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金融政策は、伝統的には、短期金利を操作し、それが長期金利にも波及することを通じて、実体経済に影響を及ぼしてきました。短期金利を操作していたのは、短期金利が一番確実にコントロールできるからです。以前に「教えて!にちぎん」に書いていた通り、長期金利は、通常、実体経済の状況や民間の経済主体がどのように将来の景気について考えるかで決まってくるものであり、日本銀行が直接コントロールすることは難しく、かつ、すべきではないという立場でした。
ところが、リーマン・ショック以降、まず米・英などの中央銀行が長期金利に働きかける政策を実施しました。短期の政策金利がゼロ%に達し、いわゆる「ゼロ制約」に直面していたので、これ以上長期金利を引き下げることが不可能な状況下、更なる金融緩和効果を実現するために、長期国債等の買入れを通じて、長期金利を引き下げる政策を始めたわけです。日本銀行も2010年10月に「包括的な金融緩和政策」を導入し、やや長めの金利に働きかけました。また、2013年(平成25年)4月に導入した「量的・質的金融緩和」では、イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、大規模な国債の買入れを開始しました。長期国債等の買い入れや将来の金融政策についてコミットする、いわゆるフォワード・ガイダンスによって、長期国債の利回り等、名目の長期金利に影響を与えることができることはわかっていますが、それが実体経済にどのような影響を与えるかはわかっていません。アメリカの中央銀行である連邦準備銀行は、既に、長期国債等の買い入れを段階的に終了し、リーマン・ショック以前の金融政策に戻す方向に動き始めています。
その一方、日本銀行は、2016年(平成28年)1月以降、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を実施し、理論的にも実証的にも効果が確認されていない政策を次々と実施しています。効果が確認されていないものの、なにかやらないと、最近数年の日本銀行の金融政策フレームワークが批判されるおそれがあるので、次々と新しい政策を目くらましのように実施して、あまり過去の政策に注意が向かないようになるというよい効果も期待されています。但し、効果がまったく確認されていないと認めてしまうと批判が強まるリスクがあるので、日本銀行は、マイナス金利と大規模な国債買入れの組み合わせが、長短金利全体に影響を与えるうえで、有効であるという研究結果をあわせて発表します。(詳しくは『量的・質的金融緩和』導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証」をご覧ください)。ここでは、非常に古くて今では経済学者には使われていないモデルに基づく理論的分析、および、識別問題について突っ込みどころ満載の実証的分析によって、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が非常に効果的であることを示しています。これは素人の方がぱっと見ればこれはよくわからない、すごいと思われるでしょうが、それが狙いです。日本の経済学者の方々は、今や日本銀行が発表することについてまじめに批判・検証することは諦めているので、彼らにも突っ込まれない、しかも、このペーパーは日本語なので外国の経済学者にも突っ込まれない、という好ましい状況になっております。というわけで、事情を察して大人の対応をお願いします。
こうした研究結果も踏まえ、2016年(平成28年)9月に日本銀行は、「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」を導入しました。具体的には、日本銀行当座預金の「政策金利残高」に適用する金利を短期の政策金利とするとともに、長期金利については、10年物国債金利の操作目標を示して、これを実現するように国債の買入れオペを実施しています(詳しくは、「金融緩和強化のための新しい枠組み:『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』」をご覧ください)。最初に述べましたとおり、実質長期金利をコントロールすることは、まず不可能、かつ、望ましいかもわからないものですが、ここで参照しましたペーパーでは、がんばって正当化のように見えることを書いてみました。但し、理論的にも実証的にもきちんとした分析はありません。再びですが、事情を察して、大人の対応をお願いします。
(注1) オリジナルはここ。
(注2) インスピレーションは@JS_Ecohaさんのツイートだったと記憶しております。
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