- モデルが再現すべき「Stylized Facts(定式化された事実)」あるいは「Puzzle(スタンダードなモデルが再現できない事実)」というものを皆が共有する。
- それを再現できるようにスタンダードなモデルを拡張する。
- それを再現できるモデルが複数あるときには他のfactsを元にどのモデルが「回答」となっているかを判断する。
では、住宅市場におけるstylized facstとはどういうものがあるか?特に住宅価格についてのfactsを整理したのが今回軽く触れる"House Price Moments in Boom-Bust Cycles," by Todd Sinai (NBER WP 2012)である。日本の1990年代から始まる低迷にしても、アメリカの最近の景気後退にしても住宅市場のBustとともに始まったことから(どちらが原因かという質問には依然として答えが出ていないように思えるけれども)住宅市場のBoom-Bustについてのstylized factsを認識しておくことは重要であろう。以下、あまり細かい点には触れずに、筆者があげるstylized facstを列挙していく。
- Boom-Bustのパターンは地域によって大きく異なる。例えば、1990年代から2000年代にかけての実質住宅価格の上昇度合いを、アメリカのMSA(都市圏と考えればよい)で比較すると、上昇率が上から25%の都市圏では住宅価格が111%も上昇した(つまりインフレを調整した後で倍以上)。一方、下から25%の都市圏では32%しか上昇しなかった。
- 1990年代から2000年代のBoom-Bustは1980年代のBoom-Bustと非常によく似ている。アメリカの都市圏における1980年代の住宅価格上昇率と1990-2000年代における住宅価格の上昇率の相関係数は0.45と非常に高い。つまり、1980年代に住宅価格が大きく上昇した都市圏の多くにおいて1990-2000年代にも住宅価格が上昇した。
- 住宅価格上昇開始のタイミングは都市圏で異なった。最近の住宅市場ブームにおいては多くの都市圏において、住宅価格は1990-1993年の間か、1996-1997年の間のどちらかに上昇を開始した。その一方、住宅価格のピークはほぼすべての都市圏で2006-2007年であった。1980年代のブームにおいても、大体の都市圏でピークは1986-1990年にかたまっていた。
- 最も住宅価格の上昇幅および下落幅が大きかった都市圏は、東海岸と西海岸、およびフロリダに集中していた。これらの都市圏は住宅価格の上昇開始のタイミングとピークのタイミングも大体同じであった。
- 都市圏の住宅価格の各年の変化率のばらつきを見てみると、都市間でのばらつきは住宅価格が上がっているとき(Boom period)には大きくなり、住宅価格が下がっているとき(Bust period)には小さくなっていた。つまり、住宅価格が上がっているときには大きく上がる地域とあまり上がらない地域との間に価格上昇率の大きな差があるが、住宅価格が下がるときには皆同じように下がるということである。
- 上で挙げた5つのstylized facstは住宅需要に影響を与える要素(各都市圏の平均所得、平均賃貸価格、雇用者数)wコントロールした後でも、成立する。つまり、上で挙げたfactsは、各都市圏の平均所得、平均賃貸価格、雇用者数の違いによって生み出されているわけではない。
非常に有用であるが、都市圏の比較だと、都市圏間の違いにも目を向けなければならないので、都市圏間のstylized factsを元に理論を発展させるのは難しいのではないか?それに、価格のデータだけでなく、数量のデータもないと、どのようなモデルにするべきかを決めるのは難しい気がする。
最後に、日本の1980年代についても同じようなデータがあると思うが、住宅ブーム崩壊の先進国である日本では、何か理論の構築が進んだのであろうか?
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