Papers at AEA, Part 1

フィラデルフィアのAEAに参加してきた。あまり多くのセッションには出なかったが、SED(Society of Economic Dynamics)のセッションには出てみたので、まずはBehavioral Macroeconomicsというセッションでプレゼンされたペーパーを軽く紹介しておく。発表者がWoodford, Gabaixという超一流なのに、朝一だったからか、結構すいていて雰囲気も結構ダルそうな感じがAEAっぽい感じであった。

"Macroeconomic Policy Analysis When Planning Horizons are Finite"
Michael Woodford
モチベーションとなっているのは、以下の3つである。

  1. 合理的期待モデルにおいては、フォワードガイダンスを実施するにあたって、先の未来のことを約束すればするほど現在の効果が大きくなるが(前にも触れたフォワードガイダンスパズルである)、実際はそのようなことが起こっていない。
  2. これもフォワードガイダンスであるが、合理的期待モデルにおいては、先の将来のことについて政策変更をするだけで、現在のマクロ経済にすぐ影響を与えるはずであるが、そういうことは起こっていない。
  3. 合理的期待モデルにおいては、Neo-Fisherianが主張するように、低金利低いインフレ率が共存する均衡が存在し、普通の均衡とその均衡の間のジャンプが起こりうる。
このような問題を解決するために、家計は貯蓄などを決定するにあたってT期先までのマクロ経済状況のみを考え、それ以降は、マクロ経済状況が定常状態であるかのように考えて意思決定をするというモデルを提案した。家計などの経済主体が将来のことを考えなければ上のような効果が起こらないのは当たり前だと思うんだけれども、その当たり前のことが結果である。極端な話、経済主体が将来のことを考えない昔のケインズモデルにもどれがすべて解決するので、テクニカルな側面は別としてあまり面白くはない気がするんだけれども、ウッドフォードのような人がやると流行るのであろうか?下はウッドフォードのスライド。

"A Behavioral New Keynesian Model"
 Xavier Gabaix
これモチベーションは似ていて、合理的期待の入ったニューケインジアンモデルでは、将来の政策の変更が現在の景気にあまりに大きな影響を与えてしまうので、例えば、次の期の低い金利を約束したとしても、その85%だけしか経済主体は考慮しないという仮定を置く。各期の政策変更が15%割り引かれるので、先の政策について約束すればするほどその(認識される)効果は小さなものなっていく。よって、うえで言及したフォワードガイダンスパズルも生じない。彼は財政政策の効果も分析しているが、例えば、家計はリカーディアンではなくなるので(減税がされても将来の税率の引き上げは15%割り引かれて認識される)、財政政策の効果は大きくなる。

"Consumer Spending During Unemployment: Positive and Normative Implications"
Peter Ganong, Pascal Noel
JPモルガンチェース銀行に口座を持つ人の2014年から2016年の取引のデータを使って(どうやったらそんなデータがとれるんだろう...)、失業者がどのように支出を行うかを観察し、どのようなモデルであれば観察された行動が再現できるか分析した論文。失業保険を銀行振り込みで受け取る失業者がどのように失業保険を使うかをリアルタイムで観察できる。
上のスライドは、失業した人の消費パターンがどのように変わるかを示している。赤っぽい点線がデータである。最初に落ち込むのが失業したとき。縦の点線の入っているタイミングが6ヶ月後(アメリカでは失業保険は6ヶ月しか出ない)である。失業時には支出は軽く落ち込み、失業保険を受け取っている間は支出額は安定的に推移し、失業保険が切れるとまた消費は落ち込む。上のグラフの実線が、標準的なモデルにおける失業者の消費パターンである。失業している間、失業者は支出をスムーズに減らしていく。モデルの挙動をデータに近づけるには、失業者をhand-to-mouth(毎期毎期収入を使ってしまう)にするか、失業保険がいつ切れるかとかどのくらいの確率で職が見つけられるかについてあまり注意を払わないという仮定を置けばよいという、まぁ、そりゃそうだという議論が行われる。

"Strategic Inattention, Inflation Dynamics and the Non-neutrality of Money"
Hassan Afrouzi
ニュージーランドの企業に、競争相手は何社くらいいるか、経済全体のインフレ率はどのくらいか、自分の産業のインフレ率はどのくらいか、を聞いたという面白いデータセットをもとに書かれた面白い論文。競争相手が少ない企業は、経済全体のインフレ率はあまりよく認識していないものの、自分の産業のインフレ率は正確に認識している。一方、競争相手の多い企業には逆の傾向がみられる。このような結果は、Rational Inattentionと整合的である。競争相手が少なくて競争相手の行動を正確に認識していなければ競争に勝てない企業は自分の産業の動向により注意を払い、マクロ経済全体の動向には比較的注意を払わない。競争相手が多い企業であれば(極端な例として完全競争を考えればよい)、自分の業界の競争相手の動向よりも、比較的マクロ経済状況に注意を払うのが合理的となる。

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