Tyler Cowen on Recent Japanese Monetary Policy

僕の印象が正しければ、日本で英語の記事とかを訳している人にはどのような記事を選ぶかという面でバイアスがある気がするので、それと逆を行っている記事を取り上げてみたい。まぁ、バイアスの原因の一つは、どちらかというとハト派的な人のほうがブログとかを積極的にやっているからだと思うが。戦闘的な記事が多い中(どうして皆もう少し冷静に、理性的に、建設的に議論できないのだろうか?明らかな正解がない中で共通の目的を達成するために試行錯誤をしているだけだというのに)、この記事は、あまり新しい理論を援用してはいないものの、比較的バランスが取れていると思う(いつものと同じく、Tyler Cowenの意見はバランスが取れているものの100%賛成はできないが)。彼が最近の日本の金融政策について感じたことを箇条書きにしてあるので、そのまま、意訳していく。
  1.  僕が日銀の発表を正しく理解しているなら、インフレーションターゲットは2%なので、ハイパーインフレーションになる可能性は低い。日銀の新しい政策に反対する意見の根拠は強くなく、政策が実際に効果を持つ可能性もある。
  2. 最も重要な点は、金融政策(貨幣)が実体経済に対してどのような効果を持つかについて僕らはよくわかっていないことにある。典型的なモデルは、名目賃金が高止まりしているときにインフレーションを引き起こすことで実質賃金を低下させ、雇用および生産を増やすというチャンネルであるが、20年もの間低成長が続いてきたのに、未だに名目賃金が高すぎるなんてことがありうるだろうか?20年も経てば大多数の人は転職するか、退職するか、死んでいるのにも関わらず。名目賃金の調整が遅いモデルでさえ、名目賃金はいつかは調整される。名目賃金の調整速度が遅くても、労働市場が経済環境に合わせて調整される方法はいくらでもある。20年も低成長が続いた経済において名目賃金の調整速度が遅いことが実体経済に影響を与えることは考えにくい。
  3. 最近チェックしたときには日本の失業率は4.1%だった。もちろん失業率はもっと低かった時代があったことは知っているが、 4.1%の失業率で、余剰労働力(GDPギャップ)が大きいとは考えにくい。
  4. 長らくデフレーションが続いている状況下では、拡張的な金融政策は貨幣錯覚を通じて実体経済を刺激することも考えられる。貨幣錯覚が起こると、企業は名目的な価格の上昇を実体経済の改善と錯覚し、雇用を増やし生産を拡大することが期待されるが、企業はいずれ錯覚に気づき、生産をもとの状態に戻すことになる。つまり、拡張的な金融政策によって引き起こされる実体経済の改善は(一時的な実体経済の改善がさらなる実体経済の改善を引き起こすというようなチャンネルがなければ)一時的であり、拡張的な金融政策は長期的に実体経済を改善することは考えにくい。
  5. 「日本の新しい金融政策は名目賃金の粘着性を期待しているのか、貨幣錯覚を期待しているのか?」というようなブログ記事がたくさん出てきていそうなもんだけれども、これまでのところ見ていない。
  6. 新しい金融政策の発表に伴って株価が上昇したことはとくに大騒ぎするようなことではない。インフレーションは消費者から輸出企業への富の移転という側面があるので、株価の上昇はそれで説明できる。それに、株価の動きというものはかなりのノイズを伴って動くものである。日銀が新しい政策で特に深い理由もなく株式市場参加者を驚かせた、というだけでも株価は上昇しうる。
  7. 僕は日本におけるフィッシャー効果についての論文を見たことがない。それに、一般的に、日本のように成熟した経済ではフィッシャー効果は完璧には現れないものだ。よって、最近発表された政策は高齢者から若者へ富の移転を実現していると考えることもできる。このような(伝統的でないけれども)チャンネルを通じて実体経済を改善することはありうる。
  8. 一言で言うと、最近のニュースはよいニュースであるものの、新しい政策の効果についてあまり過信しすぎないほうがよい。

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