Memo from NBER Summer Institute

夏はたくさんの学会に出たり休暇をとったりであまりブログのエントリを書くきっかけがつかめないので、最近学会に出たときのメモを日本語にして載せてみることにした。NBER Summer Instituteのものにしてみた。NBER Summer Instituteはマクロ(やその他応用分野)の学会では最高のものだと思う。NBER自体についてや、全体の傾向について(NBER Summer Instituteはいろいろな分野の早い段階のいいペーパーを見ることができるので、近い将来のトレンドをつかむのに役に立つ)はまた改めて後で書くことにするけれども、とりあえず見たペーパーのメモを日本語にしてみたもの(それに批判などは取り除いた)を掲載してみる。

"Monetary Policy, Heterogeneity, and the Housing CHannel" by Hedlund, Karahan, Mitman, and Ozkan
家計の異質性があるNKモデルに、住宅市場を追加。住宅の売買には調整コストがあり、また、住宅を買うときのモーゲージの金利は名目金利と制限されているので金融政策によって名目金利が変わるとモーゲージの金利も変わる。さらに、モーゲージの破産も可能。大きな住宅ローンを抱えた家計もいることで金融政策の効果がどのように変わるかを分析。

"Credit Growth and the Financial Crisis: A New Narrative" by Albanesi, De Giorgi, and Nosal
Main and Sufiのペーパーでは、大不況期の始まる前にサブプライムローンの借り手が多かった地域で、大不況期の前に住宅ローンの残高が大きく増加したことから、サブプライムローンの貸付の増大が大不況の引き金になったと主張している。このペーパーではそのようなストーリーが間違っている可能性を主張する。ニューヨーク連銀が持っている個人レベルの借り入れデータを見ることで、サブプライムローンは主に若い人が借り手であること、若い人は自然と住宅ローン借入額が増えていくことから、サブプライムローンが多い地域で住宅ローンの残高が増えるのは当然であり、年齢による影響をコントロールすると、残高が増えたのはサブプライムではなくてクレジットスコアの高いあるいは中ぐらいの、いわゆるプライムローンであることを示した。

"Financial Distress: Incidence, Persistence, and Policy" by Athreya, Mustre-del-Rio, and Sanchez
資産がなかったり、破産したり、といういわゆる金融的困難は若い人に多いこと、また金融的困難に陥った人はその状況に止まる確率(継続性)が高いことをパネルデータで示す。その上で、家計に異質性のあるモデルに借り入れやデフォルトを導入したスタンダードなモデルでは、そのような金融的困難の継続性を再現することが難しいことを示し、モデルのパフォーマンスを改善する方法も提示する。

"Macroeconomics and Heterogeneity" by Krueger, Mitman, and Perri
もうすぐ出るHandbookの章のひとつ。家計に所得および資産の異質性がある一般均衡モデル(Aiyagariモデル)に、時間割引率の異質性を導入すると資産で見た下位の40%は全く資産を持ってなく、上位20%が80%以上の資産を保有しているというアメリカの資産分配の不平等性が再現できることを示す。データ(あるいはデータを再現したモデル)においては資産の不平等性は高くても所得・消費の不平等性はそこまで高くないので、資産が少ない家計により所得が配分されるような再配分政策を行えば、それらの家計の消費が大きく増加するので、総需要喚起の効果は代表的個人モデルよりずっと高いことも示す。

"(S)Cars during the Great Recession" by Attanasio, Larkin, and Ravn
個人の異質性のあるモデルに自動車の売買をフィーチャーしたモデルを構築する。一般的に景気循環における耐久消費財の動きは非耐久消費材の動きよりずっと大きい。さらに、自動車の生産は他の耐久消費財よりさらに大きく景気に応じて大きく動く。CEX(アメリカの消費のマイクロデータ)によると、大不況の前までは、自動車の売買の変化(extensive margin)が自動車生産の動きの大部分を説明できていたが、大不況においては、自動車を買う人の数(extensive margin)だけでなく、買った人が新しい自動車に払った額(intensive margin)も大きく減少した。このような大不況時における自動車の動きを説明できるショックがあるかをモデルを使って探してみたが今の所見つかっていない。

"Household Credit and Employment in the Great Recession" by Mondragon
地域レベルのマイクロデータを使って、大不況期に、融資が大きく引き締められた地域ほど就業者数が大きく減少したことを示した。

"Mortgage Debt, Consumption, and Illiquid Housing Markets in the Great Recession" by Hedlund and Garriga
家計に異質性のあるモデルに、現実的な住宅の売買を加えて拡張したマクロモデルを構築する。住宅の売買のある既存のモデルに比べて新しい特徴は、不況期には家を持っている多くの家計が、住宅ローンを払えなくなることで家を売るのだけれども、多くの人が売りたいので売れるまでに時間がかかってしまう、あるいは家を早く売るために家の価格を割引するという行動を再現できることである。実際、大不況期には家を売るまでにかかる時間が大きく伸びたし、住宅価格は大きく下落した。このモデルを使うと、家を早く売りたい人が割引する、住宅価格がさらに下がる、住宅価格の下落がさらに家計を苦しくするという乗数効果が出てくるので、住宅市場を襲った最初のショックが乗数効果で拡大される。

"The Fiscal Multiplier" by Hagedorn, Manovskii, and Mitman
家計の異質性があり、ゼロ金利制約(ZLB)もあるNKモデルを使って、政府支出の乗数効果を分析する。まずは、ZLBのある一般的なNKモデルでは、価格水準の不決定性という問題があるが、財政政策のルールを固定することで不決定性を解決できることを示す(これはFiscal Theory of Price Levelなのではという気もするが)。その上で、異なる財政政策ルールのもとで、政府支出の乗数を計算する。

"Marriage, Social Insurance, and Labor Supply" by Low, Meghir, Pistaferri, and Voena
アメリカでは1996年に、(18歳未満の)小さい子供がいる低所得家計への補助金政策が変更され、以前では最も若い子供の年齢が18歳未満であればいつまででも補助金を受け取れたのが、1996年以降は5年間しか補助金が受け取れなくなった。このような改革の効果を分析するために、消費や貯蓄、労働供給があるスタンダードなライフサイクルモデルに、内生的な結婚・離婚の決定を加えて拡張する。

"The Disability Option: Labor Market Dynamics with Macroeconomic and Health Risks" by Wiczer and Michaud
公的傷害保険(Disability Insurance)を利用する人の割合は、近年大幅に上昇した。このペーパーでは、個人が、健康に与える影響が異なるいろいろな職業があってそれらのから職を選び、必要があれば公的傷害保険を申請するという要素を加えたライフサイクルモデルを使って、公的傷害保険を利用する人の増加の理由を分析する。

"Covariance Structure of Household Income" by Barnett, Panousi, and Ramnath
PSID(アメリカのパネルデータ)でカップルの二人の賃金及び労働時間の相関を見た。賃金は正の相関があり、労働時間は負の相関がある。相関は1980年以降上昇している。相関を無視すると1980年代以降の賃金の分散の上昇の大きな部分が見落とされてしまう。また、所得税申告データを使って労働収入とビジネス関連の収入の相関も見た。負の相関がある。つまり、ビジネス活動は労働収入の動きを打ち消すように動く。

"The Implications of Richer Earnings Dynamics for Consumption and Wealth" by De Nardi, Fella, and Paz Prado
Guvenenたちが所得税申請データを使って推定した複雑な労働収入ショックをスタンダードな家計の異質性のあるライフサイクル一般均衡モデルに導入して、消費や資産の不平等性がどのように影響を受けるかを分析した。最近の研究で、消費の分散は年齢とともにゆっくりではあるがほぼ線形に増加することが示されているが、しばしば使われるAR(1)ショックを導入すると消費の分散は若い時に大きく上昇するとともに年齢に対してコブ型を示してしまい、データと異なる。Guvenenたちが推定した労働収入ショックを使うと、消費の分散は年齢とともにデータのように上昇する。しかし、資産の不平等性はAR(1)を使った時とあまり変わらない。よく知られている通り、スタンダードなモデルでは資産の極端な集中を再現できないが、それは、Guvenenたちの労働収入ショックを使っても同じであった。

"Optimal Automatic Stabilizers" by McKay and Reis
個人の所得に異質性があり、失業のリスクもあるモデルに、名目摩擦を導入したNKモデルにおいて、最適な失業保険のレベルを分析する。名目摩擦がある結果、消費を増やして総需要を増やすことでGDPの触れを小さくすることができるケインジアン的なモデルにおいては、最適な失業保険のレベルは、そのようなチャンネルのない通常のモデルに比べて高くなる。失業者は所得が増えれば消費も増える(MPCが高い)ので、高いレベルの失業保険は総消費の動きを安定させる効果があるからである。

"Tax progressivity, Performance Pay, and Search Frictions" by Abraham and Fostner
賃金が内生的なモデルを使って所得税の累進性を分析する。労働者は次々と別の企業に転職することで賃金が上がっていく。また、労働者の生産性は努力によって上がっていくが努力は正確には企業には観察されない。よって企業は賃金が上がっていく長期契約をオファーすることで努力を引き出す。高い累進性のもとでは、低い賃金をオファーし、利益は大きくなり、努力のレベルが高くなる。

"Rethinking the Welfare State" by Guner, Kaygusuz, and Ventura
家計に二人の労働者がいる不完備市場マクロモデルを使い、社会保険政策(累進式所得税および所得移転政策)を分析する。まずはモデルをアメリカ経済にカリブレートし、その上で、代替的に、負の所得税と定率所得税を導入してマクロ経済および厚生に与える効果を分析する。アメリカのパネルデータによると、よく知られている通り男性の賃金の分散は年齢とともに線形に増加するが、女性の賃金の分散は年齢とともに上昇しない。この特徴は男性も女性も、独身でも結婚していても同じ。家計全体の賃金の分散も年齢とともに上昇するが分散のレベルは結婚して共働きの家計の方が0.1程度低い。カップルの二人の賃金と労働時間のの相関はU型になっている。モデルはライフサイクル、結婚しているかシングルかはは外生的に決まっている。二人のメンバーがいる家計は両者の効用の合計の最大化する。

"Universal versus Targeted Preschools: An Optimal Tax Approach" by Abbott and Sachs
ある一定のフィーで公的保育園をすべての子どもに提供するという政策を実施するとして、どのようにフィーを設定すべきか分析する。現在のアメリカでは60%程度の子供が保育園に行っている。内訳としては公的保育園が1990年の20%から35%まで上昇。私的保育園のシェアは25%。保育園に入る子どもの人数を、民間保育園のクラウディングアウトや労働供給への負のインセンティブを考慮しつつ最大化する。税率は固定し、フィーを所得等に応じて変化させ、最適なフィースケジュールを探す。最適なフィースケジュールの元では保育園に入る子供の数は12pp上昇する。最適政策の下では、低所得の家計には補助金を払う。子供を保育園に送り迎えしたりするのにかかる費用を補填しなければ低所得家計は子供を保育園に送らないからである。所得の高い家計は高いフィーを払う。

"Macroeconomic Effects of Medicare" by Conesa et al.
家計の異質性のあるOLGマクロモデルでメディケアを廃止して何が起こるかを分析。メディケアを廃止すると高齢世代はメディケイドをより使うようになるのでメディケアの1ドル減少は0.5ドルの節約になる。

"How does Unemployment Affect Consumer Spending?" by Ganong and Noel
Chase銀行に口座を持つ全ての人の口座データを使って失業(賃金や失業保険を銀行振り込みで受け取る人については、口座の動きを見るだけで、いつ失業して、いつ失業保険を受け取ったかを把握できる)が消費に与える影響を分析する。失業した時には平均で消費額は5%減少する。さらに、失業保険が切れる6ヶ月後まで消費は緩やかに減少したのち、6ヶ月後に消費は急に11%下落する。このようなスムーズでない動きは通常のマクロモデルでは再現できないことを示す。通常のマクロモデルでは消費は失業時に下落した後は失業保険のあるなしに関わらず緩やかに減少してゆくはずだからだ。その上で、1つの解決策として、6ヶ月が経った時点で職が見つかる確率を実際よりかなり高めに見積もっていると仮定するとデータで見られる消費パターンが再現できることを示すが、このような極端な楽観は正当化しづらい。

"The Impact of Consumer Credit Access on Employment, Earnings, and Entrepreneurship" by Herkenhoff, Phillips, and Cohen-Cole
個人レベルの各種の雇用のデータとクレジットスコア関連のデータをリンクさせることで、クレジットヒストリーから過去の破産(破産から10年たったらクレジットヒストリーから過去の破産の記録は消さなければならないとアメリカでは法律で決められている)が消えることの雇用への影響を分析する。クレジットヒストリーから過去の破産が消えると、ビジネスのための借り入れは増加し、起業する人の数も増えるが(信用アクセス効果=過去の破産の記録がなくなることで金融機関からの借り入れがしやすくなる)、起業をやめてフォーマルな職に就く人の数も増える(信用チェック効果=多くの職では採用の際にクレジットヒストリーをチェックするので、クレジットヒストリーに破産が残っていると採用されづらい)ので起業者全体の数への効果は相殺される。

"The Life-Cycle Distribution of Earnings and the Decline in Labor's Share" by Glover and Short
マクロ経済学のモデルで通常使われるコブダグラス生産関数では、労働収入シェア(労働者が受け取った賃金の総額のGDPに対する比率)は一定になるが、アメリカの労働収入シェアを見ると1990年ごろから低下し続けている。それと同時に労働力の高齢化が進行している。もし、年をとった人は雇用者に対する交渉力が弱くて(ある企業に特有の技能しか習得していなくて他の企業に移れない場合、賃金を下げられても転職できない)、生産性を下回る賃金しかもらえていない場合、高齢化でそのような高齢者が増えてくると生産性で見た労働収入シェアは一定だけれども、実際の賃金で測った労働収入シェアは減少するという結果を導くことができる。このようなストーリーでアメリカにおける労働収入シェアの動きを説明するには個人の企業に対する交渉力が年齢とともにどのように変化しなければならないかを推定し、およびそのような交渉力の変化を説明できるモデルを構築する。

"Consumer Revolving Credit and Debt over the Life Cycle and Business Cycle" by Fulford and Schuh
ニューヨーク連銀のクレジットカードデータによると2007-2009年には平均のクレジットカード利用限度額が大きく減少し(14000ドルから10000ドル)、借り入れ額も幾分減少したが、借入額と限度額の比率(=利用比率)は安定していた。どのようなモデルであればこのような動きを再現できるかを考察する。鍵となるのは、常に借入限度額いっぱいまで使っている(ので利用比率は常に100%である)個人や、借入限度額の一定比率を支払いに使用する(ので利用比率は安定)個人の存在であると主張する。

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