東京財団というところが、将来の消費税の税率を変えることによって、国の財政状況がどのように変わるかシミュレートできるモデルを公開していることを知った。簡単ながらいくつか感想を…
1. アメリカだとこういうことはよくCBO (Congressional Budget Office)がやっている印象がある。CBOは政府機関ではあるが、政府(の意向)とは独立して(ありえそうないくつかのシナリオに基づいて)このような試算をよく行っている。日本では政府の中に、このようなことを独立して実施する機関はないようなので、すばらしい試みだと思う。
2. Rで書かれているスタンドアローンのバージョンと、ブラウザ上で走らせることのできるバージョンがあるみたいだ。Rなんて使う気はしないし、複雑な計算をしているは思えないので、Excelで書いてくれるとうれしい。IMFだって複雑なシミュレーションをExcelでやっているんだから、Behavioral responseのない均衡を解かないモデルである限りできないわけはないと思う。
3. 将来の消費税率を変更した時に、経済成長率が影響を受けないことが、「非現実的」だと批判する人もいるらしいが、この仮定は中立的だという意味でリーズナブルだと思う。消費税率(あるいは一般的に経済政策)を変えた時に経済の動きがどのように変わるかということを考え出すと、どうしてもモデルの結果が恣意的になるので、経済政策が経済のパフォーマンスに影響を及ぼさないという仮定をきちんと明示した上で使う限り、この仮定でいいと思う。
4. 例えば、himaginaryさんがこのエントリで、消費税が引き上げられた時に経済成長率が下がる方が「現実的」(ブログのエントリのタイトルでは「もっともらしい」といっている)だと主張して、そのような要素を加えたモデルを考察しているが、こんなもん、現実的でもなんてもない、(もっともらしく見せた)恣意的な議論の好例である。消費税(あるいはVAT)が高い国は経済成長率が長期的に低いというような証拠は見たことがない(あったら教えて欲しい)。いわゆる(経済の構造が比較的似通っている)「先進国」の歴史を見ると、消費税の税率は国ごとに異なっているし、税率も時とともに変化しているけれども、経済成長率が消費税率と強く相関しているような話は聞いたことがない。(長期的な経済成長率が外生の)普通のモデルで考えても、消費税率を上げるとGDPの(成長率ではなく)「レベル」が下がることは考えられるけれども、その効果は一時的であり、成長率は長期的には元の外生的に設定されたものに戻るだけである。日本のデータにおいてこのようなモデルのインプリケーションが正しいかどうかは、期間が短い上に様々な要素をコントロールしなければならないので、良くわからないというのが正直なところだが、消費税率を上げると必ず経済が(長期的に)停滞するような証拠も乏しいと思う。
5. 消費税率が引き上げられると景気に悪影響を及ぼすと考える人たちでおもしろいのは、彼らはそういう意味でのラッファー効果(税率を上げると経済活動が停滞して税収が減少する効果)を強調しておきながら、個人あるいは法人所得税率の引き下げによる正のラッファー効果にはあまり興味がないように見えることである。消費税引き上げの効果のように需要サイドへの効果を経由するものは短期的な効果で、所得税のように供給サイドへの効果を経由するもの方が長期的な効果があると考えるのが普通だと思うのだが。
6. とはいえ、このような、経済主体が行動を変えないモデルは、普通は微々たる政策の変更の効果を見るためには近似として有効だけれども、(経済主体が行動を変えるに違いない)大きな政策の変化に対する効果を分析するモデルとしては不完全であることは、モデルの信用を維持するためにも、強調し過ぎてし過ぎることはないだろう。消費税率を1000%に引き上げた時のモデルの予測はおそらくいろいろな意味で非現実的なはずだ。そうであれば、モデルの生み出す予測の連続性から(by continuity)、ある程度大きな政策変化に関するモデルの予測も眉唾である可能性があるということができる。
7. 例えば、モデルの中で消費税率を大きく引き下げれば、おそらくは将来的な公的債務残高が大きく増加するだろう。この場合、さすがに国債の大部分を国内で買い支え続けることは現実的ではなくなってくるだろう。そういう状況で、海外の投資家が買う国債の量が増えていけば、今のように、公的債務拡大を続けても国債の金利が反応しない状況はいつか終わり、海外の投資家からはそれなりのリスクスプレッドを要求されるようになるんじゃないかと思う。このような変化はモデルに取り込まれているのか?
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