A Casual Comparison of Public Pension

自分の本業であまりこういうことはやらないのが残念なんだけど、国際比較というのは楽しい。OECD(いわゆる「先進国クラブ」とEconomist誌はいつも注釈を付けている)が、いろいろな面でOECD各国を比較したデータや印刷物を出しているのだけれども、公的年金についてのものがあったのでいくつか取り出してみた。全部の国を見ると大変なので、日本、アメリカ(小さい政府の代表)、イギリス(大体の面においてアメリカからちょっと大陸ヨーロッパにシフトしたような感じになる)、スウェーデン(大きな政府の大陸ヨーロッパの代表)、とOECD平均を比較してみた。

それぞれのデータがどのように作られているかなどをぜんぜん気にせず見ているので、専門家は突っ込みたくなるかもしれないけれど、そのときは突っ込んで欲しい。

では、まずは、公的年金がどのくらいもらえるかの比較。
最初の列(Median)は働いていたときの所得がちょうど真ん中あたりだった人が、働いていたときの平均的な給料に比べて何%くらいの公的年金をもらえるか、を示している。いわゆる、Replacement Ratioと呼ばれる指標だ。日本の場合は、働いていたときの給料が中間あたりの人は、そのときの給料の38%くらいの公的年金がもらえる。この数字はイギリスとほぼ同じである。アメリカは意外とそれより高くて41%。スウェーデンは予想通り56%ととても高い数字となっている。まぁ、日本の場合、多分いわゆる企業年金部分が含まれていないから低めに出るのはしょうがないのかな。OECD平均をとると、この数字が高い国が大陸ヨーロッパに沢山あるので、スウェーデンの数字と同じくらい(58%)となっている。

では、この数字はどのくらい累進的かを見るために、給料が平均の人(Mean)と、平均の半分の人(0.5*Mean)と平均より50%多い人(1.5*Mean)が、それぞれの働いていたときの給料の何%暗い、公的年金をもらえるかを比べたのが2-4列目である。ちょっとわかりにくいかもしれないが、平均の半分の給料の人の数字が高いからといって彼らのほうが高い額をもらっているのではなくて、彼らの(低い)給料に比べて高い比率をもらっているということである(もちろんこの数字が非常に大きければ絶対額も逆転することはありうるけれどもそんなことはどこの国でももちろん起こらない)。日本は収入が高くなるにつれ50%→36%→31%となだらかに減っていく。つまり、累進性はそんなに高くない。UKは日本より累進性が高い、つまり、年金の金額の平等度が高いことがわかるだろう。アメリカは、予想通り日本より累進性が低い。スウェーデンはなんだかおかしなこと(単調減少でない!)になっている。元データの間違いなのかな。OECD平均では、日本より累進性がちょっと低いように見える。


次は負担の面を見てみよう。上の表の1列目は、65歳以上の人が労働人口(15歳から65歳までの人)に比べてどのくらいいるかという数字を示している。日本の場合、65歳以上の人の割合が労働人口の42%もいる。アメリカは移民も多く比較的若い国なので比率は23%だ。UKとスウェーデンははその中間くらいの29%と33%。OECD平均は、26%である。日本がダントツで高齢者が多いことがわかるであろう。

更に、日本の問題は、年金の元手となるお金を納める労働者が少ないことである。上の表の2列目はEmployment/Population Ratioといって、労働人口(15歳から65歳の人)のうち働いている人の割合を示している。女性があまり働いていないなどという話をよく聞くものの、日本のE/P Ratioは71%と、とても高いレベルにある。UKは日本とほぼ同じ、アメリカは67%と、ちょっと低め。スウェーデンは74%と、さすがに日本より更に高い。OECD平均では、おそらく失業率が高い南欧の国とかが平均を引き下げているのであろう、この表のどの国よりも低い65%である。

もちろん、日本の場合であれば、パートタイムでも「働いている」とカウントされるので、どのような形態で働いているかはこの数字からは細くできない点は注意して欲しい。

これらの数字から二つの数字を計算してみた。一つ目(上の表の3列目のBurden)は、働いている人何人で65歳以上の人を養わなければならないかという指標である。日本の場合、労働者1.7人で退職者を養わなければならない。高齢者の割合が高いのでこの数字が低く出るのは当たり前なんだけれども、これはとても低い数字である。OECD平均は2.6人。アメリカの場合2.9人、イギリス(2.5人)やスウェーデン(2.3人)は日本とアメリカの間である。

もうひとつの数字は、現在の真ん中の収入の人の年金額(日本で言えば38%)を、毎年政府の財政が均衡するようにしつつ、維持するためには、働いている人の収入の何%を徴集しなければならないかという数字である。全ての退職者は同じ比率で年金を受け取り、全ての労働者は同じ税率で税金を納めると仮定している。言い換えれば、財政均衡の為の年金税の税率である。日本は年金の額はあまり高くないけれども、年金生活者の割合が多いので、働いている人の収入の22%を徴収しないと公的年金が成り立たない。日本の財政状況から推測するに、現在の負担額より(おそらくずっと)高い額であろう。消費税全部が補填として使われるにしても多分足りていないような気がする。スウェーデンは年金の支給額が手厚いので日本の同じような税率(24%)となっている。OECD平均も年金支給額が手厚いので同じくらい(23%)である。逆にイギリスやアメリカはまだ退職者の比率が低い上に年金も手厚くないので、15%くらいの税負担で現在の年金がまかなえる計算となる。

おそらく日本は年金に関する収入と支出のバランスが取れていないのだろう。これの状況を改善するには、以下のどれか(もちろん組み合わせてよい)を実施しなければならない。

  1. 退職年齢を引き上げて年金生活者の比率を下げる。
  2. 労働人口を増やす(移民あるいは子供を増やす)。
  3. 年金用の税負担を引き上げる(消費税増税でももちろんよい)。
  4. 年金支給額を引き下げる。
  5. もっと多くの人に働いて(年金用のお金を納めて)もらう。
現在日本の政府はこれら全ての面でトライしているように見えるが、なかなか簡単にはうまく行かないようだ。

Unreasonable Evaluation?

数日前に「異次元緩和」、特にマイナスの政策金利について、否定的なポストを書いたばかりなのだが、巷では否定意見と肯定意見がぶつかり合うかと思いきや、否定的な意見の嵐である。その中には、勝ち馬に乗った、つまり、経済指標もあんまりいい感じには見えないし、否定的な意見が多いみたいだから、俺も否定的な意見になろうといっている人も多いと思う。僕は、これらの政策には依然として否定的だけれども、ここ数日のバッシングはあんまりではないかと思う。その理由を挙げてみる。
  1. 為替がマイナス金利の導入によって円高に動くとは考えにくい。実質金利が一般的に低下したり、銀行の利益にマイナスの影響が出ることが予想されたり、それによって実体経済にマイナスの影響が出ることは考えられるが、それらは全て円安の方向に為替を動かすと考えるのが自然である。円高に動いてしまったのは、よく巷で言われているのは、アメリカや欧州の景気拡張のペースに対する予測が下方修正されたこと、などが原因ではないかといわれている。これらについては日本銀行はどうしようもない。マイナス金利発表→円安→ダメな政策だ、なんてことはない。
  2. ちょっと皮肉っぽいい方になるが、為替が予想外に大きく動くおかげで、日本人の貯蓄が国内から出られないという面もあるので、わけのわからないことをやるという評判も役に立つのかもしれない。
  3. 株価も様々な要因によって動くので、タイミングがそれらしいからといって、マイナス金利の発表が(日本の)株安を生み出した、というような大雑把な議論をしてはいけないと思う。これもタイミングが悪かったという側面もあるだろうから、慎重な評価が必要だ。そもそも数日の株価の動きを気にするのは経済学者の仕事ではない。
  4. 銀行の利潤が圧迫されたり政策の不確実性が増すことによって貸し出しに慎重になるというチャンネルは十分に考えられるが、長期金利の低下によって住宅ローン等の貸出金利が下がるというチャンネルも十分考えられる。前者が強いのかというのも、まだ確証はない。実際に貸出金利が下がったか、貸し出しの姿勢に変化があったか、そしてそれらの変化は、マイナス金利によって影響を大きく受ける銀行と影響が小さい銀行の間で違いはあるか、というようなことを慎重に見ていかないといけないだろう。
  5. また、銀行の金融仲介機能がどう影響を受けるかという意味でも、タイミングが悪かった。ドイツの銀行のバランスシートの健全性について疑いが高まり、銀行一般のリスクスプレッドが上昇した時期になってしまった。もちろん、日本のマイナス金利政策の発表がそのチャンネルに拍車をかけたかもしれないので、これは内生的なもの(タイミングが悪かったといって片付けてはいけないもの)かもしれない。
  6.  まぁ、サプライズを重視するのなら、どこでサプライズをかけるかについても慎重にならなくちゃいけないんだろうが(そもそもそういう政策はまずいと思うが)、サプライズに頼ると、運が悪いとこういう風になってしまうという例にみえる。

How to Use a Bazooka?

どうも、日本では、新たな拡張的金融政策を発表するたびに、「バズーカ」という言葉が用いられているようだ。バズーカというと、最近ではアメリカの財務長官だったポールソンが金融危機の真っ只中、2008年に使ったのが有名だ。住宅ローンの焦げ付きで財務状態が悪化していた政府系の2大住宅金融機関であるファニー・メイとフレディー・マックに資本注入を行うことを上院銀行委員会に許可してもらうために行った際、ポールソンは、彼の裁量で使える金額の上限を付けないように要求した。このことは普通は認められないので、委員会は説明を求めたところ、彼はこういったと伝えられている。

「こういう(銀行の)問題を考えるのに慣れていない場合には、直感に反するように聞こえるかもしれませんが、こういう問題を考えるのに慣れていると、とても理にかなった話なんです。もしポケットに水鉄砲しか持ってなければ、(脅すためには)それを取り出して見せなければなりません。その一方、バズーカを持っていて、皆がそのことを知っていれば、実際に見せる必要は無いのです。(持っていることを知らしめるだけで)金融セクターに対する信用は強まり、その結果バズーカを実際に使わなければならない可能性は低くなるのです。」

実際は、上院銀行委員会は1500億ドルまでの使用しか認めなかった。しかし、ポールソンは、ファニーとフレディを救済するために、1500億ドルをすぐに使い切ってしまい、2ヵ月後には、投資銀行等のその他の金融機関の救済のために7000億ドルを要求しに行かなければならなかった。その時に、委員の一人はこういったと伝えられている(少し意訳する)。

「7000億ドルをすぐに使い切らないように。マーケットの信用は、あなたのバズーカの横のポケットにいくら入っているかで決まるのではなくて、最初に使った時にマーケットの信用を強めるのにどのくらい効果的課によって決まるのですから。」

バズーカという言葉は、ポールソンはこのコメント以降しばらくギャグとして使われたので、今日本で使われているのを聞くと面白い感じだ。それはともかく、バズーカというのは、やはり、預金保険制度が(常に現金が無尽蔵に用意できることを保証することで)それに加盟している銀行の取り付け騒ぎを防ぐように、チラリとは見せつつも使わないところに意義があるような気がする。バズーカを意図的に振りかざすのは、ちょっと上品ではない。

18 (For Now) Reasons Why Unconventional Monetary Policy Will Not Work

日本銀行が実施しているいわゆる「異次元緩和」というものが、何で効果がないか、あるいは無駄なことか、考えられる理由を箇条書きにしてみる。もちろん、以下の一つ一つは慎重に吟味されるべきであるが、そういったことがなされていないこと自体が不満なので、とりあえず問題提起の形で書いてみる。とりあえずさっと書いたので、おいおい修正していく。

何もをもって、効果があると考えるかだが、とりあえず、「2%のインフレを達成する」ことが目下の目標として挙げられている。おそらく、そのためには、まずは何らかの効果によって、総需要を刺激しすることで、物価上昇につなげると考えるのが自然だと思うので、そういうチャンネルを基に考えていく。もちろん、この考え方自体もチャレンジされてもよい。

1. マイナス金利といっても0.1%位金利を動かしたくらいでは何も大きくは変わらない。昔は不況になったときには3-4%くらいは平気で落とすことができたので効果があったのだと思う。例えば、1.0%の金利で資金を調達できた時に金融機関が貸し出しをしなかったプロジェクトに対して、調達コストが0.9%になったからといってどれくらいのプロジェクトに新たに貸す気になるだろうか?最近は長期金利もかなり低く、更に下がる余地は小さい。

2. おそらくマイナス金利といったところで、あまり大きくマイナスにはできない。池尾さんという方がマイナス金利についてここでとてもわかりやすく纏めている。実際、マイナス金利についてとりあえず学びたいなら、僕のブログを読むよりこのリンク先の記事のほうがずっと役に立つと思う。

3. 銀行はおそらく預金金利にパススルーできない(預金金利が大きくマイナスになったら皆現金を引き出すだろう)だろうから、銀行の利益が多少は圧迫される。このことは、おそらく銀行のリスクテイク能力を弱め、貸し出しを抑制する方向に働くかもしれない。逆に、この効果はとても小さいということは、そもそもマイナス金利の効果が小さいといっているようなものだ。

4. 銀行がマイナス金利でダメージを受けることで、そのほかのルートにおける資金調達のコストが上がるかもしれない。

5. 僕が注意を払っていないからかもしれないが、今回のマイナス金利も唐突に出てきた。このように唐突に次から次えといろいろな政策を実施すると、いわゆる「政策の不確実性(policy uncertainty)」を増すことになり、銀行に限らず様々な経済主体がリスクをとることを躊躇する状況を作り出すかもしれない。中央銀行が何をするかわからない状況では企業は新規投資に慎重になるのではないか。

6. 最近はどうも、「サプライズ」であることが重要と考えているらしいが、そういう考え方自体が1970年代以前の古臭いものである(流動性の問題があるときには異なるかもしれないが、現在の日本の問題は金融セクターのパニックではない)。最近の考え方は、政策は(テイラールールなどの)ルールに(明示的であれ暗黙であれ)従って、経済主体が予測しやすいように金融政策を実施していくのが標準的な考え方だと思うが、そういった最近の考え方を完全に無視している。

7. 消費者は様々な異次元緩和策に反応して消費を増やすだろうか?金利が下がれば、おそらくは金利収入を当てにしている高齢者の消費は抑制されるであろう。特に日本は高齢者の割合が高まっているのでこの効果は無視できない気がする。

8. もし異次元緩和策が株式などの金融資産の価格を高める効果があったとしても、おそらく株(あるいはインデックスファンドのようなもの)を大量に所有している人の消費性向は低いだろうし、そういう人は、一時的な株価の上昇で消費を急に増やしたりはしないことが考えられる。

9. 低金利に誘導することによって住宅価格も上昇しているとしたら、若い人の住宅購入を困難にしているかもしれない。

10. 政策の不確実性によって先行き不透明な状況になれば、企業も正規の社員よりいわゆる派遣社員のような契約を解除しやすい雇用形態を望むであろう。若い人が比較的この二つの雇用形態のマージンにいるとすると、借り入れ制約・流動性制約に引っかかっており、消費性向が高い若い人の消費が抑制される。

11.  異次元緩和は経済主体の将来のインフレ期待を高め、実質利子率を下げ、あるいは将来の消費財の価格を高めることで、現在の投資や消費を刺激することを求めているのかもしれない。ただ、インフレ期待をコントロールするのは難しい。まずは、中央銀行がちゃんとインフレ率に多少でも影響を与えるできることが示されなければ何を言ったところで、信用されない。2%をずいぶん前に達成できるといっておきながら、いまぁなぁなぁで、誰も責任を取らないような状況で、誰が中央銀行の能力を信用するだろう。

12. 日本銀行はちゃんと3つのツールの効果を総合的に分析するフレームワークを持っているのだろうか?経済主体は、総裁の説明を見て、日本銀行はインフレをちゃんとコントロールできると思うだろうか。

13. 金融緩和によって円が安くなり、純輸出が促進されるかもしれない。但し、最近のEconomistの記事では2012年以降、円が弱くなったにもかかわらず、輸出数量はあまり変わっていないことを指摘している。その考えられる理由のひとつは、今は多くの輸出がサプライチェーンの一環としての中間財の輸出であり、為替が変わってもあまり影響を受けないのかもしれないと述べられている(このことについては近日触れる)。

14. 輸入の方は、今回注目している(金融緩和→総需要喚起→インフレ)というチャンネルと異なるが、為替が減価することで輸入インフレが起こる可能性がある。しかも、もしかしたら、原油価格はそろそろ底を打つかもしれない。但し、原油価格が上がると、インフレに寄与するかもしれないが、オイルショックのときのように、景気に水をさすかもしれない。

15. ゼロ金利の元では、そもそも、短期の国債とマネーは同じようなものであり、マネーで短期の国債を買っても、友達の10円玉と自分の10円玉を交換するようなものであり、何も動かない(いわゆるWallace Neitrality=Wallaceの中立性)。

16. 長期の国債などの金利が低下した場合、年金基金の資産運用に悪影響を与えないか?そうすると、将来もらえると期待する年金の金額が減ることで現在の消費が抑制されたり、その穴埋めとして将来的にさらなる財政支出(と増税)が必要となり、現在の消費を抑制するかもしれない。もちろん政府の利払いは低金利で恩恵をこうむるのでどちらの効果が強いかわからない。

17. ある意味「政策の不確実性」が生み出す「将来の年金の不確実性」自体も消費を抑制する方向に働くだろう。

18. こういう記事を読んで、そうか、異次元緩和とか名前はたいそうでも効かないのかぁ、 と思ってしまう人が増えると、実際に効かなくなって、予想が成就するのかもしれない。期待は重要なのだ。

Simple Model of Prime and Subprime Borrowers

今回は、簡単に、Justiniano, Primiceri, and Tambalottiによる最新のNBER Working Paper ("A Simple Model of Subprime Borrowers and Credit Growth")についてメモしておく。

Great Recessionの前触れとして、主に住宅およびモーゲージの市場において以下のことが起こったことはよく知られている。
  1. モーゲージの証券化が進み、モーゲージの貸し手である金融機関はよりリスクをとるようになった(後から考えるとリスクをきちんと把握してはいなかったようだけれども…)。これによって、貸付の供給が拡大した。それにともない、以下のことが起こった。
  2. モーゲージの金利が下落した。
  3. 住宅価格が大幅に上昇した。
  4. 家計の(主にモーゲージによる)借入残高が上昇した。
 Justiniano, Primiceri, and Tambalottiは、以前のペーパーにおいて、これらの事実を再現できるモデルを作った。チャンネルは簡単である。貸し出しの供給を外生とし、供給量が増加したとしよう。貸し出し供給量の増加によって金利は下落する。モーゲージの借り入れ制約に引っかかっている家計がいるとすると、その家計は金利が下落することでモーゲージの支払額が減少し、より大きなモーゲージを得て、より大きな家を買えるようになる。住宅の需要が増加するので、(住宅の供給があまり増やせないとすると)住宅価格も上昇する。とても簡単なチャンネルである。

では、このモデルをちょっと拡張して、アメリカの都市間の違いを説明できるかということにトライしてみたのがこのペーパーである。 アメリカの都市間の違いというのは、有名なMianとSufiによって発見された。彼らによると:
  1. サブプライムの借り手(リスクの高い借り手)が多いエリアほど、2000-2006年の住宅価格の上昇度合いは大きかった。その弾力性は0.35である。つまり、サブプライムの借り手の割合が10%高いエリアは住宅価格の成長率が3.5%高くなった。
  2. サブプライムの借り手(リスクの高い借り手)が多いエリアほど、2000-2006年のモーゲージの残高の成長率は大きかった。その弾力性は0.30である。つまり、サブプライムの借り手の割合が10%高いエリアはモーゲージの残高が3.0%多くなった。
彼らのシンプルなモデルを拡張すると、 これらの数字と整合的であろうか?これを調べるために、彼らは、上で書いたようなチャンネルが効いている「サブプライムの借り手」と、借り入れ制約に引っかかっていない(ので上で上げたようなチャンネルは生み出さない)「プライムの借り手」がいるモデルを構築した。そして、モデルの中で、サブプライムの借り手が多くいるエリアとあまり多くないエリアを作り、貸付供給量が拡大したときに、これらの異なるエリアで反応がどのように異なるかを見てみた。その結果、貸付供給量は、実際の2000-2006年のように、金利が5%から2.5%に低下するように増やされた。この実験の結果、モデルの中では、住宅価格も、モーゲージの残高も、弾力性が0.25であった。つまり、サブプライムの借り手が10%多くいるエリアでは、住宅価格及びモーゲージの残高が2.5%より増えることを示している。データの数字より小さいが、それほど悪くない、という結論となっている。

かなりシンプルなペーパーなので、おそらくは来年のAER-PP用なのかな、という気がする。