NBER Summer Institute: Micro Data and Macro Models (1)

前回に引き続いて、NBER Summer Instituteで見たペーパーのメモ。今回は、Hurst, Kaplan, Violanteによる新しいグループ"Micro Data and Macro Models"の初日のペーパーについてのメモ。

Ottonello and Winberry, "Financial Heterogeneity and the Investment Channel of Monetary Policy"
最近は、金融政策の効果を、どのような家計にどのような影響があるかをデータで見て、それをもとに異質性の入ったモデルをつくることが行われてきているが、その企業バージョン。自然に思いつく次のステップといえる。アメリカの公開企業のデータ(Compustat)を使って、どのような企業が金融政策に反応して投資を増やしたり減らしたりするかを見てみたところ、借り入れ額が小さくて(レベレッジが効いていなくて)、格付けが高い企業の投資の反応の方が大きかった。借り入れが大きくて格付けが低い企業の方が、金融政策の効果で借り入れ制約が引き締まったりゆるんだりして投資額を大きく変化させると考えることもできるので、ある意味驚くべき結果といえる。この結果をもとに、企業の異質性のあるNK-DSGEモデルを作って、彼らのデータと整合的になる(カリブレーションの仕方によるのかな)ことを示した。金融政策の効果は、企業の格付けや借入度合いの分布によって異なってくるというインプリケーションは面白い。

Bahaj, Foulis, Pinter, and Surico, "The Employment Effects of Monetary Policy: Macro-Evidence from Firm-Level Data"
発表は見逃してしまったので、1月のAEAのスライドを見てみた。上のペーパーと同じように、金融政策の影響が異なる企業に対してどのように異なっているかを、イギリスのデータを見て分析している。また、投資ではなく、それぞれの企業の雇用がどのように金融政策によって影響を受けるかを見ている。金利の引き上げに対して、総雇用者数は当然マイナスに反応するが、若い企業(設立から10年以内)、小さい企業(雇用者数1000人未満)、格付けの低い企業の方がマイナスの影響は大きく、そういう企業の方が金利引き上げで借入制約がよりタイトになって舞いますの影響が大きくなるというチャンネルと整合的上のペーパーと反対に見える結論なので面白かったと皆が言っていた。アメリカとイギリスの違い、Compustatのカバレッジの狭さ、投資と雇用の違い、分析手法の違い、など、いろいろ結果が異なる理由となりうるものはあるが、今後の展開に期待である。

Dupor, Karabarbounis, Kudlyak, and Mehkari, "Regional Consumption Responses and the Aggregate Fiscal Multiplier"
アメリカの大不況の時に実施された大規模な財政拡張政策であるアメリカ復興・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act)のもとで配分された金額が各州で異なることを利用して、州レベルで財政支出を1ドル増やしたときに民間支出がどの程度増えるか(財政乗数の消費バージョンである)を計算したところ$0.18であった。この結果を国全体の乗数に変換するため、州の違いを取り入れたDSGEモデルを作って国レベルの財政消費乗数を計算したところ$0.4であった。つまり、州レベルの(消費)乗数よりも国レベルの乗数は大きかった。これは、州の間の貿易が活発化するからである。

Auclert, Rognile, and Straub, "The Intertemporal Keynesian Cross"
ケインジアンモデルの乗数効果のようなものを、一般的なDSGEモデルの中で再解釈しているといえばいいのかな。よくわからなかった。誰か教えてほしい。例えば金融政策の効果は、静学的なモデルで考えれば、MPC(限界消費性向)が高ければ高いほど大きいと考えられるが、動学的なモデルを考えると、金融政策の「総」効果は、毎期毎期の消費の反応の合計(intertemporal MPC)で測ることができる。これが大きければ大きいほど、昔のケインズ経済学の乗数効果のように、静学的なMPCは一定でも、金融政策の効果は大きくなると言える。

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