前回、労働者の年齢構成がどの程度GDPの振れの大きさに影響を与えるかというトピックを扱ったが、年齢構成がマクロ経済に与える影響というトピックを語る上ではずせない(と僕は思う)論文、Mankiw and Weil (RSUE1989)を簡単に扱ってみたい。これは、Mankiwの論文の中で、僕が好きな2つのうちの一つである。
古い論文だけれどもなぜこの論文を取り上げるのか?
1.経済の年齢構成がどのように住宅価格に影響を与えるかという重要なトピックを、シンプルかつ明快なストーリーを使って分析している。
2.主要な結果がセンセーショナルであったことから、物議をかもした。なぜ彼らの結果が間違っているか、という論文がたくさん書かれた。
3.結果がものの見事に大外しだった。僕はあまりいろいろな分野の論文を知っているわけではないけれども、ここまで有名な大外しは他に見たことがない。しかし、外れ方があまりに見事だったことから、何でおかしいかを考えることでとても勉強になる。実際、何で間違ったかという論文も書かれている。
では、内容を軽くまとめてみよう。住宅需要(大雑把には住む家のサイズと考えればよい)を縦軸、年齢を横軸にとると、そのグラフはこぶ型(hump-shape)になる。多くの人は20-30歳に親元を離れて自分の家を借りるなり買うなりし、その頃結婚したり子供ができたりすると家のサイズも大きくなる。30-40歳ごろをピークに、住宅需要はなだらかに減少していく。子供が家を出たり、退職後の生活資金の足しにするため小さい家に移ったりするからだ。
一方、アメリカでは、ベビーブームが1950年代後半に起こった。ベビーブームの影響がどのくらい大きかったかというと、1960年には20-30歳(住宅需要が激しく増加する年代である)が総人口に占める割合は13%だったのが、1980年には20%まで上昇した。1980年以降、ベビーブーマーの年齢が上がっていくと、この割合は減少していくと予想されていた(実際、2008年の20-29歳の割合は14%程度である)。
この二つの事実を組み合わせればどういうimplicationが出てくるか容易に想像できると思うが、住宅需要と年齢の関係が安定的だと仮定すると、べビーブーマーが20-30歳になるにつれて、総住宅需要は増加し、べビーブーマーの年齢が30歳を過ぎてゆくにつれて総住宅需要は減少すると予想される。
さらに、彼らは、上の議論から導き出された総住宅需要が、住宅価格と密接に動いていることを示した。例えば、ベビーブーマーが20-30代になる前の1950年から1970年ごろの間は、彼らが分析に使った住宅価格は下落している。逆に、1970年から1980年の間、ちょうどベビーブーマーが住宅需要を増加させる時期には住宅価格は大幅に上昇した。この総住宅需要と住宅価格の関係が将来にわたっても安定的であれば、1980年代以降、総住宅需要が減少していくにつれて、住宅価格も下がっていくことが予想される。
彼らの結果でもっとも脚光を浴びたのはその数字の大きさであった。彼らは、将来の人口構成についての現実的な見通しを彼らのモデルに入れてみることで、1987年から2007年の20年間の間に、実質住宅価格は47%下落するという結果を得たのである。では、実際は何が起こったか?2007年は住宅価格の最近のピークだったので結果が少し誇張されると思うが、ある住宅価格指数によると(とりあえずFHFAのHPIをCPIでデフレートしてある)、1987年から2007年の間に実質住宅価格は48%増加したのである。彼らは論文の中で、彼らの数字はいろいろな仮定に強く依存しており、-47%という数字を額面通りにとってはいけないと再三論じているけれども、効果なしであった。-47%という数字は一人歩きしてとても有名になったのである。
ただ、2007年までは間違ったとはいえ、経済学者にありがちな詭弁ととられるかもしれないが、完全に間違ったわけではない。彼らの主張するロジックは有効なんだけれども、何かの理由でその発現が遅れているのかもしれないし、彼らが考えなかった他の要素の力があまりに強すぎて彼らの主張するメカニズムはかき消されたのかもしれない。日本の住宅価格の低迷は、2次にわたるベビーブームの後の総住宅需要の下落に伴う必然の結果だと考えることはできないであろうか?
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