Inequality, Tax Base, and Sovereign Spreads

アメリカの共和党と民主党の対立から生じた昨年夏のデフォルト危機、ユーロ加盟国のデフォルトリスクの高まりを背景に、ソブリンリスク(国の政府が債務返済をやめるリスク)への関心が高まっているが、「国内の不平等」と「ソブリンリスク」の間に関係はあるだろうか、という質問に答えるためにデータを見てみたのが今回軽く触れる"Income Inequality, Tax Base and Sovereign Spreads" (by J. Aizenman and Y. Jinjarak, NBER WP 18176)である。

特に、彼らは、以下のようなチャンネルを念頭においている。
(1) 収入の不平等度が高い
→ (2) 税基盤(tax baseの訳ってこれでいいのかな…)がしっかりしていない
→ (3) ソブリンリスクが高い
→ (4) ソブリンリスクスプレッドが高い(国が借金をするときに高い金利を支払わなければならない)

(1)→(2)のつながりがわかりにくいと思うのでこれから簡単に説明するが、まずはデータから。
上のグラフは、横軸には2010年の収入のジニ係数(不平等の度合いを表す指数で0-100の値をとる。0だと不平等がない状態(国民全員が同じ収入)、1だと極端に不平等な状態(国民の一人が国全部の収入を得ていて、他の人は全員収入ゼロ)を示す)、縦軸には2006-2010年の税収の対GDP比の平均が示されている。一つ一つの点は国を示す。一見して、右下がりのグラフであることはなんとなく見て取れるであろう。つまり、国内の不平等が高い国は税収も低めなのだ。もちろんこれは相関を示しているだけでどちらが原因かな度についてはここからは何もいえない。字が小さいので見にくいかもしれないが、左上には先進国が散らばり(特に左上の端にはスカンジナビア諸国が並んでいる)、右下には途上国が散らばっている。日本はというと先進国のちょっと外れたところ(ジニ係数27程度、税収GDP比28%程度のところにいる)にいる。著者らは2007年のデータも示しているが、あまり変わりはない。

では、このような相関関係を説明する理論はどのようなものがあるだろうか?著者らはBenabou (AER2000)をあげているのでそのエッセンスだけ紹介しよう。Benabouは、なぜ同じ先進国でも
  •  アメリカ(激しく不平等、税収少な目(小さい政府))
  • 大陸ヨーロッパ諸国(不平等度低い、税収多い(大きな政府))
という違いが出るのかについての理論を提供した。ちょっと考えてみると、この両者(アメリカと大陸ヨーロッパ)が同時に存在することはちょっと不思議である。なぜか?Benabouのとはちょっと違ってくるが簡単なモデルを考えてみよう。一つの国に二人の人(A,B)がいる。50%の確率でAは高収入、Bは低収入、となり、残りの50%の確率で逆の結果が起こるとする。どちらもリスク回避的(リスクが避けられるなら避けたい)とする。この場合、収入がわかる前に、AとBは高収入だった人が低収入だった人に所得の一部を移転する政策を実施したいと思う(これを実現できる金融市場は存在しないとする)。これによって、高収入だったときには税引き後の収入はちょっと下がるけれども、低収入だったときには収入が上がるので低収入であってもそんなに苦しくはならないないことになるからだ。このような状況下では、収入の不平等(高収入と低収入の差)が大きければ大きいほど、大きな政府の役割(高収入の人から低収入の人へのより大きな所得移転)が好まれることになる。この理論に基づけば、上のグラフは右肩上がりになってなければならない。では、なぜそうなっていないのか?

では、ちょっと違う状況を考えてみよう。 今度はAが高収入でBば低収入である確率が70%に上がり、逆が起こる確率が30%に下がったとする。この場合、Bは低収入の確率が高いのでより大きな所得移転(大きな政府)を好む一方、Aは高収入の確率が高いのでより小さな所得移転(小さな政府)を好むこととなる。Aが高収入の確率が高まれば高まるほどAとBの意見の違いは大きくなり、おそらくは、両者が合意できる政府のサイズも小さくなる。

更に、親の所得が子供の将来の収入にも影響を与えるとすると、最初の状況(50%でAが高所得)では、税金や所得移転が行われた後のAとBの収入にそんなに違いはないので、AとBの子供たちも同じような状況に直面し、同じように大きな政府を好むこととなる。親の収入が所得移転(累進的な税制と考えればよい)によって近くなり、教育にかけるお金も近くなるので子供の能力も大きく違ってこないと考えてもよいし、大学などに補助金を出すことによって学費が安くなり、親の収入に関わらず子供は同じような教育を受けられると考えてもよい。これが大陸ヨーロッパ型の均衡と考えられる。その一方、2番目の状況下では、Aの子供はBよりよい教育を受けることで、Aが高収入、Bが低収入になる確率は更に高まるかもしれない。この場合、Aの子孫は更に小さな政府を好むことになる。これがアメリカ型の均衡と考えられるであろう。

つまり、国民の「能力」の差が大きければ大きいほど(Aが高収入である確率が高まれば高まるほど)国全体では小さいな政府が志向され、その傾向は、教育の違いなどによって更に強化されることになるのである。ちなみに、最近の日本の状況は、大陸ヨーロッパ型の均衡からアメリカ型の均衡に移行しつつあると考えてもいいかもしれない。伝統的にはもともとの不平等度が小さく、不平等を低める政策が多くの人によって支持されていたものの、だんだんその支持が揺らいできているのではないか。その上、この傾向はいったん始まると移行が続いていくので、移行の前の状況を好む人が現在は多いにもかかわらず、止めることは難しいのかもしれない。

かなり脱線してしまったが、筆者らが何をやったかに戻ると、彼らがやったのは、国の違いを基にした回帰分析である。まずは、彼らは、税収の対GDP比がどの程度、ジニ係数、国の開放度(貿易の重要性)、成長率、GDPのレベル、インフレ率、外貨貯蓄の大きさ、によって説明できるかをデータから調べた。上のグラフから用意に予想できるが、彼らの計算によると、ジニ係数が約10%高まると(上のグラフを見ればわかるがかなり大きな変化である)、税収の対GDP比が21%も下がることがわかった。

では、不平等度が高まった(ジニ係数が上がって)ことで、税収のGDP比が下がると、ソブリンリスクスプレッドがどのくらい高まるか?彼らの計算によると、ジニ係数が約10%高まると、税収のGDP比が低くなることを通じて、ソブリンリスクスプレッドが4.7%も高まる(これは2011年の数字で、2007年の数字は7.2%と更に巨大である)ことがわかった。最近ニュースを見ていればよく聞く話しだが、政府がお金を借りるときの金利(今はそもそもの金利が低めなので大体ソブリンリスクスプレッドに対応する)が7%を超えると「危険水域」といわれることを考えると、このような回帰分析は突っ込みどころ満載であることを差し引いても、この数字はとても大きいといえると思う。但し、最近南ヨーロッパでソブリンリスクスプレッドが上がった際の上がり方を見ればわかるように、ソブリンリスクスプレッドは急に上がるが、国内の所得の不平等というのは一朝一夕で変わるものではないので、彼らが考えたチャンネルは、長期的に財政基盤を安定させ、政府の財政の破綻が起こるリスクを下げるという役には立つかもしれないが、今ヨーロッパで起こっているようなソブリンリスク危機に役立つものではない。

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