  1. モーゲージの証券化が進み、モーゲージの貸し手である金融機関はよりリスクをとるようになった(後から考えるとリスクをきちんと把握してはいなかったようだけれども…)。これによって、貸付の供給が拡大した。それにともない、以下のことが起こった。
  2. モーゲージの金利が下落した。
  3. 住宅価格が大幅に上昇した。
  4. 家計の(主にモーゲージによる)借入残高が上昇した。
 Justiniano, Primiceri, and Tambalottiは、以前のペーパーにおいて、これらの事実を再現できるモデルを作った。チャンネルは簡単である。貸し出しの供給を外生とし、供給量が増加したとしよう。貸し出し供給量の増加によって金利は下落する。モーゲージの借り入れ制約に引っかかっている家計がいるとすると、その家計は金利が下落することでモーゲージの支払額が減少し、より大きなモーゲージを得て、より大きな家を買えるようになる。住宅の需要が増加するので、(住宅の供給があまり増やせないとすると)住宅価格も上昇する。とても簡単なチャンネルである。

では、このモデルをちょっと拡張して、アメリカの都市間の違いを説明できるかということにトライしてみたのがこのペーパーである。 アメリカの都市間の違いというのは、有名なMianとSufiによって発見された。彼らによると:
  1. サブプライムの借り手(リスクの高い借り手)が多いエリアほど、2000-2006年の住宅価格の上昇度合いは大きかった。その弾力性は0.35である。つまり、サブプライムの借り手の割合が10%高いエリアは住宅価格の成長率が3.5%高くなった。
  2. サブプライムの借り手(リスクの高い借り手)が多いエリアほど、2000-2006年のモーゲージの残高の成長率は大きかった。その弾力性は0.30である。つまり、サブプライムの借り手の割合が10%高いエリアはモーゲージの残高が3.0%多くなった。
彼らのシンプルなモデルを拡張すると、 これらの数字と整合的であろうか?これを調べるために、彼らは、上で書いたようなチャンネルが効いている「サブプライムの借り手」と、借り入れ制約に引っかかっていない(ので上で上げたようなチャンネルは生み出さない)「プライムの借り手」がいるモデルを構築した。そして、モデルの中で、サブプライムの借り手が多くいるエリアとあまり多くないエリアを作り、貸付供給量が拡大したときに、これらの異なるエリアで反応がどのように異なるかを見てみた。その結果、貸付供給量は、実際の2000-2006年のように、金利が5%から2.5%に低下するように増やされた。この実験の結果、モデルの中では、住宅価格も、モーゲージの残高も、弾力性が0.25であった。つまり、サブプライムの借り手が10%多くいるエリアでは、住宅価格及びモーゲージの残高が2.5%より増えることを示している。データの数字より小さいが、それほど悪くない、という結論となっている。

かなりシンプルなペーパーなので、おそらくは来年のAER-PP用なのかな、という気がする。

Credit and Business Cycles

最近のNBER Working Paperで信用(あるいは負債)と景気循環についてのペーパーが2つ見られたのでちょっとまとめておく。ナイーブな理論であれば、信用(あるいは負債)の拡大というのは、金融部門がより有効に機能していることととらえることとできるので、(現在の)経済成長に良い影響を与えると考えることができる。しかし、日本の1980年代後半以降の経験や、アメリカの1980年代後半の経験、及び2000年代後半の経験は、信用・負債の拡大は経済に悪い影響を及ぼしているのではないかという考えを人々の頭に植え付けている。

 Mian, Sufi, Verner (2015)による最新のNBER Working Paper("Household Debt and Business Cycles Worldwide")では、30カ国(主にOECD加盟の「先進国」)の1960年から2012年にわたるデータを使い、債務・GDP比率と、GDP成長率及び失業率の関係を分析した。彼らの主要な発見は以下のとおり。
  1.  ある3年間の間に債務・GDP比率が上昇した場合、その後3年間のGDP成長率は低下し、失業率は上昇することがわかった。つまり、信用ブームは将来の経済成長の停滞を予測するのである。
  2. この結果は、信用ブームが起こった後での景気停滞はより深刻なものになるという既存の結果よりも強いものである。なぜなら、今回の結果はその後経済が景気停滞に陥ったケース以外でも成り立つからである(つまり今回のケースはunconditional result)。
  3. この相関を使うと、IMFおよびOECDが作っている経済予測の精度を高めることができる。なぜなら、これらの予測は信用ブームが後の経済成長に与える不の効果を十分に勘案していないからだ。
  4.  債務・GDP比率の債務を「家計の債務」と「企業の債務」に分類すると、後の経済成長に負の効果を与えているのは家計の債務であることがわかった。企業の債務の拡大が後の経済成長に与える影響は小さい。
  5.  ここまでの結果は国ベースのものだが、世界全体の信用ブームが後の世界全体の経済成長に負の影響を与えることも確認された。この相関関係を用いると、2000年代前半の世界的な信用拡張ブームは2007年以降の世界的な景気停滞が見事に予測される。
上のグラフは、家計の債務と企業の債務の増加がGDP成長率に与える影響を推定したVARの結果を示している。家計の債務の増加は後のGDP成長率を引き下げる一方、企業債務の増加はあまり影響がないことが見て取れる。
上のグラフは、3年間の家計債務・GDP比率の増加率とその後3年間のGDP成長率の相関を見ている。平均的には負の相関が見て取れることがわかるであろう。
上のグラフは、その相関関係を、国別に推定した結果を示している。おもしろいのは、日本が例外的に正の相関関係(家計債務の増加は後のGDP成長率の上昇を予測する)を示しているということである。その上のグラフでは、日本を示す点がグラフの左下の方に見られるので、日本は債務が増加せず、低成長が続いている時代が長かったからかなという風に見える。

このペーパーは面白いのだけれども、相関関係を示しているだけであり、その背後にある因果関係はわからない。どのような因果関係が考えられるだろうか?あまり深く考えていないのだけれども、ふたつの異なる考え方を挙げておこう。
  1. 信用・債務が拡大するときには、オーバーシュートしてしまい、信用・債務の量が多すぎる状態になり、その後に調整期間(GDP成長は停滞する)が必然的におとづれる。バブルもこのストーリーに含めることができる。
  2. 信用・債務の拡大・縮小は自然なサイクルがあり、債務が拡張した後には債務が縮小するのは自然な平均への回帰(mean reversion)である。
上のようなストーリーを信じるのであれば、債務が大きく拡張するときには金融セクターを規制して、ブレーキをかける政策が望ましいということになるであろう。下のようなストーリーでも、一般的に景気循環を小さくするベネフィットはあるので、金融セクターが生み出すサイクルを小さくすることは望ましいだろうが、上のストーリーほどはその必要性がないということになるかもしれない。

ここで、Lopez-Salido, Stein, and Zakrajsek(2016)によるもう一つの最近のNBER Working Paper ("Credit-Market Sentiment and the Business Cycle")にちょっと触れておこう。このペーパーでは、アメリカの1929年から2013年のデータを用いて、市場のセンチメント(他に適切な日本語訳が見つかりらない…)が何らかの理由で改善することで、信用スプレッドが低下する(債務を借りるコストが低下する)とその2-3年後のGDP成長率は低下することを示した。ここまでは、前のペーパーの結果と整合的である。彼らは、更に、この相関がなぜ起こっているかについて仮説を提示した。彼らのストーリーは上で挙げたストーリーのふたつ目のものである。つまり、信用スプレッドは平均に回帰する傾向があるので、信用スプレッドが低下したその2-3年後には、信用スプレッドは上昇し、経済活動の停滞を引き起こすのである。このペーパーは、最近流行の時間とともに変化するリスク(time-varying risk)を景気循環の原因として考える流派をサポートするものである。但し、彼らの結果自体が、上で挙げた第1のストーリーを否定するものではない気がする。最近、また株式市場のボラティリティが高まって、景気停滞を引き起こす可能性も懸念されており、この分野の研究はまだまだ流行するであろう。

Why Subprime Crisis Happaned?

またもとの路線に戻る。今回は、Christopher Palmerの"Why Did So Many Subprime Borrowers Default During the Crisis: Loose Credit or Plummeting Prices?"を紹介する。

アメリカの最近の大不況(Great Recession)のトリガーの一つは、住宅ローン、特にサブプライムローン(返済能力があまりない借り手向けのローン)の破産の劇的な増加であるという点については、ほぼ皆同意していると思う。では、住宅ローンの破産がなぜいきなり増加したか、というのが次の自然な質問だろう。大まかに言って、二つの説明が考えられる。
  1. 住宅ローンを提供する金融機関が貸し出しを増やしたいために、貸付基準を緩めすぎた。つまり、本来借りられるべきでない人達まで借りてしまったから、ちょっとした不況でも、彼らは破産し、貸し手である金融機関のバランスシートを傷つけることで、不況をさらに深刻化させた。
  2. 住宅価格が予測できないほど大きく下落したからだ。住宅価格が大幅に下落したので、破産が増加し、 金融機関のバランスシートを傷つけたことで、不況はさらに深刻なものになった。
もちろん、この二つは連携しているという面も大きいと思うが、今回紹介するペーパーでは、この2つの説明がそれぞれどの位、サブプライム住宅ローンの破産の増加を説明できるか、をマイクロデータを用いて計算した。著者は、サブプライム住宅ローンをそれが貸し出された年毎に一まとめにし、住宅ローンのうちデフォルトした(借り手が破産した)ものの割合や、住宅ローンの残高と住宅価格の比率(LTV (Loan-to-Value) Ratio)を計算した。このようなマイクロデータを使ったこと自体がこの論文の売りである。

ちなみに、サブプライムローンが住宅ローン全体に占める割合は、大不況が始まったころで13%だけであったが、foreclosure(住宅ローンを貸し出した金融機関による住宅の差し押さえ)のうちサブプライムの占める比率は50%以上あった。

この論文で一番面白いのは、次の2つのグラフである。
 このグラフは、例えば、オレンジの線を例に取ると、2006年に貸し出されたサブプライム住宅ローンのうちどの位の割合が何ヵ月後にデフォルトされたかを示している。2006年に貸し出された住宅ローンは、最初の1年ちょっとで10%くらいがデフォルトされ、5年後(2011年)には約1/3がデフォルトされたことがわかる。2007年の住宅ローンも似たような動きを示している。逆に、2003年のローンは、8年後(2011年)でも約10%しかデフォルトされていない。

但し、このグラフだけを見ても、最初にあげた2つの説明をうまく区別することはできない。2003年に住宅を買った人は、2007年くらいまでは住宅価格が順調に上がり続けたので、2007年以降に住宅価格が下がっても、まだまだ買ったときの価格よりは高い状態が続いたであろうし、2003-2007年の間に元本の返済が進んでいれば、underwater(住宅ローンの残高が住宅の価値より大きくなること。このような状態であれば、デフォルトして家は取られるが債務もなくなる方が得になるかもしれない)になる可能性も低いからだ。逆に、2006年に家を買った人は、2007年以降住宅価格が下がればすぐにunderwaterに陥ってしまう。つまり、上のグラフだけ見ると、2006-2007年の借り手のほうがリスクが高いように見えるが、住宅価格の影響も同じように2006-2007年の借り手がデフォルトする可能性が高いという結果を生み出すのである。

では実際、LTV Ratioはどの位違うのか。それを示しているのが下のグラフである。

このグラフも、住宅ローンが貸し出された年毎に一つの線を描いている。このグラフによると、2003年に貸し出された住宅ローンは貸し出されたときのLTV Ratioの中央値(Median)は88%くらい、つまり、ローンの大きさが購入時の住宅価格の約88%であることがわかる。この比率が高いと感じられるとしたら、その理由は、このペーパーではサブプライムローンだけを見ているからである。普通の(サブプライムでない)住宅ローンであればこの比率は80%程度(つまり頭金が住宅購入価格の20%程度)が普通である。2003年に貸し出された住宅ローンは、2007年までは順調にLTV Ratio(の中央値)が70%程度まで低下していった。それは、住宅価格の上昇と元本の返済の両方による。2007年以降、住宅価格が下落するに応じて、LTV ratioは上昇していったが、その中央値は80%程度を越えることはなかった。つまり、underwaterになったのは多くとも半分以下(LTVの中央値が80%程度なので実際にLTV Ratioが100%を超えるローンは50%よりかなり少なかったであろう)であった。

逆に、2006年に貸し出された住宅ローンをみると、そもそも最初からLTV Ratioの中央値が93%くらいと、とても高い、その上、直後から住宅価格が下落し始めたので、LTV Ratioは115%くらいまで跳ね上がった。中央値が115%ということは、少なくとも半分以上の住宅ローンがunderwater(実際の数は半分よりずっと多いはず)になってしまったのである。

では、借り手のリスクが高まったという仮説と、住宅価格が下がってunderwaterの住宅ローンが増えたという仮設を識別するにはどうしたらよいか?筆者は、マイクロデータ、特に、借り手の特徴が2003年から2007年の間にどのように変わったか、をみることで、借り手のリスクの高まり度合いを計算した。著者が使えるマイクロデータでは、住宅ローンの借り手や住宅ローンの様々な特徴、例えばFICOスコア(借り手の信用能力を示す数字)、債務・所得比率、住宅ローンの利子率、住宅ローンのタイプが含まれている。著者は、これらの特徴が同じであれば、2003年に借りようが2006年に借りようがデフォルトする確率は等しいと仮定した。筆者の計算によると、サブプライムローンの破産の増加分のうち、約30%は貸し手が貸し付け基準を緩めたことで借り手のリスクが高まったことが理由であり、残りの70%は住宅価格が下落したことによる、との結果を得た。

また、筆者は、得られた結果を元に、面白いcounterfactual experiment(仮想実験)を行っている。もし、 2006年に住宅ローンを借りた人たちの住宅価格が2003年に借りた人と同じような動きを示していたら、毎年の破産確率はデータの年率12%ではなく、半分以下の5.6%に留まった。

住宅価格も金融機関の貸し出し基準も内生的に決まると考えると、この結果を元に政策を議論するのは難しい。政策を考えるにはマクロのモデルが必要だろう。しかし、上で見たようなデータを示しただけでも、貢献は大きいペーパーである。

Credit Crunch in Heterogeneous Agent Model

今回は、Guerrieri and Lorenzoniによる"Credit Crises, Precautionary Savings, and the Liquidity Trap" (NBER WP 2011)を簡単に扱う。アメリカのGreat Recessionは住宅価格が急落したことで、住宅を担保に借りるモーゲージローン、特に頭金が極端に小さいサブプライム型のモーゲージローン、の条件がきつくなったことが原因と見る人が多い。住宅を担保に借りられる金額が急に減少したことで消費を切り詰める家計が大量に発生するとともに、現在はモーゲージローンを借りていない家計も用心のために消費を切り詰めた(precautionary saving)というのがロジックである。家計が消費を切り詰めたことで総需要が減少し、経済が不況に陥ったと考えるのである。

このようなチャンネルはいわゆるRepresentative Agent (RA)(代表的個人)を仮定する単純なマクロモデルではキレイに再現できない。すべての家計が同じなので、借り入れをしている家計がいないからである。RAモデルを使ってクレジットクランチのようなものを引き起こしたい場合、家計が将来のutilityを割り引くのに使う割引率が急に低くなった(ので家計は消費を減らし、貯蓄を増やした)という仮定が使われるが、所詮アドホックな仮定であり解釈が難しい。

もし貯蓄している家計と借り入れしている家計の2タイプがいるモデルを作ったとしても(IacovielloのAER(2005)のようなタイプのモデルを想像してほしい)、こういうモデルではクレジットクランチが起こったときに借りすぎていたので、消費を切り詰めなければならない家計はあまり多くない状況になりがちである。そうであれば、借入可能額が急に縮小しても経済全体に与える影響は小さいものに収まる可能性が高い。

逆に、Heterogeneous Agent (HA) が存在するモデルを使うと、クレジットクランチ(急激な借り入れ可能額の縮小)によって総消費が急に縮小するような状況も比較的容易に再現できる。今回取り上げるペーパーでは、様々なバージョンのHAモデルを使い、クレジットクランチがどのようにマクロ経済に影響を与えるかを分析した。以下では、彼らのモデルを簡単に紹介した後で、彼らが得た結果を一つずつ簡単に要約してゆく。

 彼らのモデルは、典型的なBewley-Huggett-Aiyagariモデルである。このモデルには無数の消費者が存在しており、それぞれの消費者は労働生産性と資産保有額の面で異なっている。各期各期に、消費者は、何時間働くか(そして何時間余暇を楽しむか)、いくら消費財を購入して消費するか、いくらの資産を将来のために残しておくか、を決める。生産性はランダムに変化する。生産性が低いときには、資産があれば資産を減らすことで消費を落とさないようにすることができる。資産があまりなくても、借り入れができれば借り入れをすることで消費を補填することができる。あるいは、生産性が低くても長時間働くことで労働収入を維持することもできるが、逆に、労働を減らして余暇を楽しむ時間を増やすことで、消費の減少を余暇で補うことも可能だ。借り入れができる限度額は外生的に決められている。彼らのメインの実験は、この借入限度額が急に引き締められたときに、マクロ経済がどのように反応するかというものだ。賃金は生産性と比例している。(実質)金利は、借り入れをしたい人の借り入れ総額と、貯蓄をしておきたい人達の貯蓄総額が一致する(資産の需要と供給がバランスする)ように決定される。彼らはこのベースとなるモデルからスタートして、後半には新しい要素(住宅を担保とするローンやゼロ金利制約)を導入してゆく。

では彼らが得た結果を要約していこう。
  1. 予測されなかったクレジットクランチが起こり、家計が借りられる金額が急に縮小すると、ぎりぎりまで借り入れを行っていた家計は当然借入額を減少させなければならない。それと同時に、借り入れしていなかったり、ぎりぎりまで借りていなかった家計も、借り入れ可能金額の縮小を反映して、貯蓄を増やそうとする(precautionary saving)。このような状況では、金利が急激に下がる。金利が下がらないと、借り入れを減らしたい、あるいは貯蓄を増やしたい家計ばかりがいる状況下で、資産市場の均衡が保たれないからだ。但し、長期的には、新しい借り入れ制約に鑑みて十分な貯蓄を蓄積した家計は貯蓄のペースを緩めるので、均衡金利は上昇してゆく。以下のグラフの左上の図は借り入れ上限額の変化、左下の図は均衡金利の動きを示している。右上の図は、家計が借り入れを減らすことで経済全体の債務-GDP比率が減少してゆく様子を示している。
  2.  クレジットクランチが起こった場合、家計は、消費の切りつめによる貯蓄の増加(借り入れの切り詰め)と、労働時間の延長を行う。その結果GDPがどのように動くかはどちらの効果の方が強いかしだいであり、モデルがどのようにカリブレートされたかによる。彼らのカリブレーションでは、最初の効果(消費の減少)が勝ったので、GDPが下がることとなった。上のグラフの右下の図がGDPの動きを示している。とはいえ、GDPの低下度合い(1%)はGreat RecessionにおけるGDPの縮小度合い(8%という計算がある)に比べるととても小さい。
  3. ゼロ金利制約のようなものがあって、金利がある下限より下には下がらないという仮定をベースのモデルに導入すると、GDPの落ち込みがより大きくなることがわかった。価格を動きにくくすると均衡を保つために数量がより大きく動くようになるという、当然の結果である。下のグラフは、金利がある一定(1%あるいは0%)以下に下がらない仮定の下でモデルの挙動がどのように異なるかを示している。金利が0%以下に下がらないという制約の元ではGDPの落ち込みがベースのモデルに比べてより大きいことが見て取れるであろう。
  4. では、ベースのモデルを拡張して、住宅のように、それ自体を担保にして借り入れができ、資産の役割も果たし、かつそれを保有することで効用が得られる財を導入してみよう。このモデルでは、クレジットクランチは、住宅の価値のうち何%まで借り入れができるかという数字が突然小さくなるという風にモデル化される。ベースのモデルより現実的な仮定といえるであろう。しかし、このモデルの挙動はちょっとおかしなものとなる。家計がクレジットクランチに対応して借り入れを減らしたり、貯蓄を増やしたりすると、その一部分は住宅に回る。住宅は資産でもあるので、貯蓄を増やすときには保有する住宅のサイズも大きくなってしまうのである。よってこのモデルでは、ある意味住宅ブームが起こってしまう。その(かなりアドホックな)解決策として、住宅ローン金利(正確にはスプレッド)も同時に上がればこのような住宅ブームは起こらないとしている。それに、住宅ブームが起こるので、GDPも減少しないどころか、上昇してしまう。この問題も住宅ローンの金利が同時に上昇すれば解決できる(GDPは減少する)。以下のグラフは、住宅を導入したモデルで、クレジットクランチだけが起こった(住宅ローン金利はショックを受けていない)時にマクロ経済がどのような影響を受けるかを示している。
Great RecessionをHAモデルとクレジットクランチで再現するという試みは、何で誰もやらなかったんだろう、と思わせるという意味でいいペーパーだと思うが、(Great Recessionの際に何が起こったかはある程度皆わかっているものの)データとぜんぜん比べていないことと、モデルがとてもシンプルであること、ある意味驚くような結果ではないが、ビッグネームによるペーパーであることから、どのようなジャーナルに行くのか興味があるペーパーだ。

Stylized Facts of Housing Boom-Bust Cycles

他の分野についてはよく知らないが、少なくとも1980年代以降のマクロ(国際マクロやマクロファイナンス、マクロ労働といった関連分野も含む)は以下のような手続きを繰り返すことで発展していったといえると思う。
  1. モデルが再現すべき「Stylized Facts(定式化された事実)」あるいは「Puzzle(スタンダードなモデルが再現できない事実)」というものを皆が共有する。
  2. それを再現できるようにスタンダードなモデルを拡張する。
  3. それを再現できるモデルが複数あるときには他のfactsを元にどのモデルが「回答」となっているかを判断する。
面白いことに、昔から知っている人もいるstylized factsやpuzzleが何かの論文をきっかけに急に皆の注目を浴びて、皆がそのstylized factsを再現しようとしたり、puzzleを解決しようとしたりすることがあるのが面白い。未だに熱が冷めていないものとしてはequity premium puzzleがあり、最近ではShimerのunemployment volatility puzzle(失業率のデータは触れ(volatility)はとても大きく、「普通の」労働サーチモデルでは再現できないというpuzzle)が盛り上がった。

では、住宅市場におけるstylized facstとはどういうものがあるか?特に住宅価格についてのfactsを整理したのが今回軽く触れる"House Price Moments in Boom-Bust Cycles," by Todd Sinai (NBER WP 2012)である。日本の1990年代から始まる低迷にしても、アメリカの最近の景気後退にしても住宅市場のBustとともに始まったことから(どちらが原因かという質問には依然として答えが出ていないように思えるけれども)住宅市場のBoom-Bustについてのstylized factsを認識しておくことは重要であろう。以下、あまり細かい点には触れずに、筆者があげるstylized facstを列挙していく。
  1. Boom-Bustのパターンは地域によって大きく異なる。例えば、1990年代から2000年代にかけての実質住宅価格の上昇度合いを、アメリカのMSA(都市圏と考えればよい)で比較すると、上昇率が上から25%の都市圏では住宅価格が111%も上昇した(つまりインフレを調整した後で倍以上)。一方、下から25%の都市圏では32%しか上昇しなかった。
  2. 1990年代から2000年代のBoom-Bustは1980年代のBoom-Bustと非常によく似ている。アメリカの都市圏における1980年代の住宅価格上昇率と1990-2000年代における住宅価格の上昇率の相関係数は0.45と非常に高い。つまり、1980年代に住宅価格が大きく上昇した都市圏の多くにおいて1990-2000年代にも住宅価格が上昇した。
  3. 住宅価格上昇開始のタイミングは都市圏で異なった。最近の住宅市場ブームにおいては多くの都市圏において、住宅価格は1990-1993年の間か、1996-1997年の間のどちらかに上昇を開始した。その一方、住宅価格のピークはほぼすべての都市圏で2006-2007年であった。1980年代のブームにおいても、大体の都市圏でピークは1986-1990年にかたまっていた。
  4. 最も住宅価格の上昇幅および下落幅が大きかった都市圏は、東海岸と西海岸、およびフロリダに集中していた。これらの都市圏は住宅価格の上昇開始のタイミングとピークのタイミングも大体同じであった。
  5. 都市圏の住宅価格の各年の変化率のばらつきを見てみると、都市間でのばらつきは住宅価格が上がっているとき(Boom period)には大きくなり、住宅価格が下がっているとき(Bust period)には小さくなっていた。つまり、住宅価格が上がっているときには大きく上がる地域とあまり上がらない地域との間に価格上昇率の大きな差があるが、住宅価格が下がるときには皆同じように下がるということである。
  6. 上で挙げた5つのstylized facstは住宅需要に影響を与える要素(各都市圏の平均所得、平均賃貸価格、雇用者数)wコントロールした後でも、成立する。つまり、上で挙げたfactsは、各都市圏の平均所得、平均賃貸価格、雇用者数の違いによって生み出されているわけではない。
筆者は、stylized factsを挙げることにとどめ、そこから何が言えるかについてはあまり言わないよう慎重になっているが、これらのfactsは、住宅価格の動きは住宅への一般的な需要 によって動いているわけではなさそうであること、全都市圏に等しく影響を与える説明(例えば利子率が低く抑えられていたこと、サブプライムローンが増えたこと)では都市圏間の大きな差を説明するのは難しいと述べている。

非常に有用であるが、都市圏の比較だと、都市圏間の違いにも目を向けなければならないので、都市圏間のstylized factsを元に理論を発展させるのは難しいのではないか?それに、価格のデータだけでなく、数量のデータもないと、どのようなモデルにするべきかを決めるのは難しい気がする。

最後に、日本の1980年代についても同じようなデータがあると思うが、住宅ブーム崩壊の先進国である日本では、何か理論の構築が進んだのであろうか?