但し、失業率に影響を与えるということは、失業者あるいは失業しそうな人により強い影響を与えるということである。つまり、国民皆に同じように影響を与えているわけではない。しかし、国民の中でより困っている人に影響を与えるのは、そのほかの人に大きな悪影響を及ぼさない限り、許容されているのではないか。
財政政策は国民(の代理人)によって最終的に決められる一方、金融政策は、一般的に国民に選ばれたわけではない人が実行しているということも、金融政策は勝ち負けを作る性質のものではないので、その道の専門家に任せておけばよいという考えに基づいているのではないかと思う。
では、本当に、金融政策は、不平等に影響を与えないのであろうか?データを見ることによってこの重要な質問に答えようとしたのが今回触れるペーパー("Innocent Bystanders? Monetary Policy and Inequality in the U.S.," O. Coibion, Y. Gorodnichenko, and J. Silvia, NBER WP No. 18170, June 2012)である。細かいところまでは触れないが、Romer and Romer (AER2004)で算出された金融政策ショック(外生変数と仮定する)に対する4種類(賃金収入、総収入、消費、総消費(消費+車の購入+住宅ローンの支払い+教育費+医療費))の不平等に関する指標のインパルスレスポンスを計算したのがこのペーパーである。
では、結果を見ていく前に、金融政策が不平等にどのように影響を与えうるかを整理してみよう。筆者らは次の5つのチャンネルを挙げている。
- 所得構成チャンネル:低所得者は所得の大部分を賃金収入から得ている一方、高所得者の収入は企業の利益に大きく依存する。この場合、もし、拡張的な金融政策によって企業の利益が賃金より大きく増加するのであれば、拡張的な金融政策は低所得者よりも高所得者を優遇する。
- 金融区分チャンネル:もし金融市場で活発に取引している人と、そうでない人がいれば、前者のほうが金融政策の変更によって得をしがちである。
- ポートフォリオチャンネル:低所得者は高所得者に比べて資産のより大きな部分を貨幣として保有しているので、拡張的な金融政策が行われてインフレ率が高まると高所得者に比べて損をしがちである。
- 貯蓄再配分チャンネル:前にも触れたDoepke and Shneider (2006)で強調されたチャンネルである。金利が高まると、貯蓄をしている人は得をして、借金をしている人は損をするというチャンネルである。
- 賃金異質性チャンネル:金融政策によって賃金がどのように反応するかは労働者の性質によって異なる。例えば、失業のリスクが高い労働者の賃金は失業率に大きく依存するので、金融政策が失業率に影響を与えうるのであれば、彼らの賃金は金融政策により大きく依存することになる。
長くなってきたし、上の5つのチャンネルの整理だけでも面白かったので、ポスト数稼ぎのためにも、また次回にまわすことにする。
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