Vanguard

Economist誌がVanguard社についての記事を書いていた。経済学者として知っていなければならなかったのかもしれないけれど、初めて知ることが多くて面白かった。Vanguardというと、インデックスファンド(例えばS&P500のようなインデックスと同じリターンを実現するファンド)に特化した投資会社である。

現在Vanguardは3.5兆ドル(アメリカのGDPの約20%、日本のGDPの約75%)という巨大な資産を持ち、アメリカの株式の約5%を保有し、アメリカの4大銀行3大株主の一人である。とはいえ、Vanguardの一番の特徴というのは、一般的なファンドのように、高いリターンを生み出すために積極的にいろいろな資産を取引するというようないわゆるActive management(能動的な投資戦略といえばいいかな)をせずに、S&P500のようなインデックスと同じリターンを実現するファンドを運営するといういわゆるPassive management(受動的な投資戦略)を行っているという点である。

今でこそ巨大であるが、1970年代に設立された当初は、ビジネスを軌道に乗せるのに苦労したそうだ。その理由というのは、「何で平均的なリターンで満足しなければいけないのか」とか「このような弱気な投資戦略は反アメリカ的だ」とか、思われていたからだそうだ。それに、昔は、あるファンドを売るとブローカーが手数料をもらえるという仕組みだったので、手数料を出さないVanguardのファンドをブローカー達は売りたがらなかったみたいだ。

そういう多難な出だしだったVanguardがここまで成長したのは、創業者のJohn C. Bogleの、Active mangementを実施する投資家がS&P500のようなインデックスを上回るリターンを常に実現するのはとても困難なのだから、インデックスを再現するファンドを、低い手数料で売れば負けるわけがない、という考えが的を得ていたからだ。実際、彼は、プリンストンで大学生だった時に、3/4の投資ファンドはS&P500のリターンを下回っているという研究をしたらしい。

Vanguardの革命というのは、彼の信念を実現したからこそ実現したようだ。Vanguardはコストを抑えるために扱うファンドの種類を限定するとともに、Vanguardのファンドの所有者によってVanguard自体が所有されるという形式を維持することで、利益が増えたときには配当を出すかわりに手数料を引き下げることを行っている。更に、扱うファンドの金額が増えれば増えるほど、規模の経済を利用してファンドを運営するコストを下げ、手数料の低下に反映させることができる。規模が大きくなるだけで、業務が劇的に増えているわけではないので、社員の数もあまり増えていない。下のグラフは、Vanguardがいかに劇的に手数料の「価格破壊」を行ってきたかを示している。

Economist誌はVanguardのようなPassive managementの投資会社が作り出すかもしれないリスクとして以下の3つについて議論している。
  • Vanguardが提供するインデックスファンドを通じて多くの会社の株式が所有されていると、株式市場の動きがより大きくなるかもしれない。多くの顧客がインデックスファンドから資金を引き上げると、インデックスに含まれる会社の株価がいっせいに下落するかもしれないからだ。ただし、今のところ、データはそういう仮説をサポートしていないようだ。
  • Passive managementのもとでは、会社の業績にしたがって投資戦略が影響を受けたりしないので、株式を保有される会社が価値を高めるというインセンティブに悪影響を及ぼすかもしれない。このような懸念に対しては、保有されている会社は、そのようなインセンティブ付けがなくても会社の価値を高めるインセンティブは十分にある、と述べられている。
  • Vanguardのようなファンドが多くの競合する企業の大株主である場合、保有されている企業は競争せずに談合するのではないかという懸念もあるらしい。
いずれにしても、Vanguardおよび競合先であるBlackRockをはじめとするPassive managementの投資会社は、急激に成長したとはいえその世界の株式に占めるシェアはまだ30%程度であるので、インデックスファンドが大きくなりすぎるリスクを心配するにはまだ早いであろう。但し、今後各国の年金基金が大きくなったり、より多くの、アクティブには投資しないけれども株式市場に資産を置いておきたい人が株式を保有するようになると、Passive managementファンドの重要性はより高まっていくだろう。

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