今回は、Haltiwanger、Jarmin、MirandaによるNBER Working Paper(“Who Creates Jobs? Small vs. Large vs. Young”)を取り上げる。今回はDavisと一緒ではないが、このペーパーもDavis-Haltiwangerによるjob creation and job destruction(雇用の変化を分析する際に、ネットでの変化だけを見るのではなくて、各企業がどれだけ増やしたり減らしたりしたかに分けて分析するアプローチ)に関する一連の研究の流れを汲んだものである。このブログではほぼ大体自分の専門から外れたことを書いているが、今回は特に外れ方が激しいので、間違って理解しているところがあったら指摘してもらえるとうれしい。
巷でよく言われている「中小企業が雇用の大部分を生み出している」という認識は正しいか、をなるべく丁寧に検証してみようというのがこのペーパーの趣旨である(正確には「小企業」だが、日本では「中小企業」という言葉がよく使われている気がするので「中小企業」という用語を用いる)。この認識は、政策決定者の間でもしばしば垣間見られる。彼らによると、「中小企業が新規雇用の2/3かそれ以上を生み出している」と言う数字が政策決定者によってしばしば使われている。また、中小企業支援という政策を打ち出す場合にこのフレーズがしばしば使われたりしている(中小企業を政策的に支援すれば雇用が増えるのだ、というような感じで)。では、何でこの認識が正しくない可能性があるのか?その理由として、アカデミアで共有されているGibrat's Lawという法則がある。この法則は、「企業の成長率は企業のサイズと無関係だ」というものである。では、彼らは、どちらが正しいという結論に達したか、簡単に見ていこう。以下では彼らがデータから見つけたことを箇条書きに書いていく。
1. 産業と年だけをコントロールして(産業と年による効果を取り除いた上で)(雇用で測った)企業の成長率と(従業員数で測った)企業の大きさの関係を調べると、負の相関があることがわかった。つまり、小さい企業ほど高い成長率を示しがちだということである。
2. 但し、この結果は、「平均への回帰」によって膨らまされている。わかりやすい例を挙げると、ある企業の従業員数が100人、50人、100人、50人、と毎年変化している場合、ひとつの企業が大きくなったり小さくなったりしているだけで、平均的にはこの企業の雇用者数はかわらないのに、企業の大きさと成長率の相関を取ると負の相関が生まれてしまう。このような効果を取り除くと(簡単に言えば企業の大きさの変わりに企業の「平均的な」大きさを使って相関関係を調べている)、企業の成長率と企業の大きさの間の負の相関は弱まることがわかった。
3. 今度は、産業と年に加えて、企業の年齢(創業から何年が経過しているか)をコントロールした上で、企業の成長率と大きさの関係を調べたところ、相関関係はなくなった。つまり、1.で小さい企業ほど高い成長率を示しがちのように見えたのは、若い企業は大体小さくて、若い企業が高い成長率を示しがちだからである。この結果と関連する研究として、Eric Hurstは、最近のWorking Paper(“Non Pecuniary Benefits of Small Business Ownership”)で、大部分の小企業は成長しないし成長したくもない、イノベートもしないししたくもないものなのだということをデータで示している。つまり、大多数の中小企業は企業家と呼ぶような行動パターンを示していないのである。言い方を変えれば、大部分の中小企業は近所のラーメン屋のようなもんであり、Googleではないのである。Hurstはこの結果を元に、中小企業を企業家のようにモデル化して分析すると間違った分析結果が導き出されてしまう可能性があると指摘している。
ひとつ数字を挙げてみよう。2005年にはアメリカの民間セクターは250万人の雇用増加(net job creation)を生み出したが、その内訳を企業の年齢別に見ると、年齢0歳の企業(新規企業)は合計で350万人雇用を増加させ、年齢26歳以上の企業は40万人の雇用増加を生み出した一方、それ以外の年齢の企業は合計で140万人雇用を減らしているのである。この数字を企業のサイズで見ると、どのサイズの企業も雇用を増やしているが、それは主に、小さいサイズの企業の雇用増は新規企業によって生み出され、大きいサイズの企業の雇用増は高齢である企業によって生み出されているからである。
ちなみに、この結果は特に目新しいものではないと思うかもしれないが、この研究の貢献は、企業の年齢を正確に把握できるデータセットを構築し、分析したことにある。細かい話なので詳細までは立ち入らないが、これまで使われてきた多くのデータセットでは、たとえばトヨタが新しい工場(一般的にはEstablishment)を建てたり、ある企業が買収されて別の名前で再出発したり、ある企業の一部がスピンオフして別の企業となったときに、(大きな)新規企業としてカウントされてしまう可能性があるのだが、彼らのデータセットではこのようなことを避けることができるので、企業の年齢というものをより正確に把握できている。
4. 3.では、若くて小さい企業が「雇用増加」を生み出していると書いたが、これは、グロスの雇用創出からグロスの雇用破壊を引いたものである。一方、どれだけの雇用を生み出したかということを考える際には、グロスの雇用創出を見ることも重要である。グロスの雇用創出を見てみると、大きくて高齢の企業(従業員501人以上、年齢10歳以上)が大きな部分(40%)を生み出している。一方、新規企業(年齢0歳)が生み出しているグロスの雇用創出は20%弱である。失業者の立場にたって考えてみると、どのタイプの企業に就職するかは完全にランダムだとすると、その約半分は大きくて高齢の企業に職を見つける一方、新規企業に職を見つける者の割合は20%でしかないのである。
3.と4.を比較すると、「雇用がどのような企業によって生み出されているか」という問題に対する答えは、結構複雑であることがわかるであろう。
5. さらに、若い企業は、生き延びたものは高い成長率を示しているが、生き延びない確率も高い。つまり、若い企業は多くの雇用を生み出す一方、多くの雇用を破壊しているのである。その一方、大きくて高齢の企業は、小さくて若い企業に比べると、相対的に雇用創出も雇用破壊も少ない。ひとつ数字を挙げると、新規企業によって創出された雇用は、40%の確率で、5年以内に企業の退出によって破壊されるのである。
6. Gibrat's Law(企業の成長率は企業のサイズと無関係)は、「平均への回帰」の影響を取り除くと、小さい企業(従業員数1-4の企業。主に若い企業である)は多少高い成長率を示しているものの、それ以外の企業では成り立っている。
7. どのように雇用を創出するかのパターンは小さくて若い企業と、大きくて高齢の企業で異なっている。前者は主にすでに存在する事業所(Establishments)の拡張によって雇用を創出するが、後者は主に新しい事業所を開設することで雇用創出を行う。
最後に、彼らは、この分析では技術進歩に対する貢献を考慮していないことに言及している。究極的には雇用の創出は技術革新に依存していることを考えると、どのような企業が雇用を生み出しているか、という質問と同じくらい重要なのは、どのような企業が技術革新を生み出しているか、という質問である。
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