How to Go from Basic Research to Policy Recommendations

またまたあいてしまったが、夏はしょうがない。気長にゆっくり書いていこう。

Pikkertyの本が話題になって以来(というか所得分配に関するより詳しいデータが利用可能になったのを受け)、高所得者にどのように課税するかという話が再び学会でも盛り上がっている。NBERの夏の学会でもこの話題に関するペーパーをいくつか見たので、それについて書こうかと思っていたのだが、そのまえに、まずは、重要文献であるDiamond and Saez (JEP2011)をまたぺらぺらとめくっていたら、いいパラグラフが目についたので、それについて書いておく。高所得者に関する最適課税の話はまた今度。

最適課税の話をするためには、抽象的なモデルを組んで、そのモデルにおける社会的効用を定義し、その社会的効用を最大化する、という手続きを経ることになる。その次に、様々な抽象化がなされたモデルから得られるインプリケーションを実際に政策提言に生かしたいのだが、ここにはジャンプがある。こういう状況で、どのようなことを考えて、モデルのインプリケーションを政策提言に結び付けたら言いのだろう。著者らは、以下の3つの条件が満たされた時のみモデルから得られる結果を実際の政策提言に用いるべきだと主張している。

(1) モデルの結果はデータと整合的で(empirically relevantの訳)非常に重要なメカニズムに基づいている。

(2) モデルの結果は、モデルの前提を変えても大きく変わらない。特に重要な前提は「合理性(rationality)」と「同質性(homogeneity)」である。現実の世界では、異質な主体(消費者、企業、金融機関等)が存在(heterogeneity)しており、それぞれは必ずしも通常の経済モデルで想定されるように完全に合理的ではない(limited rationality)かもしれない。よって、合理性や同質性に決定的に依存している結果は、実際の世界に対する政策提言として適切ではない。

(3) 政策提言は実施可能(implementable)でなければならない。言い換えると、政策提言は社会的に許容されるものでなければならず、複雑すぎて政府に実行できるとは思えないものは好ましくない。

前者について言うと、身長やルックスに基づいて税率を決めるというようなものは多分どの国でも社会的に受け入れられないであろう。後者について言うと、最近流行っている(流行っていた?)New Dynamics Public Finance(NDPF)系のモデルに基づく政策提言は、むちゃくちゃ複雑な課税方法が最適となることがあるので、気をつけなければならない。もちろん、このような批判を受けて、最近のNDPFのペーパーでは、最適な課税方法はこんなに簡単なものです、とか、最適な課税方法は複雑だけど、それに近い簡単なスキームでも十分に最適な社会効用に近い結果が得られます、というアピールの仕方をする論文が増えている。

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