Economist誌の最新号で、GDPの問題について特集が組まれていた。
昔から言われていることとして、GDPは厚生(幸福度)の指標としてそもそも問題がある。例えば、選択肢が広がることによる厚生の向上はGDPには反映されない。また、市場で取引されないもの(家庭で行う子育て)の価値はGDPには含まれない。サミュエルソンは、誰かがその人が雇っていたお手伝いさんと結婚するとGDPは減少するという(多分ちょっと不適切な)例を彼の教科書の古いバージョンで挙げていた。
それに加え、GDPにはそういう限界があるということは受け入れたとしても、そのGDPが把握しようとしているものすらきちんと把握できているかについても問題が大きくなってきている。その問題の源泉は、サービス産業の比率が高まっていることだ。GDPはもともとどのくらいモノの生産が可能かを図るために開発され、整備されてきたものであり、サービスの生産をうまく把握するのは難しいからだ。
まぁ、この話は常にされていることなんだけれども、GDPの改訂(revision)について面白いグラフが載っていたのでここに掲載する。
濃い青は、GDPの平均的な改訂の幅を示しており、薄い青は、改訂の「絶対値」の平均的な大きさを示している。濃い青について言えば、アメリカを除く全ての国はプラスになっている。つまり、平均的に、GDPの最初の速報値と3年後の値(確定値)と比べると、確定値のほうが高い傾向にあるということである。日本について言えば、大体確定値は速報値より0.1%くらい高いようだ。つまり平均的には速報値は悲観的だということになる。面白いのはアメリカで、速報値は最終的には下方修正される可能性が高い、つまり速報値は楽観的らしい。いかにもアメリカ的で面白い。
薄い青は、GDPの改訂幅の絶対値の平均を示している。言い換えれば、改訂の標準偏差を示していると考えればよい。面白い(というか面白くないが…)のは、日本の改訂幅がダントツに大きいということである。ほかの国は大体速報値と確定値の差は0.2%ほどなのであるが、日本だけは0.6%に近い。GDPの速報値が経済政策等に与える影響を考えるとこれはとても大きな問題だ。また、日本のGDPの速報値だけが特に早く公開される(つまり速報値を計算する際の情報が他国に比べて少ない)という話は聞いたことがないので、単純に考えれば、日本のGDPを計算する関係省庁の能力が足りないと考えることもできる。それにしても0.6%というのは大きい。ただし、この表の「GDP成長率」は年率換算なのか否か良くわからない。Economistの本文を読んでもわからなかった(この辺はきちっとして欲しいところだ)。例えば日本の最新(2015年第4四半期)のGDP成長率はマイナス前期比0.4%(年率換算でマイナス1.2%)だけれども、0.6%もずれれば四半期ベースだったらプラスに転じる可能性も十分にあり、年率換算でもマイナスの幅が半分になる可能性も十分あるということである。
日本のデータは使いにくいという問題があるが、使えたとしても改訂幅が大きいというような、先進国として恥ずかしい状況はぜひとも改善して欲しい。
Why More Households without Savings in 2013?
舞田さん(@tmaita77)という方が、twitterに、2001年と2013年で、「貯蓄が無い」と答えた家計の割合が大きく増加しているというグラフを示していた。以下のグラフはそれを再現したものである。元になっているデータセットは厚労省が作成している国民生活基礎調査というデータセットである。3年に一回、貯蓄に関する質問が行われているので、3年おきのデータがある。以下のグラフでは、2001年と2013年の間の全ての年について示している。
ちょっと前にtwitterで投稿したバージョンでは、分母に、回答=「不詳」という人たちも入れていたのだが、片山さん(@mnchk)のアドバイスにしたがって、「不詳」の人たちを除いてみた。「不詳」の人は少ないので、どちらにしても、メッセージは同じで、2013年だけ、「貯蓄が無い」と答えた家計の割合が大幅に上昇している。この上昇は、もともと高い29歳以下の家計を除くと全てのグループグループに当てはまる。
舞田さんは、おもしろい相関なり、データの変化を探すのがうまい人のようだ。但し、家計調査の専門家とかではないようだ。この関連の話をどこかに書いていたが、変なことも書いていた。ただ、この変化はとても面白いと思った。このグラフを引用して、あんまり考えずに緊縮的な増税を批判するのに使うような人もいたが、こういうデータに慣れているのであれば、これはおかしいと思うのが普通じゃないかと思ったので、このグラフは面白いと思ったのである。そもそも、どのように貯蓄を増やすかというのは、マクロの短期的な状況で大きく影響を受けるものでもない。2001-2010年に比べて、2013年の景気が圧倒的に悪いということもない。震災の影響かとも思ったが(確かに、2011年は被災地域を調査対象からはずしたりしているし、いろいろなデータが2011年は違っていたが、貯蓄に関するデータは無い)、震災から2年もたった後の話である。それに、例えばアメリカのこういうデータを見ていても、1980年以降、貯蓄がない人の割合がこんなに動いたことは無いと思う。
では、どうしたらこういうことが起こりうるか?を知るために、データをいくつか別の側面から見てみた。まずは、家計の年齢の分布が2013年だけ変わったりしてないか?以下のグラフが年齢分布である。
どの年も大体同じようなもんである。若いときは親と住んでたりする(その場合、家計としてカウントされない)ので、割合としては低くなる。高齢世代が少ないのは、子供と同居したり、死んだりするからだ。まぁ、一番最初にあげたグラフは、各年齢グループの中での、「貯蓄が無い」家計の割合なので、年齢の分布が変わっても影響は受けないんだけれども、いちおう念のため見てみた。では、一人暮らしの家計の割合はどうか?
見事に毎年同じである。一人暮らしの家計の比率は20代の時にとても高く(50%程度)、結婚するにつれ下がっていく(40代では約10%)。その後、おそらくはパートナーが死んだりすることでまた一人家計の割合が増えていく。このパターンは2013年とそれ以外の年で違わない。では、核家族(大人が二人、あるいは大人と子供)の割合は?
これも見事に毎年同じパターンを示している。2013年だけ異なるということはない。この二つのグループで家計の大半を占めるので、このグラフは上のグラフをひっくり返したような形になっている。ちなみに、この2つに含まれないのは、3世帯同居で、割合はあまり高くない。では、核家族のなかでも、一人親家計の割合はどうか?
2013年はちょっと高いが、そもそもこれらの家計の割合は高くない(最高で全家計の9%くらい)ので、2013年とそのほかの年の差が全家計を集計した時に大きな影響を与えるとは思えない。
では、なぜ、違うタイプの家計の割合を見て行ったかというと、それぞれのタイプの家計の「貯蓄が無い」家計の割合は大きく異なるからである。まずは、単身家計の「貯蓄がない」割合を見てみよう。
最初に見たグラフと同じく、2013年だけ際立って高い割合となっている。では、核家族家計はどうか?
同じく、2013年だけ際立って高い。ちなみに、「貯蓄が無い」家計の割合は、単身家計(2013年を除くと20-25%程度)のほうが核家族家計(2013年を除くと10%程度)より高くなっている。所得が高くて余裕のある人が結婚したり子供を作ったりしがちなのか、二人で働けるから貯蓄ができるのか、逆に、結婚したり子供ができたりすると貯蓄しなければと思うので貯蓄しがちになるのか、はこれだけではわからない。では、最後に、一人親家計の中で「貯蓄が無い」割合は?
かなりばらつきがあるが、これは、そもそも調査において、このような家計の数はとても小さいからである(例えば20代で貯蓄が無い家計の数は20以下)。但し、2013年の線が他の年より常に高いところにあることがわかるであろう。
これらのことから何が推測できるか?最初に示したグラフ(2013年に「貯蓄が無い」と答えた家計の割合が急に増えている)は、2013年に貯蓄の無いタイプの家計(単身、一人親等)が増えたからではない。どの年齢層も同じように上昇しているので、教育費とか、家を買うための支出といった、ある特定の年齢に集中するイベントに関連することが理由とも思えない。
同様に、消費税増税が原因であれば、そもそも資産をあまり持っていない若い家計や単身家計における「貯蓄ゼロ」の割合が高まると思うのだけれども、必ずしもそうはなっていない。核家族家計では実際若い家計の「貯蓄ゼロ」の割合がより多く上昇しているが、ほかのグループも上昇している。逆に単身家計では、若い家計では「貯蓄ゼロ」の割合が低下し、50代における割合が最も上昇している。これらが、消費税増税やちょっとした景気の悪化(2013年の景気が2010年に比べて圧倒的に悪いわけではない)によって引き起こされると考えるのは難しいかなというのが現時点での感想だ。
というわけで、おそらくは、2013年に、調査方法が何かしら変わったのではないかと思った。実際、2013年には、「貯蓄がない」かどうか聞く質問表の文言が、以下のように変更されている。
右が2010年、左が2013年である。どちらの場合も、4つのカテゴリについて、貯蓄があるかないかを答え、全てにおいてないと答えた場合に、「貯蓄なし」となるようだ。但し、2010年には質問に対する答えの選択肢が「有」「無」であるのに対し、2013年は「貯蓄あり」「貯蓄なし」となっている。大石さん(@Kikoao)という方も先にtwitterで指摘してくれたけれども、この変化によって、もしかしたら、同じであるはずの質問に対する回答の仕方が変わったのではないかというのが、今のところ、僕の唯一の仮説である。行動経済学的であるが、今のところこれしか思いつかない。どなたかほかの仮説があったら教えて欲しい。
「変更理由」として、「記入者がわかりやすいようにする」としているが、この変更を実施する前にちゃんとパイロットプログラムのようなものを実施して、この変更が回答方法に影響を与えないか、とか、ちゃんとチェックしたのだろうか?(既に集計されたデータだけれども)これまで自分で触ったことは無かったが、とても面白く、役に立つデータセットなので、年毎に比べられないなんてことが無いように、がんばってもらいたい。元のマイクロデータ二アクセスできたらいろいろ面白いことができるなぁ、と思うのだけれども、簡単じゃないんだろうなぁ。アメリカだったら(このレベルのデータであれば欧州も)簡単にダウンロードできるのにな…
ちょっと前にtwitterで投稿したバージョンでは、分母に、回答=「不詳」という人たちも入れていたのだが、片山さん(@mnchk)のアドバイスにしたがって、「不詳」の人たちを除いてみた。「不詳」の人は少ないので、どちらにしても、メッセージは同じで、2013年だけ、「貯蓄が無い」と答えた家計の割合が大幅に上昇している。この上昇は、もともと高い29歳以下の家計を除くと全てのグループグループに当てはまる。
舞田さんは、おもしろい相関なり、データの変化を探すのがうまい人のようだ。但し、家計調査の専門家とかではないようだ。この関連の話をどこかに書いていたが、変なことも書いていた。ただ、この変化はとても面白いと思った。このグラフを引用して、あんまり考えずに緊縮的な増税を批判するのに使うような人もいたが、こういうデータに慣れているのであれば、これはおかしいと思うのが普通じゃないかと思ったので、このグラフは面白いと思ったのである。そもそも、どのように貯蓄を増やすかというのは、マクロの短期的な状況で大きく影響を受けるものでもない。2001-2010年に比べて、2013年の景気が圧倒的に悪いということもない。震災の影響かとも思ったが(確かに、2011年は被災地域を調査対象からはずしたりしているし、いろいろなデータが2011年は違っていたが、貯蓄に関するデータは無い)、震災から2年もたった後の話である。それに、例えばアメリカのこういうデータを見ていても、1980年以降、貯蓄がない人の割合がこんなに動いたことは無いと思う。
では、どうしたらこういうことが起こりうるか?を知るために、データをいくつか別の側面から見てみた。まずは、家計の年齢の分布が2013年だけ変わったりしてないか?以下のグラフが年齢分布である。
どの年も大体同じようなもんである。若いときは親と住んでたりする(その場合、家計としてカウントされない)ので、割合としては低くなる。高齢世代が少ないのは、子供と同居したり、死んだりするからだ。まぁ、一番最初にあげたグラフは、各年齢グループの中での、「貯蓄が無い」家計の割合なので、年齢の分布が変わっても影響は受けないんだけれども、いちおう念のため見てみた。では、一人暮らしの家計の割合はどうか?
見事に毎年同じである。一人暮らしの家計の比率は20代の時にとても高く(50%程度)、結婚するにつれ下がっていく(40代では約10%)。その後、おそらくはパートナーが死んだりすることでまた一人家計の割合が増えていく。このパターンは2013年とそれ以外の年で違わない。では、核家族(大人が二人、あるいは大人と子供)の割合は?
これも見事に毎年同じパターンを示している。2013年だけ異なるということはない。この二つのグループで家計の大半を占めるので、このグラフは上のグラフをひっくり返したような形になっている。ちなみに、この2つに含まれないのは、3世帯同居で、割合はあまり高くない。では、核家族のなかでも、一人親家計の割合はどうか?
2013年はちょっと高いが、そもそもこれらの家計の割合は高くない(最高で全家計の9%くらい)ので、2013年とそのほかの年の差が全家計を集計した時に大きな影響を与えるとは思えない。
では、なぜ、違うタイプの家計の割合を見て行ったかというと、それぞれのタイプの家計の「貯蓄が無い」家計の割合は大きく異なるからである。まずは、単身家計の「貯蓄がない」割合を見てみよう。
最初に見たグラフと同じく、2013年だけ際立って高い割合となっている。では、核家族家計はどうか?
同じく、2013年だけ際立って高い。ちなみに、「貯蓄が無い」家計の割合は、単身家計(2013年を除くと20-25%程度)のほうが核家族家計(2013年を除くと10%程度)より高くなっている。所得が高くて余裕のある人が結婚したり子供を作ったりしがちなのか、二人で働けるから貯蓄ができるのか、逆に、結婚したり子供ができたりすると貯蓄しなければと思うので貯蓄しがちになるのか、はこれだけではわからない。では、最後に、一人親家計の中で「貯蓄が無い」割合は?
かなりばらつきがあるが、これは、そもそも調査において、このような家計の数はとても小さいからである(例えば20代で貯蓄が無い家計の数は20以下)。但し、2013年の線が他の年より常に高いところにあることがわかるであろう。
これらのことから何が推測できるか?最初に示したグラフ(2013年に「貯蓄が無い」と答えた家計の割合が急に増えている)は、2013年に貯蓄の無いタイプの家計(単身、一人親等)が増えたからではない。どの年齢層も同じように上昇しているので、教育費とか、家を買うための支出といった、ある特定の年齢に集中するイベントに関連することが理由とも思えない。
同様に、消費税増税が原因であれば、そもそも資産をあまり持っていない若い家計や単身家計における「貯蓄ゼロ」の割合が高まると思うのだけれども、必ずしもそうはなっていない。核家族家計では実際若い家計の「貯蓄ゼロ」の割合がより多く上昇しているが、ほかのグループも上昇している。逆に単身家計では、若い家計では「貯蓄ゼロ」の割合が低下し、50代における割合が最も上昇している。これらが、消費税増税やちょっとした景気の悪化(2013年の景気が2010年に比べて圧倒的に悪いわけではない)によって引き起こされると考えるのは難しいかなというのが現時点での感想だ。
というわけで、おそらくは、2013年に、調査方法が何かしら変わったのではないかと思った。実際、2013年には、「貯蓄がない」かどうか聞く質問表の文言が、以下のように変更されている。
右が2010年、左が2013年である。どちらの場合も、4つのカテゴリについて、貯蓄があるかないかを答え、全てにおいてないと答えた場合に、「貯蓄なし」となるようだ。但し、2010年には質問に対する答えの選択肢が「有」「無」であるのに対し、2013年は「貯蓄あり」「貯蓄なし」となっている。大石さん(@Kikoao)という方も先にtwitterで指摘してくれたけれども、この変化によって、もしかしたら、同じであるはずの質問に対する回答の仕方が変わったのではないかというのが、今のところ、僕の唯一の仮説である。行動経済学的であるが、今のところこれしか思いつかない。どなたかほかの仮説があったら教えて欲しい。
「変更理由」として、「記入者がわかりやすいようにする」としているが、この変更を実施する前にちゃんとパイロットプログラムのようなものを実施して、この変更が回答方法に影響を与えないか、とか、ちゃんとチェックしたのだろうか?(既に集計されたデータだけれども)これまで自分で触ったことは無かったが、とても面白く、役に立つデータセットなので、年毎に比べられないなんてことが無いように、がんばってもらいたい。元のマイクロデータ二アクセスできたらいろいろ面白いことができるなぁ、と思うのだけれども、簡単じゃないんだろうなぁ。アメリカだったら(このレベルのデータであれば欧州も)簡単にダウンロードできるのにな…
Facebook and House Prices
いつもの調子にもどって、面白いペーパーを見たので、その紹介をする。Bailey, Cao, Kuchler, Stroebelの新しいペーパー("Social Networks and Housing Markets")である。最近は面白い(けど著者だけがアクセスできることが多い)マイクロデータを使った研究が増えているが、このペーパーもそのようなものの典型例である。
まずは、ビッグピクチャーから話してみよう。同じような人が住んでいる経済で、皆が住宅価格の先行きについて同じような予想を持っていたら、取引は発生しない。皆が住宅価格が上がると思えば皆買い手になるので取引が生じようがないし(売り手がいない)、逆に、皆が住宅価格の先行きに悲観的であれば、皆今のうちに売り抜けようとするので、同じように取引が発生しない。もちろん、現実的には、若い人は結婚や子供の誕生をきっかけに、買うことが多いし、年をとれば、大きな家が要らなくなって、小さい家に引っ越したりする。これらのライフサイクルに基づく行動は、住宅価格の将来の期待に多少は左右されるかもしれないが、住宅価格についての予想が皆同じようであっても、住宅市場において取引を可能にするであろう。
でも、実際は、皆が同じような情報を入手できるにもかかわらず、住宅価格の先行きに関する予想は異なっている。彼らのペーパーから、住宅価格の先行きについての質問した答えの分布を紹介しよう。
同じ郵便番号(zipcode)のエリアに住む人たちに、住宅に投資することはどのくらい良い(悪い)投資かを聞いた質問に対する答えだが、「かなり悪い」という人もいれば「かなり良い」という人もいる。(ちなみに、これらの違いは、各回答者の目に見える特徴をコントロールしても存在する)同じ郵便番号のところに住んでて、普段は多分同じ上方に接することができるにもかかわらずなぜこのように違いが生じるのであろうか?
彼らの仮説は、それぞれの人は友人の経験を聞くによって、自分の住んでいる地域の住宅価格の先行きについての予想が影響を受けるというものである。同じところに住んでいる人でも、友人は違うところに住んでいるので、友人の多くが住宅ブームにあたって住んでいる住宅の価値が上がってそのうれしい話をたくさん聞かされれば、自然と自分の住んでいるエリアの住宅価格に対する予想も楽観的になり、逆に、友人の多くが住宅価格の下落によって損をすれば、その話を聞かされることによって、自分の見通しも悲観的になる、というのが彼らの仮説である。実際、人は友人と住宅について話すようだ。下のグラフは、どのくらい友人と住宅価格について話すかについてのアンケート結果である。「しばしば(often)」という人と「ときどき(sometimes)」という人を合わせると半分以上だ。
ここで、Facebookのデータが役に立ってくる。彼らの共著者の一人はFacebookの研究部門で働いているので、Facebookのデータにアクセスできる。それに加えて、上で挙げたような質問をFacebook上で実施することができる。著者らがどのようにFacebookを使ったかというと、Facebookのユーザーの友人が住んでいるところ(郵便番号)はFacebookで(だいたい)把握できる。そのデータと、各郵便番号のエリアの住宅価格の推移(これについてはオンライン上の住宅売買サイトのデータを使っている)をリンクすると、あるユーザーの友人が住むエリアの住宅価格の変化の平均を出すことができる。下のグラフは、ある郵便番号エリアにおける、そのような「友人の住宅価格の2年間の変化の平均の分布」を示している。結構ばらけていることがわかる。例えば、LAの同じエリアに住んでいる人でも、友人の多くがシリコンバレーにいれば彼らの話を聞かされることで自分の住んでいるエリアの住宅価格の見通しについて楽観的になる一方、デトロイト出身とかで、そのエリアに友人がいっぱいいる人は、LAの同じエリアに住んでいても、住宅価格が大きく下落した知人の話しをたくさん聞かされるせいで、自分の住んでいるエリアの住宅価格の見通しについても悲観的になってしまうのである。
彼らの主要な実験は、この各ユーザーの友人の住宅価格の変化が、本人の住宅売買行動に相関しているかなどを調べたものである。Facebookのデータを住宅取引に関する登記のデータベースと連結することで、Facebookのユーザーの住宅売買行動も把握できるのである。主要な結果は、以下の通りである。
(1) 人は住宅価格について友人とよく話し、友人の住宅価格の変化は自分のエリアの住宅価格の予測に対して有意な影響を与える。これについては上で既に説明した。この結果はFacebook上でアンケートを容易に実施できることで簡単に得ることができる。
(2) あるユーザーのSocial Networkに入っている友人が住むエリアの住宅価格が過去2年間で5pp上がった場合、そのユーザーが賃貸から持ち家になる確率は3.1pp高まり、平均で1.7%大きい家を買い、家を購入する際に3.3%多く支出をすることがわかった。
(3) 友人の住宅価格が上がった人の多いエリアではそのエリアの住宅価格もより上昇した。また、友人の住宅価格の変化の平均がよりばらけているエリアでは、より住宅が取引され、住宅価格の上昇率も大きかった。二つ目の結果は、マーケットに参加している人の予想が大きく異なれば異なるほど取引も発生しやすいという考えと整合的である。
モデルとかは別になくても、面白いデータを使って、重要な質問について、シンプルな分析を行うという、いかにも今流行のど真ん中のペーパーという感じだ。こういうプロジェクトをやってみたいものである。
まずは、ビッグピクチャーから話してみよう。同じような人が住んでいる経済で、皆が住宅価格の先行きについて同じような予想を持っていたら、取引は発生しない。皆が住宅価格が上がると思えば皆買い手になるので取引が生じようがないし(売り手がいない)、逆に、皆が住宅価格の先行きに悲観的であれば、皆今のうちに売り抜けようとするので、同じように取引が発生しない。もちろん、現実的には、若い人は結婚や子供の誕生をきっかけに、買うことが多いし、年をとれば、大きな家が要らなくなって、小さい家に引っ越したりする。これらのライフサイクルに基づく行動は、住宅価格の将来の期待に多少は左右されるかもしれないが、住宅価格についての予想が皆同じようであっても、住宅市場において取引を可能にするであろう。
でも、実際は、皆が同じような情報を入手できるにもかかわらず、住宅価格の先行きに関する予想は異なっている。彼らのペーパーから、住宅価格の先行きについての質問した答えの分布を紹介しよう。
同じ郵便番号(zipcode)のエリアに住む人たちに、住宅に投資することはどのくらい良い(悪い)投資かを聞いた質問に対する答えだが、「かなり悪い」という人もいれば「かなり良い」という人もいる。(ちなみに、これらの違いは、各回答者の目に見える特徴をコントロールしても存在する)同じ郵便番号のところに住んでて、普段は多分同じ上方に接することができるにもかかわらずなぜこのように違いが生じるのであろうか?
彼らの仮説は、それぞれの人は友人の経験を聞くによって、自分の住んでいる地域の住宅価格の先行きについての予想が影響を受けるというものである。同じところに住んでいる人でも、友人は違うところに住んでいるので、友人の多くが住宅ブームにあたって住んでいる住宅の価値が上がってそのうれしい話をたくさん聞かされれば、自然と自分の住んでいるエリアの住宅価格に対する予想も楽観的になり、逆に、友人の多くが住宅価格の下落によって損をすれば、その話を聞かされることによって、自分の見通しも悲観的になる、というのが彼らの仮説である。実際、人は友人と住宅について話すようだ。下のグラフは、どのくらい友人と住宅価格について話すかについてのアンケート結果である。「しばしば(often)」という人と「ときどき(sometimes)」という人を合わせると半分以上だ。
ここで、Facebookのデータが役に立ってくる。彼らの共著者の一人はFacebookの研究部門で働いているので、Facebookのデータにアクセスできる。それに加えて、上で挙げたような質問をFacebook上で実施することができる。著者らがどのようにFacebookを使ったかというと、Facebookのユーザーの友人が住んでいるところ(郵便番号)はFacebookで(だいたい)把握できる。そのデータと、各郵便番号のエリアの住宅価格の推移(これについてはオンライン上の住宅売買サイトのデータを使っている)をリンクすると、あるユーザーの友人が住むエリアの住宅価格の変化の平均を出すことができる。下のグラフは、ある郵便番号エリアにおける、そのような「友人の住宅価格の2年間の変化の平均の分布」を示している。結構ばらけていることがわかる。例えば、LAの同じエリアに住んでいる人でも、友人の多くがシリコンバレーにいれば彼らの話を聞かされることで自分の住んでいるエリアの住宅価格の見通しについて楽観的になる一方、デトロイト出身とかで、そのエリアに友人がいっぱいいる人は、LAの同じエリアに住んでいても、住宅価格が大きく下落した知人の話しをたくさん聞かされるせいで、自分の住んでいるエリアの住宅価格の見通しについても悲観的になってしまうのである。
彼らの主要な実験は、この各ユーザーの友人の住宅価格の変化が、本人の住宅売買行動に相関しているかなどを調べたものである。Facebookのデータを住宅取引に関する登記のデータベースと連結することで、Facebookのユーザーの住宅売買行動も把握できるのである。主要な結果は、以下の通りである。
(1) 人は住宅価格について友人とよく話し、友人の住宅価格の変化は自分のエリアの住宅価格の予測に対して有意な影響を与える。これについては上で既に説明した。この結果はFacebook上でアンケートを容易に実施できることで簡単に得ることができる。
(2) あるユーザーのSocial Networkに入っている友人が住むエリアの住宅価格が過去2年間で5pp上がった場合、そのユーザーが賃貸から持ち家になる確率は3.1pp高まり、平均で1.7%大きい家を買い、家を購入する際に3.3%多く支出をすることがわかった。
(3) 友人の住宅価格が上がった人の多いエリアではそのエリアの住宅価格もより上昇した。また、友人の住宅価格の変化の平均がよりばらけているエリアでは、より住宅が取引され、住宅価格の上昇率も大きかった。二つ目の結果は、マーケットに参加している人の予想が大きく異なれば異なるほど取引も発生しやすいという考えと整合的である。
モデルとかは別になくても、面白いデータを使って、重要な質問について、シンプルな分析を行うという、いかにも今流行のど真ん中のペーパーという感じだ。こういうプロジェクトをやってみたいものである。