不確実性がマクロ経済に与える影響に関する研究が再び脚光を浴びるようになったのはなぜか。Bloomは5つの理由を挙げている。
- 大不況(Great Recession)は、不確実性の大幅な上昇と同時に起こった。どちらがどちらを引き起こしたかについての最終的な結論はまだ出ていないものの、不確実性の急激な上昇が不況を生み出したと議論する人も多い。
- 大平穏期(Great Moderation)が終わって、一般的に景気循環についての研究が再び脚光を浴びるようになった。
- コンピューターのスピードが上がることで、不確実性が意味を持つ、非線形性を持つモデルを解くことが可能になった。
- 不確実性の変化を測るために使うことのできるデータ(高頻度の取引に関するデータ、サーベイデータ、新聞記事のデータベースややgoogleなどに蓄えられたデータ)が充実してきた。
- Krugmanは不確実性はあまり重要でないといっている(最近よくあるKrugmanがらみのジョークである)。
では、次に、データについてみていく。利用できるデータによると、不確実性には次のような「定型化された事実(stylized facts)」が存在する。
- マクロレベルの不確実性はcountercyclical(不況期に高くなる)である。以下に、S&P 500の変動の大きさ(volatility)を示す。
影のかかった部分が不況の時期である。不況期に株式の変動が大きくなることが見て取れる。政策に関する不確実性(policy uncertainty)も景気後退期に高まりがちである。また、不況期には景気予測に関する意見の不一致を示す指標(アナリストの景気予測がどの位ばらついているかを見ることで測ることができる)も上昇しがちである。
- ミクロレベルの不確実性もcountercyclicalである。このことは、産業別に見ても、個々の企業レベルで見ても、個々の企業が保有するプラントレベルでも、個々の商品価格のばらつき具合を見ても、当てはまる。
- 個々の企業が直面する3次より上のモーメントはacyclical(景気と連動して変動しない)に見える。このことは、不確実性の研究においては、平均(mean)と分散(variance)だけが刻々と変わるという風に考えればよいということを示している。しかし、その一方、個人の所得のデータを見ると、最近の研究では、景気後退時に上昇するのは分散(2次のモーメント)ではなくて歪度(skewness、3次のモーメント)であることが示されており、企業側のデータの特性との齟齬が存在している。
- 不確実性は発展途上国の方が高い。そもそも、途上国のGDPは、先進国に比べて50%振れが大きい。
- Krugmanが提唱するのは、不況期には政府は新しい政策を試しがちだという理論である。
- 好況期には企業の活動が活発になることで、情報がより蓄積され、不確実性も下落するが、不況期には逆に、企業の活動が不活発になることで、情報の生産速度が低下し、不確実性が上昇するという理論も存在する。元になっているのはVan Nieuwerburgh and Veldkamp (2006)のペーパーである。
- Bachmann and Moscarini (2011)は、企業は不況期には失敗のコストが低くなるので、様々な実験的な活動を行い、そのことが不確実性を上昇させるという理論を提唱している。
- Orlik and Veldkamp (2014)は不況期は、将来を見通すのが難しくなるので、不確実性が高まるという理論を提唱している。
- Bloom (2009)は完全に外生的なショックを使って因果関係を導き出そうとしている。
- 企業レベルのデータを使った分析も進められている。
学会で行われるレクチャーというのは、自分が今やっているペーパーの紹介になってしまって、がっかりすることが多いが、このレクチャーは不確実性に関する研究の現在までと最前線の状況についてわかりやすく教えてくれる、とてもよいものだった。
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