Cyclicality of Tax Policy

Vegh and Vuletinによる、最新のAEJ Policyに掲載された論文("How Is Tax Policy Conducted Over the Business Cycle?")について簡単にメモしておく。政府が景気循環に対してどのような政策を取っているかを知るためには、政府支出と税率が景気とどのように相関しているかを調べる必要がある。政府支出の場合は比較的ことは簡単である。トレンドを除去したGDPと政府支出の相関を調べればよいのだ。これまでの研究で、政府支出については以下のことがわかっている。
  1. 先進国においては政府支出とGDPは負の相関関係がある。相関係数の平均は-0.17である。つまり、先進国はいわゆる景気の動きを小さくすると思われる政策を実施している。
  2. 発展途上国においては逆に政府支出とGDPの相関は正である。相関係数の平均は0.35である。なぜか、発展途上国は景気の波を大きくする方向で財政政策を実施しているのである。
  3.  いくつかの発展途上国においては、最近政府支出は正の相関から負の相関へ変化した。これらの国は発展途上国の財政政策を「卒業」したといえる。
  4.  発展途上国でなぜ政府支出が景気と同じ向きに動くのかについては、(1)国際金融市場へのアクセスが不十分(だから不景気には借りられない)、(2)政治的なプレッシャーによって好景気の時には財政支出を増やさざるを経ない、といった説明がなされている。
 財政支出と景気の関係についてはいろいろわかってきているものの、税制についてはあまりわかっていない、と著者らは主張する。その理由は、税政策の変化を、税収の変化を捉えるデータはないからである。簡単に書くと税収は税率*税基盤である。税収がGDPに正の相関がある(つまり税収は景気の動きを和らげるように動く)とわかったとしても、内政変数である税基盤はGDPと同じように動くとすると、税基盤が動いたから税収がGDPと正の相関を生み出しているだけかもしれないのである。

そこで、筆者らは、62カ国について、1960-2013年にわたる「平均的な税率」のデータセットを構築した。この「平均的な税率」は各国の法人所得税率、個人所得税率および消費税率(VAT)を組み合わせることで得られる。このデータセットを元に、税率とGDPの相関について調べたところ、以下のことがわかった。
  1. 税政策は先進国より発展途上国においてより大きく動く。発展途上国の税率は先進国のそれより35-100%変動幅が大きかった。この結果は、政府支出に関する結果と整合的である。発展途上国の政府支出の変動幅は先進国のものより60%高いという結果がある。
  2. 税政策は先進国においては景気と無相関(acyclical)で発展途上国のいては主に正の相関がある(procyclical)ことがわかった。
  3. 政府支出とGDPの正の相関が強い国ほど、GDPと税政策の正の相関も強いことがわかった。言い換えると、政府支出と税率は同じように動くということである。
  4. 政府支出の正の相関が強い国は「制度の質」(institutional quality、汚職の程度が低く官僚の質が高いと制度の質が良いといえる)が低いことがわかっているが、税率についても、制度の質が高い国ほど税率とGDPの正の相関が弱いことがわかった。
 もうひとつ面白い分析として、インフレを増税(インフレ税)と捉えた時に、インフレ税とGDPの相関がどのようなものであるかについてもこのペーパーのイントロで触れられている。彼らの分析によると、先進国においてはインフレ税はGDPと正の相関があり、発展途上国においては平均的にはGDPとは相関(各国を見ると正の相関から負の相関までばらばら)であることがわかった。つまり、インフレを増税とみなして分析をした場合、彼らのメインの結果と異なるものとなるのである。

 いわゆる経済学全体における流行である「独自のデータの構築・分析」が面白いトピックについてなされたペーパーである。

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