U.S. Post-War Debt/GDP Dynamics

今回取り上げるのは、G. Hall and Sargent, "Interest rate risk and other determinants of post WWII U.S. government debt/GDP dynamics"というペーパーである。ここ数年の不況及び財政の急拡大を受けて、アメリカの公的なDebt/GDP ratio(公的債務/GDP比率、以下ではDGRと呼ぶ)は大きく上昇し、 この先数年も上昇し続けることが見込まれている。数字を挙げると、2000年にはDGRは35%であったのが、2009年には55%に達している。これらの数字は、Social Security Fund(公的年金基金)が保有している債務、つまり政府の別の部門が保有している政府の債務を取り除いた数字であるが、この分を加えると、2000年には58%であったDGRが、2009年には86%にまで上昇し、まもなく、90%そして100%に達すると見込まれている。90%や100%という数字は日本と比べればなんでもないのだが、アメリカでは衝撃的な数字らしく、90%を超えたら維持不可能になってデフォルトの可能性が出てくるのではないかといった意見が出てきたり、何%までが維持可能なレベルなのかという議論が行われたりしている。

グラフを見たほうが直感的にわかりやすいので、以下にDGRのグラフを挙げておく。



黒い破線が社会保障基金が保有する分も含めた政府債務/GDP比率、赤い点線が、今回取り上げるペーパーの主な分析対象となっている、民間が所有する公的政務/GDP比率である。青い線は気にしなくてよい。

政府債務を考える上で大きな問題点は、特に先進国においては、デフォルトの数が少なすぎるので、モデルに即した議論が行われにくいということである。最近ではギリシャなどが近い状態にあって、デフォルトリスクによるプレミアムが上昇しており貴重なデータを提供しているが、ギリシャを基にして作ったモデルをアメリカや日本のような国に適用して役に立つのかという疑問はぬぐえない。個人的には、DGRが既に189%に達しており(CIAによる計算)、200%突破ももうすぐな日本がいずれデフォルトを起こす可能性は低くないと思う(もちろん個人的な勘である。もしかしたら、よく言われている、「日本は多くの政府債務が国内で保有されているから大丈夫」という仮説が正しいことが今後わかるのかもしれない)。そのときには、国としては苦しむかもしれないが、この分野の研究の発展のために必要なデータを提供することとなるだろう。ちなみにCIAによると日本のDGRは世界2位(1位はジンバブエで283%)、日本に最も近い先進国はイタリアだが、そのDGRは「たった」の115%。最近世間を騒がせているギリシャでさえ113%である。日本のDGRがいかに突出しているかがわかるであろう。

さて、このペーパーが行ったのは、第2次世界大戦後アメリカのDGRがどのように変化したか、その背後にあった要因は何か、についての細かい分析である。「成長さえすれば大丈夫」だとか「インフレを起こせばあっという間にDGRは低下する」とかよく言われているが、実際にこれらによって過去GDRが大きく下がったことがあったのか、などという質問に答えているわけである。言い方を変えれば、過去どのような要因でDGRが低下したかを知っておくことによって、DGRを下げるための方法がそれぞれどのくらい有効かがわかるのだ。過去のことがわかったからといって、今後どうすればよいかとか、現在の状況において何をすればよいかとかいった質問にすぐに答えられるわけではないのだが、この分析によって得られる結果の重要性がそれによって損なわれることはないであろう。特に、このペーパーの「売り」は、政府債務の種類(短期か長期か)を細かく見ることで、政府債務の平均的な金利を丁寧に計算し、政府がどのくらい短期債務・長期債務を保有しているかの構成が変わることによってどのくらい利払いが変化するかといったことまで見ていることなのだが、そういう細かい点は捨象して内容を整理する。

まずは、フレームワークから見ていこう。DGRが毎年どのように変化していくかというのは以下の式で表すことができる。例として、2009年から2010年の間の変化を表してみよう。

2010年末のDGR=2009年末のDGR×(1+2010年の政府債務の名目金利ー2010年のインフレ率ー経済成長率)+2010年の財政赤字/GDP比率

この式から以下のことが容易にわかる:
(1)2010年に政府が財政赤字を出したら、そのGDP比率は2010年末時点のDGRを増加させることとなる。
(2)2010年に政府が持っていた債務に関する名目金利が上昇すれば利払いが増えるので2010年末時点のDGRを増加させることとなる。
(3)2010年のインフレ率が上昇すれば2010年末時点のDGRは減少する。
(4)2010年の経済成長率が上昇すれば2010年末時点のDGRは減少する。

先ほど述べた、「成長さえすれば大丈夫」だとか「インフレを起こせばあっという間にDGRは低下する」といった話は(3)および(4)に対応する。この関係を使って、著者らはアメリカのDGRが第2次世界大戦後どのように変化していったかを分析した。分析の結果は以下の通りに要約される。

1.1945年から1974年にかけて、アメリカのDGRは97%(第2次世界大戦のための支出によって急速に蓄積した債務である)から17%に減少した。この80%の低下の内訳は以下の通りである。
(1-1) 16% はインフレ率が名目利子率を上回ったことによるものである。
(1-2) 32%は経済成長によるものである。
(1-3) 35%は政府が財政黒字を計上したことによる。

2.1970年代にはDGRは17%から20%に微増した。インフレ(11%)によって利払いの増加によるDGRの上昇分は打ち消されたが、継続的な財政赤字(6%)が微増に貢献した。

3.1981年から1993にかけての共和党大統領時代には、DGRは20%から48%まで28%上昇したが、その内訳は以下の通りである。
(3-1) 半分以上の18%は政府債務の蓄積によるものである。
(3-2) GDPの継続的な成長は13%のDGR減少に貢献した。
(3-3) その一方、インフレ率の低下で、実質的な利払いが増加した(23%の増加に貢献)。

4. クリントンの時代にはDGRは48%から29%まで約20%低下した。その主な要因は政府の財政収支黒字(DGRの16%改善に貢献)である。

5. 2001年から2009年のGWブッシュ、オバマの時代には、DGRは29%から49%まで約20%増加した。その主な要因は継続的な財政赤字(21%のDGR悪化に貢献)である。

とてもありがちな結論なのだが、高度経済成長のようなものが見込めないとすれば、財政収支(プライマリーバランス)の改善を行わないとDGRの低下は難しそうだ。

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