NBER Summer Institute: Micro Data and Macro Models (2)

前回に引き続いて、NBER Summer InstituteのMicro Data and Macro Modelsで発表されたペーパーのついてのメモ。今回は2日目。

Fagereng, Holm, Moll, and Natvik, "Saving Behavior across the Wealth Distribution: Evidence from Norway"
ペーパーやスライドが公開されていないので詳細は覚えていないのだけれども、ノルウェーの1993-2015年の個人の資産と所得のパネルデータを使って、資産の異なる人の貯蓄パターンがどのように異なるかを見てみた論文。横軸に総資産、縦軸に貯蓄率をとると、スゥッシュ型(ナイキのロゴの形)をしているらしい。つまり、資産が最低レベルから増えていくと、貯蓄率は少し低下するが、資産がプラスになるあたりからは貯蓄率は増えている。でも、これは、資産(主に住宅)の価値が上がっているからそう見えるだけであって、資産価格をコントロールすると、資産がゼロより上の人の貯蓄率はフラットで、シンプルなモデルと整合的。多分、ノルウェーのデータの価値で押しまくるペーパーなのだろう。

Bach, Calvet, and Sodini, "From Saving Comes Having? Disentangling the Impact of Saving on Wealth Inequality"
こちらは、スウェーデンの個人の所得と資産のパネルデータのお披露目のような論文だった。同じように、貯蓄率が資産に応じてどのように異なっているかを見ており、確か、上のペーパーと同じように、ある資産レベルを超えるとフラットな貯蓄率(なので理論と整合的)だという結果だったと思う。

上の2つのペーパーで印象的なのは、良質なマイクロデータを提供できる国であれば、その国のデータを使った研究がさかんになるということである。北欧諸国の消費や資産(個人・家計レベルの詳細なパネルデータがある)あるいは労働市場(企業と労働者がマッチされたデータがある)に関する研究が盛り上がっているように見えるのはこのおかげだろう。日本も良質のデータを提供できればよかったのに。良質のマイクロデータがあることで研究が進むという流れからは出遅れた感がある。

Guren, McKay, Nakamura, and Steinsson, "Housing Wealth Effects: The Long View"
アメリカの1975-2017年の都市レベル(380の都市)の住宅価格およびリテール産業の雇用者数のデータを使って、住宅価格の資産効果が最近と過去で異なっていたか、そして、資産効果は住宅価格が上がったときと下がったときで異なっているか(非対称性)を検証した論文。背景としては、アメリカの大不況期において、消費が大きく停滞したのは、住宅価格の下落による負の資産効果が大きかったからだといわれていること、および、住宅を担保にした借り入れが2000年以降特に増加したから大不況期における負の資産効果が大きかったのではないかといわれていることが挙げられる。この大きな負の資産効果は大不況期の住宅価格の大きな下落だけに当てはまるものか、それとももっと一般的なものかを調べてみたといえる。結果としては、資産効果の度合いは2000年より前と後で特に異なってはいない、それに、資産効果の非対称性はみられない、というものであった。彼らによると、住宅価格が1ドル上がったときに消費の増加は3.3セント。

Fuster, Kaplan, and Zafar, "What Would You Do with $500? Spending Responses to Gains, Losses, News, and Loans"
NY連銀は、2013年以降、消費者期待調査(Survey of Consumer Expectations)という調査を実施している。全米を代表する1300の家計に、毎月、今後1年のインフレ率、賃金上昇率、所得上昇率を質問している。このペーパーでは、この調査に特別な質問を加えてもらい、架空のシナリオで500ドル(500ドルがベンチマークだけどあるいはそれより大きな金額についても聞いている)を急に得たり失ったりしたときに、消費者がどのように消費・貯蓄パターンを変えるかを調べた。結果は以下の通り。(1) 500ドルを急に得たときの消費の反応は人によって大きく異なる、(2) 500ドルを急に失ったときの反応も人によって大きく異なるが、500ドルを得たときの反応より大きい。(3) 将来500ドルをもらえると聞いたときの反応は小さい。(4) 1年間無利子のローンを与えられても反応は小さい。(5) その一方、将来500ドルを失うと聞いたときは消費を切り下げる(つまり、将来のことを何も考えていない=myopiaわけではない)。

最後のペーパーが象徴的なんだけれども、良質のマイクロデータにアクセスできる人、データを作れるコネやリソースのある人に大きなアドバンテージがあるのだなぁという感じである。

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