かなり間を空けてしまった。またどこまで続くかわからないけれども、ちょっとづつでも書いていけたらと思う。これから何回か、金融政策について簡単に書いていこうと思う。
最近、日本では、金融政策をより拡張的にして2%のインフレを起こすという政策を実施するように政府が日銀にプレッシャーをかけているようだ。では、日銀は(より一般的に中央銀行は)物価水準をコントロールできるのだろうか?
まずは、簡単に、日銀がどのように物価に影響を与えるかをおさらいしよう(わかりやすい文章を書く練習も兼ねているので、厳密性を欠くところは許してほしい)。日銀がコントロールできるのは、経済に出回る紙幣の量と、民間銀行が日銀に持っている口座の残高の合計である。これらをハイパワードマネー(あるいは「M0」)と呼ぶ。
これは実際に人々や企業が保有しているマネーの合計に比べてずっと小さい。このマネーの総量はいろいろな測り方があるけれども、(少なくとも最近までは)しばしば使われる測り方は「M2」というものである。普通、マネーサプライという言葉がさすのはこのM2だと考えてよい。
ではマネーサプライが増えるとどのように物価は影響を受けるのだろうか?もしマネーを通じて取引されるものの量が変わらず、マネーの量だけ増えたとすると、マネーの価値はものの価値に比べて下がることが想像される。つまり、インフレ(100円で買えるものの量が少なくなる)である。
つまり、最初に書いた、「金融政策をより拡張的にして2%のインフレを起こす」という政策の背後には、次のようなチャンネルが想定されているのである:
①ハイパワードマネーを増やす → ②マネーサプライが増える → ③物価が上がる
インフレ率をうまくコントロールするには、ハイパワードマネーを1%増やしたらマネーサプライが何%増えるか、ということと、マネーサプライを1%増やしたら物価が何%上がるか、についてよくわかってなければならない。では、これらはどのくらい当てになるものだろうか?以下では、「短期」と「長期」に分けて考えてみる。
まず、長期的には、 ①→②→③の関係は、とても強いことがわかっている。例えば、McCandless and Weber (FRB Minneapolis Quarterly Review 2001)では、110ヶ国の1960年から1990年のM0およびM2の増加率と同じ期間のインフレ率の相関を計算して、とても高い相関係数が得られた。例えば、M2とインフレ率の相関係数は0.95、OECD加盟国の21ヶ国に限っても相関係数は0.958である。さらに、彼らの計算によると、M2が1%高ければ、だいたい、インフレ率も1%高いことがわかった。したのグラフは、110ヶ国の1960-1990年のマネーサプライ増加率とインフレ率をプロットしたものである。つまり、長期的(ここでは30年)には、金融政策はインフレ率に強い影響を与えることができると考えてよさそうだ。このことは正式には、「貨幣数量説」という形で示される。
では短期的にはどうだろう。綿密な分析をしたわけではないが、短期的には、 ①→②→③の関係はとても弱いというのが一般的な認識だろう。例として、吉川(2013)のグラフを引用してみる。
上のグラフは1985年から2006年の日本における①、②、③をプロットしたものである。長期的には①が上がれば②も③も上がっているという関係が一般的に成り立っているのだけれども、短期的に、そのような関係が成り立っているとはいい難い。上のグラフのハイパワードマネーの動きと物価の動きを見て、日銀はハイパワードマネーをコントロールすることでインフレ率を2%に持っていけると考えるのはちょっと難しい気がする。
怖いのは、短期的に物価を上げようとして無理してマネーサプライを増加させたもののうまくいかず、長期的にかなり高いインフレ率を生み出してしまうことである。景気が回復し始めたころに急にインフレが起こって、インフレ自体かあるいはインフレを止めるための金融政策の急な引き締めが、せっかく上向いた景気を冷やしてしまうかもしれない。
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