Cross-Sectional Facts for Macro

過去20年のマクロ経済学における最も重要な進歩の一つは、ミクロから積み上げられた、真の意味でのmicro-founded macroの発展である。これは、いわゆるミクロ的基礎を持つrepresentative agentモデルという意味ではなくて、さまざまなタイプの消費者、企業、政府、金融機関…から構成されるモデルという意味である。決まった言い方はないが、このようなモデルは一般的には、heterogeneous-agent modelといわれる。

例を挙げてみよう。このようなモデルを使うと、ある景気刺激策が異なるタイプ(年齢、教育レベル、収入レベル、資産保有量など)の消費者にどのように異なる影響を与えるかを分析することができる。ただ、このようなモデルによる分析が有効である(説得力がある)ためには、今の例で言えば、異なるタイプの消費者がモデルと現実経済で同じくらいの割合存在している必要がある。よって、このようなモデルが使えるようになるためには、現実経済において異なるタイプの消費者がどのような割合存在しているかを知る必要がある。このようなデータはcross-sectional dataと呼ばれて、近年マクロ経済学でも積極的に用いられている。

前置きが長くなってしまった。Review of Economic Dynamicsという雑誌で、近々、さまざまな国(9カ国)におけるcross-sectional dataの特徴を比較するという特集が組まれている。その特集号の巻頭論文(Krueger-Perri-Pistaferri-Violante)ではその9カ国の比較と一般化が行われている。今回のエントリでは基本的にはこの巻頭論文の主なポイントを整理してみる。対象となっている9カ国はU.S.、Canada、U.K.、Germany、Italy、Spain、Sweden、Russia、Mexicoである(何で日本が入らなかったのだろう)。この特集号では、cross-sectional dataといっても、賃金、収入、消費等の格差に焦点が当てられているので、格差に関するデータの国際比較と呼んでもいいだろう。以下、何も考えず主要な発見(findings)を並べていく。

  1. 先進国の中では、2000年の賃金格差はU.S.、Canadaが他国より高い(log variance=0.45)。欧州は低い(log variance=0.2程度)、中間に位置するのはU.K.(log variance=0.33)。メキシコ、ロシアの賃金格差は先進国より高い。
  2. 2000年におけるCollege premium(大学卒の労働者が大学卒でない労働者に比べてどのくらい多くの賃金を得ているかの比率)はU.S.、Canadaで1.8(大学卒の労働者はそうでない労働者に比べて賃金が平均80%高いという意味)、ヨーロッパの国で1.5である。
  3. 2000年におけるExperience premium(45-55歳の労働者の平均賃金と25-35歳の労働者の平均賃金の比率)はほとんどの国で1.3-1.4である。
  4. 2000年におけるGender premium(男性の平均賃金と女性の平均賃金の比率)はどの国でも大体1.2-1.4。
  5. 賃金格差はU.S.、U.K.、 Canadaの3カ国では1980-2005の間に大幅に(40%)上昇した。College premiumやExperience premiumで説明できる部分は少ない。
  6. Skill premiumは1980-2005の間にU.S.、U.K.、 Canada、Mexicoの4カ国では大きく上昇した一方、多くのEUの国では低下した。Experience premiumはほとんどの国で20%程度上昇した。Gender premiumはほとんどの国で低下した。
  7. 労働所得(賃金×労働時間)の格差は賃金格差より大きい。
  8. 賃金格差が大きく上昇した3カ国(U.S.、U.K.、 Canada)では労働所得格差は賃金格差よりさらに拡大した。
  9. Germany、Spain、Italyでは、家計における平均労働所得の格差は労働所得格差より高い。U.K.、Canada、Swedenでは、家計における平均労働収入の格差は労働所得格差より低い。
  10. 政府によるredistribution(taxとsubsidy)は全ての国で所得格差を縮小させる働きを持っているが、縮小の程度は国によって異なる。U.S.、U.K.、Germanyでは可処分所得の格差(log varianceで測ったもの)は収入格差(taxやsubsidyを考慮する前のもの)の格差の2/3程度。SwedenとCanadaではこの比率は半分以下である。
  11. いくつかの国(特にSweden、Canada、Germany)では、所得格差は拡大したにもかかわらず、政府によるredistributionによって、可処分所得格差の拡大を抑えることに成功した。U.S.やU.K.では所得格差と可処分所得格差は同じように増加している。
  12. 消費の格差は可処分所得の格差に比べて小さい。いわゆるconsumption smoothingの効果である。
  13. 可処分所得格差と消費格差の差は、所得が高いグループほど小さい。
  14. 可処分所得格差の長期的な変化に比べて消費格差の変化は小さい。
  15. 景気と賃金格差の関係ははっきりしない。
  16. 景気が悪いときには、(特に底辺における)労働所得格差が拡大する。これは、単に景気が悪いときには失業率が高まるからである。
  17. 可処分所得の格差も景気が悪いときには拡大するが、拡大幅は労働所得格差に比べて小さい。これは、さまざまなautomatic stabilizer(失業保険など)が働いているからである。
  18. 消費の格差も景気の悪いときには拡大するが、拡大幅は可処分所得格差に比べてさらに小さい。
  19. 可処分所得格差も消費格差も年齢とともに拡大するが、拡大のスピードは消費格差の方が小さい。おそらくは、可処分所得格差のある割合はsmooth outされているからである。
  20. 賃金の変化をショックと考え、ショックを恒久的なショック(permanent shock)と一時的なショック(transitory shock)にわけてみると、一時的なショックのvarianceの方がずっと大きい。一時的なショックの中には観察誤差(measurement error)が含まれていることが一つの要因。

だらだら書いたのでわかりにくいかもしれない。気が向いたらいくつかのグループに分けて整理するかもしれない。

0 comments:

Post a Comment