Testing Job Search Model Using High-Frequency Data

Alan Kruegerが、大統領に経済に関する助言を行うために置かれている大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisers, CEA)の委員長に任命された。だからというわけではないが、彼の論文で、最近さまざまなメジャーな学会で発表されていた論文(Job Search and Job Finding in a Period of Mass Unemployment: Evidence from High-Frequency Longitudinal Data、SSRNからダウンロードできる)を簡単にまとめてみる。

ノーベル賞で有名になったDiamond-Mortensen-Pissarides(DMP)モデルにはさまざまな種類があるが、次の2つの要素を含んだモデルを考えてみよう。1つ目は、失業者が何時間職探しに時間を費やすかを決めるというものである。当然、時間をかければかけるほど職が見つかる可能性は高まると考えよう。2つ目は、失業者が職のオファーをもらう際に、さまざまな条件のオファーがありえると考えよう。時には、金額が低すぎるゆえにオファーを断ることもありうる。このようなモデルは、現実と整合性があるともいえる。アメリカでは州によって失業保険の金額が異なるが、失業保険が充実している(失業時にもらえる金額が高い)州ほど失業率が高いというデータがある。失業保険が充実していれば、職探しに必死じゃなくなり、あまり時間もかけず、失業保険が充実していなければ我慢して受け入れるオファーも断ることがありうるからである。この金額以上のオファーであればオファーを受け入れる、という金額を、経済学では留保賃金(reservation wage)と呼ぶ。必死な人は留保賃金が低く、余裕のある人は留保賃金が高い。

もちろん、この州による失業率の違いを説明する理論は他にもたくさんある。例えば、ちょっと込み入った話をすれば、失業保険が充実している州では、失業者に余裕があるから、オファーを受け入れてもらうためには企業も高めの賃金をオファーしなければならない。そうすると、企業の利潤は小さめになるので、企業はあまりたくさんの労働者を雇いたくなくなり、失業率は高めになるというチャンネルもありうる。

話を戻して、もう少しアメリカの失業保険制度について書くと、普通は失業してから26週間(約半年)だけ決まった金額の失業保険を受け取ることができる。受け取れる金額は失業する前の収入とか、どのくらい働いていたかとかに依存するが、この点には深入りしない。では失業した直後の1週目と26週目ではどのように状況が違うであろうか。失業した直後は、まぁ、まだ、26週も失業保険が受け取れるし…と考えて、職探しに必死にならないかもしれない。その一方、来週からは失業保険が受け取れないとなれば、とりあえず何か職を見つけなくちゃ、という考えになってもおかしくないであろう。

では、上のモデルで考えると、職を探すのにかける時間と留保賃金は何週間失業しているかによってどのように違ってくるだろう?失業直後の1週目は、まだ必死ではないので、職探しにかける時間も比較的短く、えり好みも激しいので留保賃金も高い一方、来週から失業保険がもらえなくなる26週目の場合、とりあえず何か職を…と考えるとすれば、職探しにかける時間も長くなり、留保賃金も下がるであろう。つまり、横軸に失業期間、縦軸に職探しにかける時間をとってグラフを書くと、理論が正しければグラフは右上がりになり、横軸に失業期間、縦軸に留保賃金をとってグラフを書くと、理論が正しければグラフは右下がりになるはずである(もちろん、いろいろな要素を捨象している)。理論が生み出すこれらの予測はデータと整合的か?という質問に答えたのが今回のペーパーである。

これらのグラフを作るために、著者らは、ニュージャージーの失業者6025人(全失業者の中からランダムに選ばれた人の中で謝礼を受け取ることを条件にインタビューに応じた人の合計である。もちろんサンプリングバイアスとかの問題についても触れられているが、そういうことには立ち入らない)にインターネットを使った(ブラウザ上で質問に答える)インタビューを行った。インタビューの期間は基本的には2009年の10月からの12週間(3ヶ月)である。もちろん2009年10月時点での失業期間はばらばらである。

では、職探しにかけた時間の方から見ていこう。


たくさんの線があるが、それぞれの線は、2009年の10月のインタビュー開始時点での失業期間の長さに応じて作られたグループである。例えば、左端の濃い緑の線は、インタビュー開始時点で失業期間が0-2週間だった人が職探しにかけた時間の平均である。左端の点では、これらの失業者(失業して0-2週間)は1日に約100分を職探しに費やしたことがわかる。同じ失業者グループは、その12週後(濃い緑の線の右端)、失業して12-14週間たったことになるが、その週には平均して1日のうち50分を職探しに費やしたことがわかる。

このグラフでまず、驚くべきことは何か?ほとんどすべての線が右下がりである。しかも減り方が激しい。例としてみたグループでは、職探しにかけた時間が1日あたり100分から50分に半減している。つまり、最初にあげた理論が正しいときにあるべきグラフの姿とまったくの逆なのである。このデータは、上であげたタイプのDMPモデルに疑問を呈しているといえる。

但し、ちょっとおかしなところもある。すべての線が右下がりだとすると、すべての線はくっついてなければならないのではないだろうか?一番右の線の左端に、その隣の線の右端をくっつけて、さらにそこにその次の線をくっつけて…というのを続けていくと、失業後0-2週間の失業者は1日100分ではなくものすごい時間を職探しに費やしてないといけないのではないだろうか?

この点に対して、著者らは、各線に含まれる人は大きく異なっている。例えば、左から2番目の線に含まれる失業者は失業前の賃金が一番左の線の失業者より高かったので、彼らは一番左に含まれる失業者より失業による収入の減少が激しい、つまり、職探しにかける時間が多くてもおかしくない、と著者らは主張している。が、これはちょっと苦しい言い訳のように見える。各線の形があまりに似すぎているような気がする。

この形については著者の解釈でない他の解釈もできる。1つは、インタビューが行われた時期は景気が悪化していっている時期なので、皆職が見つからずだんだん失望していっていったのかもしれない。そうすると、本来はこの線は平らか右上がり(全部の線の最初の点をつないでみよう)であるにもかかわらず、線全体が下にシフトしていくと、上のようなグラフになることはありうる。著者らは、この解釈への反論として、ニュージャージーではこのインタビュー期間に失業率は大きく上がらなかったという事実を挙げているが、職探しの見通しの悪化が必ずしも失業率の上昇とすぐに結びついているわけではないであろう。

他の解釈としては、インタビューに入ったことで、職探しにちょっとやる気を出して、しばらくは職探しにがんばってみたけど、12週間もすると、頑張りが失われたというものである。あるいは、インタビューに参加してみて、いいとこを見せないとという気になったのかもしれない。これらの解釈も上のグラフと整合的である。どの解釈が正しいかはまだわからないが、筆者らの解釈を正当化するにはより丁寧な議論が必要とされると思う。

では、もう1つのグラフ、失業期間と留保賃金の関係をみてみよう。


縦軸は、失業前の賃金に対する留保賃金の比率である。どのグラフも大体1辺りにあるということは、失業者は、大体、失業前の賃金と同じくらいの職でないとオファーを受けないということを示している。このグラフは上下の動きはあるが、トレンドとしては平らである。このグラフも、最初に上げた理論の結論(右下がり)とちょっと違う(職探しにかける時間ほどの大きな矛盾ではないが)。ちょっと目を細めてみれば右下がりといえなくはないので、理論が完全に棄却されたわけではない。

(筆者らは触れてはいないが)それより重要なのは、1つ目のグラフとの関係である。何で1つ目のグラフはおかしな形(それぞれの線がつながっていない)なのにもかかわらず、2つ目の線は比較的きれいなのか、という質問に答えることが、1つ目のグラフをどのように解釈するべきかを決める鍵になるような気がする。

とりとめもない話になってしまったが、このペーパーは、さまざまな側面で使われる重要なモデル(DMPモデル)の重要な帰結をデータで検証するという、非常に有益な研究であることは間違いない。それに、Kruegerはどんな学者なのか知らない人には、これが彼の典型的なペーパーだといっても差し支えないと思う。

0 comments:

Post a Comment