Heterogeneous Firms and Credit Crunch

遅ればせながらFinancial shockがマクロ経済にどのような影響を与えているかについて、ここ数年でたくさん書かれた論文をちょっとづつ読んでいる。そのうちの一つ、Buera and Mollによって書かれた「Aggregate Implications of a Credit Crunch」についてちょっとメモしてみようと思う。Bueraは、生産性等が異なる企業が存在する経済にFinancial shockが起こったときに、それぞれの企業がどのように影響を受けるか、そしてその結果マクロ経済全体でどのような影響が生じるか、というトピックで論文を書きまくっている出世株だ。

まずはちょっとしたバックグラウンドから入ってみる。ちょっと前(と言っていいのかわからないけれども)、Chari、Kehoe、McGrattan(CKM)が提案したBusiness Cycle Accounting(BCA)というのが流行っていた。TFPショックをモデル全体を記述することなく計算できたように、他のタイプのショックをモデルなしで計算しようというアプローチである。TFPはもちろんそのままで使いやすいが、多くの人はTFPショックを額面どおりに信じているわけではなく、どのようなメカニズムがTFPショックのようなものを生み出しているかという研究がずっとなされてきた。

BCAアプローチというのは、TFPと同じように、何かもっとmicro-foundedなメカニズムから生み出される別のタイプの「ショック」を計算し、それはそれでTFPショックのように使うと同時に、その背後にあるメカニズムの研究も進めようと問いうアプローチだと理解している。BCAアプローチでは、TFPショックのようなものをウェッジと呼んでいるが、今回の論文で使われるウェッジは、効率性ウェッジ(TFPのように、生産要素投入量が一定のときに生産量を変化させるウェッジである)、労働ウェッジ(労働生産性と労働の不効用に差を生じさせるもの、労働所得に関する税(あるいは補助金)のように考えればよい)、投資ウェッジ(消費財を投資財に変える効率性を変化させるもの、投資財への税(あるいは補助金)のように考えればよい)である。

では、なぜBCAアプローチの話から始めたか?いくらBCAアプローチがモデルにあまり依存せずにウェッジを計算しているとはいえ、完全にモデルから自由であることはありえない。特に重要な仮定の一つは、代表的個人(つまり消費者は1人)と代表的企業(つまり企業は1つ)を仮定していることである。では、たくさんの異なる企業がいて、それぞれの企業が何かのショックを受けたとする。その結果それぞれの企業が(おそらくは異なる)影響を受け、マクロ経済全体への影響はそれぞれの企業が受けた影響を集計することで計算することができる。では、その代わりに、最初からこのような経済を代表的企業の存在するモデルで把握してみたとする。この場合、個々の企業にショックが与えられた結果生じたマクロ経済への影響を、代表的企業しかないモデルで把握できるだろうか?という疑問が生じる。この論文はそのような問いに対して答えることを目的にしている。

 ではちょっとモデルを説明してみよう。このペーパーで扱うのは前にも扱った「Financial shock」である。ある企業がKだけ資本を持っているとすると、企業が借りられる金額DはdKまでとする制約である。例えば1億円持っている企業はd=0.5であれば5000万円まで借りられるし、d=0.2であれば2000万円までしか借りられない。Financial shockというのはこのdが(明示的にモデル化されない)何らかの理由で動くというものである。この論文におけるCredit Crunchというのはdが急に下がることである。では、生産性(TFP)や資本の異なる企業がいる経済でdが急に下がったとしよう。おそらくは資本が比較的少ない企業はdKめいっぱいまで借りているであろうから、 それらが借りられる金額は下がることになる。では、それらの企業が借りれなくなってしまったお金はどうなるか?彼らのモデルでは、生産性が低いのでdが高かった状態では借りることができなかった企業が借りることになる。つまり、dが下がることによってお金が生産性の高い企業から低い企業に移ってしまうのである。では、このようなミクロレベルで起こっていることを無視して、代表的企業の存在するモデルでこの経済を理解しようとするとどうなるか?リソースが生産性の高い企業から低い企業に移ってしまえば、経済全体で見た(代表的企業の存在するモデルから見た)生産性は低下することになることが容易にわかると思う。つまり、このモデルでは、Financial shockはTFPの低下として理解されるのである。異質性のあるモデルでよく起こるクレンジング効果(不況時には生産性の低い企業が生産を縮小したり、生産性の低い労働者から職を失うことで、平均的な「生産性」は高まる)と逆のことが起こっていることも面白い。

なぜこの結果が面白いか?CKMはBCAを使って、金融セクターがマクロ経済に影響を与える代表的なモデルであるBGG(Bernanke, Gertler and Gilchrist)などのモデルでは金融セクター経由がマクロ経済に影響を与える時には投資ウェッジの上昇として現れる一方、データによると、投資ウェッジはあまり動かないので、BGGのようなモデルをもとに景気変動を考えるのはあまり有効ではないと主張した。それに対して、このペーパーの結果は、もしFinancial shockがBCAのもとではTFPショックのように見えるのであれば、CKMの議論は金融セクターが重要でないという結論には結びつかないことを示しているのである(著者らは、同じような議論は別のモデルでもすでになされていること、および、投資ウェッジがあまり動かないというCKMの証拠も頑健なものではないことが示されていることにも言及している)。

次に、著者らは、最初のモデルと同じく、Financial shockが異なる企業の借り入れ可能額に影響を与える経済を維持しつつ、企業の生産性が異なる代わりに、投資の生産性あるいは雇用を増やす際の生産性が異なるケースも分析した。まずは、企業の投資の生産性が異なるケースでは、Financial shockはBCAフレームワークのもとでは投資ウェッジの動きとして現れることを示した。最後に、企業が雇用を増やす際の生産性が異なるケースでは、Financial shockは労働ウェッジの動きとして把握できることを示した。これらから何が言えるか?Financial shockが景気の変動を生み出しているときでも、モデルのセットアップの仕方によって、BCAのもとでどのウェッジの動きとして理解できるかはぜんぜん変わってくるというものである。言い方を変えれば、BCAアプローチのもとでどのウェッジが重要そうかということがわかったとしても、その背後にあるメカニズムについては結局あまりわからないことを示した、とも言えるであろう。

最後に、2008年からのGreat Recessionにおけるさまざまなデータの動きから、このペーパーで分析された3つのモデルのどれが優れているかを識別することは可能か、という考察を行っているが、1つの金融危機だけしかサンプルがなくて、マクロレベルのデータしかない状況では、モデルの識別は難しいとの印象を受ける。例えば、3つのモデルのすべてにおいて、Financial shockによって総債務残高のGDP比が同じように落ち込むことが示されている。

著者らも書いているが、このペーパーの問題意識はこのポストで扱ったペーパーの問題意識と近い。企業あるいは消費者に異質性のあるモデルで起こっていることを、代表的企業と代表的個人からなる一般的なDSGEモデルでうまく把握できるかというものである。答えは(そのほかのほぼあらゆる経済問題に関する答えと同様に)もちろん「時と場合による」のであるが、これらのペーパーは一般的なDSGEモデルで把握できない、重要なメカニズムを示しているという意味で面白いと思う。

ちょっと書き方が硬すぎたかもしれないがこの辺で。

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