いつもの調子にもどって、面白いペーパーを見たので、その紹介をする。Bailey, Cao, Kuchler, Stroebelの新しいペーパー("Social Networks and Housing Markets")である。最近は面白い(けど著者だけがアクセスできることが多い)マイクロデータを使った研究が増えているが、このペーパーもそのようなものの典型例である。
まずは、ビッグピクチャーから話してみよう。同じような人が住んでいる経済で、皆が住宅価格の先行きについて同じような予想を持っていたら、取引は発生しない。皆が住宅価格が上がると思えば皆買い手になるので取引が生じようがないし(売り手がいない)、逆に、皆が住宅価格の先行きに悲観的であれば、皆今のうちに売り抜けようとするので、同じように取引が発生しない。もちろん、現実的には、若い人は結婚や子供の誕生をきっかけに、買うことが多いし、年をとれば、大きな家が要らなくなって、小さい家に引っ越したりする。これらのライフサイクルに基づく行動は、住宅価格の将来の期待に多少は左右されるかもしれないが、住宅価格についての予想が皆同じようであっても、住宅市場において取引を可能にするであろう。
でも、実際は、皆が同じような情報を入手できるにもかかわらず、住宅価格の先行きに関する予想は異なっている。彼らのペーパーから、住宅価格の先行きについての質問した答えの分布を紹介しよう。
同じ郵便番号(zipcode)のエリアに住む人たちに、住宅に投資することはどのくらい良い(悪い)投資かを聞いた質問に対する答えだが、「かなり悪い」という人もいれば「かなり良い」という人もいる。(ちなみに、これらの違いは、各回答者の目に見える特徴をコントロールしても存在する)同じ郵便番号のところに住んでて、普段は多分同じ上方に接することができるにもかかわらずなぜこのように違いが生じるのであろうか?
彼らの仮説は、それぞれの人は友人の経験を聞くによって、自分の住んでいる地域の住宅価格の先行きについての予想が影響を受けるというものである。同じところに住んでいる人でも、友人は違うところに住んでいるので、友人の多くが住宅ブームにあたって住んでいる住宅の価値が上がってそのうれしい話をたくさん聞かされれば、自然と自分の住んでいるエリアの住宅価格に対する予想も楽観的になり、逆に、友人の多くが住宅価格の下落によって損をすれば、その話を聞かされることによって、自分の見通しも悲観的になる、というのが彼らの仮説である。実際、人は友人と住宅について話すようだ。下のグラフは、どのくらい友人と住宅価格について話すかについてのアンケート結果である。「しばしば(often)」という人と「ときどき(sometimes)」という人を合わせると半分以上だ。
ここで、Facebookのデータが役に立ってくる。彼らの共著者の一人はFacebookの研究部門で働いているので、Facebookのデータにアクセスできる。それに加えて、上で挙げたような質問をFacebook上で実施することができる。著者らがどのようにFacebookを使ったかというと、Facebookのユーザーの友人が住んでいるところ(郵便番号)はFacebookで(だいたい)把握できる。そのデータと、各郵便番号のエリアの住宅価格の推移(これについてはオンライン上の住宅売買サイトのデータを使っている)をリンクすると、あるユーザーの友人が住むエリアの住宅価格の変化の平均を出すことができる。下のグラフは、ある郵便番号エリアにおける、そのような「友人の住宅価格の2年間の変化の平均の分布」を示している。結構ばらけていることがわかる。例えば、LAの同じエリアに住んでいる人でも、友人の多くがシリコンバレーにいれば彼らの話を聞かされることで自分の住んでいるエリアの住宅価格の見通しについて楽観的になる一方、デトロイト出身とかで、そのエリアに友人がいっぱいいる人は、LAの同じエリアに住んでいても、住宅価格が大きく下落した知人の話しをたくさん聞かされるせいで、自分の住んでいるエリアの住宅価格の見通しについても悲観的になってしまうのである。
彼らの主要な実験は、この各ユーザーの友人の住宅価格の変化が、本人の住宅売買行動に相関しているかなどを調べたものである。Facebookのデータを住宅取引に関する登記のデータベースと連結することで、Facebookのユーザーの住宅売買行動も把握できるのである。主要な結果は、以下の通りである。
(1) 人は住宅価格について友人とよく話し、友人の住宅価格の変化は自分のエリアの住宅価格の予測に対して有意な影響を与える。これについては上で既に説明した。この結果はFacebook上でアンケートを容易に実施できることで簡単に得ることができる。
(2) あるユーザーのSocial Networkに入っている友人が住むエリアの住宅価格が過去2年間で5pp上がった場合、そのユーザーが賃貸から持ち家になる確率は3.1pp高まり、平均で1.7%大きい家を買い、家を購入する際に3.3%多く支出をすることがわかった。
(3) 友人の住宅価格が上がった人の多いエリアではそのエリアの住宅価格もより上昇した。また、友人の住宅価格の変化の平均がよりばらけているエリアでは、より住宅が取引され、住宅価格の上昇率も大きかった。二つ目の結果は、マーケットに参加している人の予想が大きく異なれば異なるほど取引も発生しやすいという考えと整合的である。
モデルとかは別になくても、面白いデータを使って、重要な質問について、シンプルな分析を行うという、いかにも今流行のど真ん中のペーパーという感じだ。こういうプロジェクトをやってみたいものである。
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