Tony Atkinsonが2017年の1月1日に亡くなった。Atkinsonといえば、今Piketty-Saezがやっていて大流行していることー各国の不平等の歴史的な変化についてのデータの整備、および最適課税理論ーをずっと前に始めた人である。Pikettyブームというか不平等ブームで彼の仕事にも以前にもまして注目度が高まった矢先だったので、残念である。
今回は、2015年に出版されたAtkinsonのベストセラー"Inequality - What can be done?"で提示された15の提言が彼のホームページにあるので、それを和訳して書いておく。かなりの政府介入を許容しているのに驚きである。次回は彼のもうひとつの最近の仕事ー各国の不平等に関するデータの整備ーについて触れる。
1. 技術革新の方向性は政策決定者にとって直接的な関心事であるべきである。労働者が雇用されやすく、サービスにおいて人間的な側面が重視される技術革新を促進すべきである。
2. 政策は、利害関係者のパワーバランスをうまくつりあわせることを目指すべきである。そのために以下のことをすべき:
(a) 競争政策の実践において明示的に(所得の)配分を考慮する。
(b) 労働組合が労働者を適切に代表できるような法的な枠組みを整備する。
(c) もし存在していなければ、社会的な団体が政策決定に関与できるような社会経済諮問機関を設置する。
3. 政府は失業を減らすための直接的な目標を設定すべきである。そのために、働きたくても働き先が見つからない人のために、最低賃金での公的セクターでの雇用を保証べきである。
4. 以下の二つの要素からなる社会保障政策があるべきである。(1) 最低限の生活を保障する最低賃金。(2) 社会経済諮問機関も関与した上で合意される、最低賃金を上回る賃金についての規範。
5. 政府は、正の実質利子率が保証され、個人の保有額に上限のある、貯蓄用の国債を発行するべきである。
6. 全成人に与えられる最低限の相続額が設定されるべきである。
7. 公的な投資機構が設立されるべきである。この投資機構は、企業や土地を保有することで国家の純資産を増やしていくのが目的である。
8. 個人の所得税率は累進性が高いものに回帰すべきである。最高税率は65%まで。そして税基盤を広げるべきである(控除とかを廃止するということか?)
9. 低い所得に対して勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit or Earned Income Discount)を導入すべきである。
10. 遺産や生前供与には、贈与額全体に対して累進的に課税するべきである(つまり、少しづつ供与することで課税を回避することができないようにするべきである)。
11. 固定資産に対しては、時価に応じた、定率あるいは累進的な固定資産税が課されるべきである。
12. 子供への補助金(Child Benefit)は全ての子供に手厚く支払われ、その補助金は課税対象となるべきである。
13. 現在存在する社会保障制度に加えて、社会参加所得(Participation Income)が導入されるべきである。これは、子供にはベーシックインカム(BI)として適用される。
(注:Participation Incomeとうのは、Atkinsonが主張するもので、BIとの違いは、PIを受け取るためには、ボランティア活動あるいは高齢者の手助けなどのサービスを提供しなけばならない点である。このことで、BIの問題点である、労働への負のインセンティブ、あるいは受益者がこうむるかもしれない汚名を和らげることを目的にしている)
14. 社会参加所得の代替案としては、社会保障制度の拡充(金額の引き上げおよび適用範囲の拡大)をしなければならない。
15. 先進国はODA(政府公的支援)の金額のターゲットをGNPの1%とすべきである。
そのほか検討に値する提言:
(1) 家計の(住宅などを担保としない)無担保借り入れがどのくらいできるかについての詳細な調査。
(2) 民間の年金の税制面の優遇措置の是非に関する調査。
(3) 資産税(wealth tax)の導入についての調査。
(4) 世界中に散らばる全資産に対する統一的な課税システム(税率が低い国に資産を移すことによる税逃れを防ぐためだろう)
(5) 企業への最低課税額の導入。
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