New Kaldor Facts

AEJ Macroを眺めていたときに見つけた、Jones and P.Romer(2010)を簡単に整理する。この論文はいわゆる「カルドア事実(Kaldor facts)」をアップデートしたものである。カルドア事実とは何か。それは、1961年にカルドアが提示した、growth modelが満たすべき6つのstylized factsである。Kaldor factsをどのように訳すのかと思って検索してみたら、himaginaryさんという人が既にかなり前にこのことを書いていたのがわかったんだけれども、まぁ、自分のために書いているようなものなので気にせず書くことにする。訳し方とかはhimaginaryさんの方が正確かもしれない。

オリジナルのカルドア事実は20世紀の経済成長において観察された以下の6つのstylized factsである。
1.労働生産性は安定的に成長した。
2.労働者一人当たりの資本も安定的に成長した。
3.実質金利(=資本のリターン)は安定していた。
4.資産と産出量の比率(Capital output ratio)は安定していた。
5.資本収入と労働収入が総収入に占める割合は安定していた。
6.高成長した国においてかなりの(2-5%程度の)成長率の格差があった。

なぜこれらが有名になったかというと、これら(正確には最初の5つ)を満たすモデルとして、ソローモデルが作られ、かつ、ソローモデルを発展させることで作られてきた近年の主要なマクロモデルは基本的にまずこれらを満たすように作られているからである。例えば、RBCモデルも成長理論で使われるモデルと景気循環のモデルの統合を目指していたので、トレンドが除去されていないスタンダードなRBCモデルもカルドア事実を(平均的に)満たしている。

では、Jones and Romerが提示した、新しいカルドア事実を順に見ていく。成長理論が専門ではないことを断った上で書くが、これらがオリジナルのカルドア事実のような地位を占めるとはとても考えにくい。これらの事実がすべてのマクロモデルに必要な要素にはとても見えないからだ。とはいえ、成長論の第1人者が作ったリストであるから50年後にはオリジナルのカルドア事実のような地位を占めているのかもしれない。

1.グローバル化、都市化に伴い、モノ、アイデア、金融、人々の動きが活発になった(かなりの意訳である。もとの文章の意味は恥ずかしながらいまひとつよくわからない)。その例として、世界全体の貿易が世界全体のGDPに占める割合が1960年には25%程度だったのが、2000年には45%ほどまで上昇したこと、及び、FDI(直接投資)のGDPに占める割合が1965年の0.1%程度から2006年には2.8%まで、およそ30倍になった、ことを挙げている。

2.人口成長率と国民一人当たりGDPの成長率は過去数千年は0%であったのが直近の100年でかなり高いものになった。アメリカと欧州12カ国のデータによると、人口成長率は、西暦0年から約1000年の間はほぼゼロ、1000年から1750年あたり(産業革命)の間は0.3%、1750年から2000年の間は約1%であった。一人当たりGDPの成長率は西暦0年から約1000年の間は人口成長率と同様にほぼゼロ、1000年から1750年あたり(産業革命)の間は0.2%、1750年から2000年の間は約2%であった。

3.一人当たりGDPの成長率のばらつき度合いは一人当たりGDPが高いグループほど小さい。これは、OECD諸国の成長率の差と、途上国の成長率の差を考えれば容易に理解できるだろう。

4.一人当たりGDPの国による格差のうち、労働と資本の投入量の格差によって説明できる部分は半分以下である。シンプルなモデルだと残りの部分(Solow residuals)はTFPの格差で「説明」することになる。このTFPの格差をいかにより深い理論で「説明」するかという研究がParente and Prescottなどによってなされている。

5.労働者一人当たりの人的資本(Human capital)は世界中で上昇している。その証拠として、アメリカにおける平均教育年数が、1880年(生まれの世代)の7.5年から1980年には14年まで安定的に上昇したことが挙げられている。

6.人的資本の供給量の増加は、人的資本の価格の下落を招いていない。もう少し噛み砕いた言い方をすると、大学卒の労働者(のsupply)が世界中で増えているのに、大学卒の労働者の賃金が下がらないのは、puzzleとして知られている。一番受け入れられている理論は、skill-biased technological changeというものである。この理論によると、人的資本を多く持つ労働者が増えれば、人的資本の生産性をより高める技術(skill-biased technology)が発展することで、人的資本を持つ労働者の需要も合わせて増加するので、人的資本の価格が下がらない。

最後に、著者らは、これらの新しいカルドア事実をモデル化するに当たって重要な要素として、(非競合的な)アイデア、組織、人口、人的資本、を挙げている。

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