Consumer Credit: Too much or Too Little?

アメリカでは消費者向けローンの残高が1980年ごろから急速に上昇した。消費者向けローンの中で大きな割合を占めるものは、住宅ローン、クレジットカードローン、カレッジローン、などがあるが、どれも過去30年くらいで急拡大した。最近の景気後退の原因のひとつとして、住宅価格に関する過度に楽観的な期待に基づく住宅ローンの借りすぎがあげられていることから、現在見られる住宅ローンの市場の大きさは大きすぎるのか、あるいは小さすぎるのか、というのは重要な質問である。

Jonathen Zinmanの"Consumer Credit: Too Much or Too Little (or Just Right)?"はこの質問に答えようとするペーパーを概観している。最終的には、消費者ローンの市場規模が大きすぎるか小さすぎるかについて確信を持って答えるためのデータ(あるいはデータを解釈する理論)は存在していないと結論付けている。ただ、その答えに至る過程で、消費者ローンの市場規模が大きすぎるあるいは小さすぎると考える根拠となる8つの理論についてふれているので、それらを列挙してみる。

1.金融機関による市場の独占(Market power)。これが起こると、消費者ローンの市場規模は最適な規模より小さくなると考えられる。

2.規制の失敗。例として、クレジットカードローン(金利は年率10-30%程度)とペイデイローン(短期の小口ローン、金利は年率で100%を超えることが多い)の間の市場が存在していないことを上げている。これも、消費者ローンの市場規模を最適なものより小さくしてしまうと考えられる。

3.情報の非対称性。これも、消費者ローンの市場規模を最適なものより小さくすると考えられる。もっとも有名な理論としてStiglitz and Weissの信用割当の理論がある。

4.情報の非対称性は、消費者ローンの市場規模を最適規模より大きくする可能性もある。ひとつの理論はAdvantageous Selection (日本語はわからない)である。例えば、将来所得が大きく増加すると期待する人は、多少条件が悪くても、借りるかもしれないという話のようだ。

5.もし、景気が後で悪化した時に担保として取っている資産の投売りが起こって担保価値が大きく下がってしまうような場合、景気が悪化する前には貸しすぎていると考えることもできる。最近の景気後退における住宅価格の大きな下落を考えてみるとよい。

6.Deleveraging(レバレッジ解消)が起こる時に、消費が停滞することで景気が悪化する、あるいは景気の悪化が長引くのであれば、レバレッジ解消の前に、消費者ローンを貸しすぎていると考えることもできるかもしれない。

7.システミックリスク。 同様に、消費者に貸しすぎていることでシステミックリスクを引き起こす確率が高まるのであれば、消費者ローンの市場規模は大きすぎるといえるかもしれない。

8.行動経済学的説明。有名なのはDavid Laibsonの双曲割引である。消費者は本当はあまり借りたくないのに、借りることができれば借りずに入られない場合、消費者ローンを貸し出す金融機関は、消費者が本当に借りたい金額より多くの金額を貸し付けることができる。

筆者が述べている通り、これら一つ一つの理論をデータで検証することの難しさもさることながら、これらのチャンネルが同時に起こっている場合、別々のチャンネルのどれが強いかがわからないと、総合的に、消費者ローンの市場規模が大きすぎるか小さすぎるかいえないというのが難しいところである。僕がこれといって役に立つ意見を持っているわけではないが、重要でかつ難しい質問に関する有益なまとめだと思う。

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