またしてもものすごい期間が開いてしまった。こんなに続けるのが難しいならやめてもいいかという気にもなってくるのだけれども、ちょっと各エントリを短くするなり、小さな話を書いたりして続ける努力をしてみよう。
今回はごくごく簡単に、Sahn, Shapiro, and Slemrod, "Check in the Mail or More in the Paycheck: Does the Effectiveness of Fiscal Stimulus Depend on How It Is Delivered?" (NBER WP 16246)に触れてみる。lump-sum方式で景気刺激を行う場合、Ricardian Equivalence(RE)が成り立っている状況であれば、(割引現在価値ベースで見た)総額が変わらなければ、どのように景気刺激を実施しようが違いはないはずである。但し、実際には、どのように景気刺激を行うかによって消費者の反応が異なる証拠が存在する。このような証拠を見たときに、馬鹿の一つ覚えのように行動経済学を持ち出すか、REが成り立つための条件のどれが満たされていないのかを検証するところからはじめるかは、個々人の趣味によるところ大だが、このペーパーでは最近よくあるペーパーのようにお手軽に行動経済学的な解釈を試みている。
このペーパーで挙げられている証拠とは何か、簡単に触れてみる。このペーパーでは2008年と2009年に実施された景気刺激策の違いに注目している。2008年は、各家庭に、1回だけ、チェックが送られてきた。この当時アメリカにいた人はチェックが届いたとか届かなかったとか、話題になったので、覚えていると思う。2009年は、所得税減税という形がとられた。毎回の給与明細で、天引きされる税金が減ったのである。整理すると、2008年と2009年の景気刺激策の実施方法には2つの大きな違いがあった(減税されたときに限界税率がどのように影響を受けるかとかはとりあえず忘れてよい)。
(1)1回きりか毎回の給与に分割されたか
(2)チェックで受け取ったか天引きの減少という形だったか
彼らはMichigan Survey of Consumers(消費者行動を分析するために使われる有名な調査)のサンプルにいる消費者に対して2008年と2009年の景気刺激対策に対してどのように反応したかを質問することで、消費者の反応がどのように異なったか(あるいは異ならなかったか)を調べてみた。最も重要な発見は、2008年の景気刺激策に対して消費支出を増やしたと答えた家計が25%いたのに対し、2009年の景気刺激策に対して消費支出を増やしたと答えた家計は13%しかいなかったことである。
では、どのようにこの違いを説明できるか?著者らは、2つの行動経済学的アプローチを持ち出し、どちらが整合的か調べてみた。
まずは、Thalerが提唱するmental accounts(精神的口座分類?)という理論である。この理論によると、消費者は、日常の支出を管理する口座と、投資用の口座を心の中では別々に管理しており、日常の支出用の口座が増えたときの消費支出の反応は投資用の口座が増えたときの消費支出の反応より大きいのである。この考え方を2008年と2009年の景気刺激策に当てはめてみると、2009年の景気刺激策のほうが日常支出用の口座を増やすと考えられる。なぜなら、2008年のようにまとまった金額を一気に受け取ると人は投資用の口座に分類しがちだからである。逆に小額を小出しで受け取ると人は日常支出用の口座に分類しがちである。つまり、mental accountsの理論は彼らの発見と矛盾している。
次に、彼らは、Visibility(可視性)という理論を持ち出している。この理論によると、目に見えてわかりやすい収入の変化のほうが大きな消費支出の変化につながる。つまり、簡単な話だが、1回それなりの金額のチェックを受け取る方が、ちまちま天引きされる金額が減るよりもVisibilityが高い、つまり、目に見えてわかりやすいのでより強く消費を刺激するのである。この理論(というほどのものでもないが)は、彼らの発見と整合的である。2008年のチェック支給は大々的に宣伝された一方、2009年の所得税減税は大規模な景気刺激パッケージの一部であり、あまり大きく宣伝されなかったというのも、Visibilityの違いに影響を与えたのかもしれない。
Visibilityと区別がしづらいが、一回一回の現在が小額だと、消費者が気づかない、あるいは、可処分所得を大まかにしか捉えていないときには所得に変化がないと考えてしまうというのも説明のひとつとして考えられるであろう。
日本では景気刺激策はどのように実施されているのだろうか?現金支給をやってみてはどうだろうか?
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