Inefficient Size-Dependent Policies

今回も、企業に異質性のあるモデルで個々の企業に異なる政策を実施することによる生産性の悪化というトピックの続きである。具体的にはGuner, Ventura and Xu (RED2008)をカバーする。もうこれで最後にするが、前回カバーしたRestuccia and Rogerson (RED2008)と並んでこの分野での必読文献であることと、日本の話が出ているからだ。

このペーパーのモチベーションになっているのは、発展途上国においても先進国においても、大企業を冷遇する、あるいは中小企業を優遇する政策が広く行われていることである。European Commissionによると、EUにおける平均的な企業(正確にはplantだがまぁ気にしないでよい)はアメリカの企業に比べて従業員数が23%少なく、日本の場合は40%も開きがある。それぞれの国で利用可能な技術が同じであれば、企業のサイズも同じになるはずであるが、そうはなっていないのである。その理由はいろいろあるであろうが、ここでは、その主たる理由として、欧州や日本では大企業を冷遇あるいは中小企業を優遇する政策がアメリカに比べてより積極的に行われていることを挙げている。

中小企業優遇策の典型例として挙げられているのが、1973年以来実施されてきた(2000年に規制の弱い新大店法に取って代わられた)いわゆる大店法である。彼らによると、大店法のもとでは、500平方メートル以上の敷地を持つ小売店舗にはさまざまな規制が加えられていた(1500平方メートル(大都市圏では3000平方メートル)以上の敷地を持つ小売店舗の場合規制は更に厳しくなる)。例えば、新たな店舗をオープンするためには「関係者(新たな小売店のオープンによって影響を受ける既存の小売店も含まれる)」の合意を得る必要があり、多くの場合オープン自体が妨げられてきた。著者らによると、このような大企業を冷遇する政策は、フランス、イタリア、等の他の国でも活発に行われてきた。逆に、中小企業、特にスタートアップ企業を優遇する政策は多くの国で積極的に採用されている。このような政策の効果を、企業に異質性がある、特に異なるサイズの企業が存在するモデルを使って分析しようというのがこのペーパーの目的である。

モデルは最近見てきたものと非常に似ている。各企業は生産性が異なり、生産性に応じて、資本と労働を競争的市場から調達して生産を行う。ここ最近扱ったペーパーのような借り入れ制約は存在しないので、当然のことながら生産性の高い企業の方が大きくなる(多くの資本と労働を使って生産を行う)。生産性が低すぎる企業はマーケットから退出し、参入コストを支払ってもよいと思うくらい生産性の高いスタートアップにとって代わられる。前と同じように、静学的均衡のみ見ているので、各企業は生産性がショックを受けて変化するのに合わせてサイズが大きくなったり小さくなったり、あるいは参入したり退出したりするが、経済全体の状態(GDP、総消費、総雇用)は変わらない。

企業の大きさに応じて異なる政策を実施したときに経済全体にどのような影響を与えるかを分析するのが目的なので、最低限、モデルにおける企業の大きさの分布が実際の経済と似ていなければモデルを使ったシミュレーションは信用できないであろう。この点をクリアするために、著者らは、アメリカをこのような政策がない状態と考え、企業のサイズに依存した政策がない状態でモデルが生み出す企業のサイズの分布がアメリカにおける企業のサイズの分布に近くなるようにモデルのパラメータを調整している(カリブレーション)。

では、このような経済において、企業のサイズに依存した政策がどのような効果を持つかを分析していくのだが、日本の大店法やヨーロッパで実施されている政策を厳密にモデル化するのは難しいので、もっとシンプルでありながら、日本や欧州で実施されている政策のエッセンスを捉えた政策をモデルの中では実施してみることとする。より正確には、ある一定以上の資本Kを使う企業には、資本の利用コストに一定税率の税Tがかけられると仮定する。Kのレベルは、政策がない状態のモデルにおける企業の平均サイズが選ばれ、T(34%)は企業の平均サイズが政策によって20%小さくなるよう(20%というのはアメリカと欧州における平均企業サイズの差に近い)に選ばれている。モデルによると、このような政策を実施することによって企業の数が24%も増加し、GDPは8%減少する。毎年の消費量がどれくらい変化するかという風に測られた「幸福度(welfare)」の変化は1.5%の減少である。

どうしてこのような結果が起こるのか。大きい企業に税がかけられることによって、 大きい企業のサイズが小さくなる。大きい企業が使わなくなった資本や労働の一部は、生産性は低いのでサイズは比較的小さいけれども税の対象とはならない小さい企業の使われ、それらの企業の生産が拡大する。大きな企業が資本や労働を使わなくなることで、需要の低下を反映してそれらの価格が低下するので、これまでは生産をやめていた生産性の低い企業の一部が復活してしまう。生産性の高い大企業の生産が縮小すると同時に生産性の低い企業による生産量が増えるので、経済全体で見た生産性は低下することになるのである。

では、今度は、資本の利用ではなく、大企業による労働の利用に対して一定税率の税金がかけられるとしよう。上の政策と同じように、平均的な雇用のサイズを超える企業の賃金支払いに対して、一定の税率Tで税金がかけられるとし、T(14%)はこの政策が実施された場合に企業の平均的サイズが20%低下するように選ばれる。この政策の結果、企業の数は前と同じように24%増加するが、GDPは0.5%しか減少しない。幸福度の変化は0.4%の減少である。企業のサイズに依存する政策といっても、どのように企業に異質な影響を与えるかによって政策の効果はずいぶん異なることが見て取れると思う。

著者らは、多くの国で行われている、小さい企業に補助金を与える政策、の分析も行っている。彼らのモデルにはスタートアップを支援することによる利益が存在しないので、小さい企業を支援する政策も経済に悪影響を与えることになる。詳しい数字としては、GDPは0.1%しか減少しないものの、企業の数は24%増加し、幸福度に与える影響も大きい(1.8%の低下)。

最後に著者らはあるセクターに焦点を当てた政策も同じようなフレームワークを使って分析できると主張してペーパーを終えている。

最近は、ここ数回扱ってきた企業に異質性のあるモデルに、失業を加えたり、景気循環を加えたようなモデルが発展している。これらの分野は今現在発展中の分野である。気が向いたらそのようなペーパーも扱うかもしれない。

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