Economist誌は世の中にあるいろいろなデータ(特に国際比較)についてしばしば教えてくれる。今週号のFree Exchange(Economic Focusの方がよかったけど)で、「包括的資産」の国別比較をしたという国連のレポートを紹介していた。
このレポートでは狭義の資産(主に生産に使われる機械)に加え、天然資産(領土に埋まっている石油など)と人的資産(国民の教育レベル等)も勘案した「包括的資産」というものを主要20カ国について計算し、国同士の比較やそれぞれの国の「包括的資産」がどのように変化してきたかを分析している。細かいところは読んでいられないので、Economistにも載っていた、主要な国の比較を表にしてみた。
最初の列のIWというのが包括的資産(inclusive wealth)の指標である。どのように計算するかについては、かなりの恣意性があるので、「幸福度」とかと同じで、酒の肴にするつもりで見てみればいいと思う。上の表では11カ国を 包括的資産の2008年におけるストックでランク付けしている。驚くべきことではないが、アメリカが1位、ちょっと驚くべきことに日本が2位である。天然資源による貢献がほぼゼロということを考えると大健闘だと思う。これは容易に想像できることだけど、包括的資産の計算においては人的資本の占める割合が高い。日本を例にとれば2/3くらいは人的資本の貢献である。人的資本の蓄積が経済成長に貢献する内生的成長モデルのようなものを背後に考えておけば理解しやすいと思う。中国は3位だけれども、日本の包括的資産は中国の約2.5倍である。
それに、当たり前だけど、中国(やインド)は人がやたらといるから包括的資産のストックも大きいのである。2008年の人口 (2列目)で割って、一人当たりの包括的資産を計算すると、日本は中国の30倍近いレベルにある。更に、日本は主要国の中でダントツの1位である。久しぶりに見るいいニュースだ。Economist誌は、そのほか、サウジアラビアのような産油国が急速に天然資源ストックを失っている一方(とはいえ天然資源の埋蔵量も当てにならないデータの筆頭であるが)日本は天然資源ストックを過去20年の間に増加させた唯一の国であることにも言及している(日本の有名な森林回復のストーリーとも整合的だ)。
Economistはよいニュースで終わっているが、経済学者としてはdismalなニュースを提供するのが使命なのでdismalなニュースでしめてみたい。5列目は2008年の一人当たりのGDP(Penn World TableのPPP換算値)、6列目はそのランキングを示している。日本は包括的資産は他の先進国に比べて多くあるけれども一人当たりGDPは他の先進国より少なめである。このことの最もシンプルな説明は、日本は豊富な資産を効率的に活用できていないということであろう。このことを数字で示すために、包括的資産と人口とTFPから生産が決定される生産関数を仮定して、2008年のTFPを算出してみた。包括的資産と人口はコブ・ダグラス関数で合体させているが、包括的資産に当てられるパラメーターは0.36としてみた。0.36は資産が狭義の資産のときに使われる数字であり、人的資本などを含むときにはもっと大きくなくてはならないのだが、少し変えてみても ここでのメッセージは変わらないのでとりあえず0.36を使ってみた。上の表の最後の2列はそれぞれの国の2008年のTFP(アメリカを1としている)とそのランキングを示している。今度は日本は先進国中最低である。もちろん、包括的資産がダントツ1位で一人当たりGDPが先進国中最低なので驚く結果ではないが、カナダやオーストラリア、欧州諸国が大体アメリカと同程度のTFPであるのに比べて、日本のTFPはアメリカより25%低いというのは(かなりいい加減な計算方法だということを差し引いても)驚くべき結果だと思う。
1 comments:
環境経済学を勉強している修士課程の学生です。
最近気になっていたInclusive wealthについて、分かりやすい説明ありがとうございます。
>このことの最もシンプルな説明は、日本は豊富な資産を効率的に活用できていないということであろう。
という、最後の段落の説明も、1人あたりInclusive wealthがダントツの日本において、とても興味深かったです。
まだ、勉強不足なのですが、ダスグプタを中心とするこれらの研究者グループは、Inclusive wealthとGDPの関係性をどう議論しているのでしょうか。
持続可能性が言われるなかで、GDPも依然として、最終的に重要な指標と位置づけているのか、それとも、向上を目指す多くの指標の単なる1つと位置づけているのか、ということが気になりました。
今後の投稿も楽しみにしています。
Post a Comment