タイトルは仰々しいが、勉強法についての役に立つ話をするのではなくて、同僚と話して考えた雑感を述べるだけである。きっかけは、日本で(Dynareで解けるという意味での狭義の)DSGEモデルを推定するというのが流行っているようだと感じたからである。
なるべく早くにDynareで解けるようなDSGEモデルを使うと何がよいか? 早いうちからRBCあるいはDSGEモデルのロジックに慣れると、その後の理解が早くなるかもしれない。最初にIS-LMのような古いモデルから入ると、そこからDynamicなモデルに移行したときにギャップが大きすぎて、2つの別のフレームワークを別々に学んでいる感じになってしまい、一般均衡理論の応用として成り立っている現在のマクロ経済学の大枠をつかむのが難しくなるかもしれない。
それに、自分でモデルを走らせて、結果が見られるのはうれしいものである。僕も学部の授業を教えていたときに、ソローモデルに基づく経済成長のpathをExcelで計算させて、パラメーターを変えると様々な国の経済成長のpathが再現できることを学生に体験させたが、彼らがモデルに親しむのに役に立った気がする。
では、何がまずいか。Dynareで解ける狭義のDSGEモデルは、一般均衡モデルの中の、dynamicなモデルの、そのまた一部分だけである。最初からかなり小さい部分に特化してしまうと、何を考えるにしてもそのフレームワームにとらわれてしまい、発想が小さくなるかもしれない。あるいは、何を考えるにしてもきちんとしたベースとなるモデルがあるのは逆にいいことなのかもしれない。「see the data (or the world) through the lens of a model」 という能力は、しばしば優れた研究者を表すために使われるが、応用範囲は狭いかもしれないが使いやすいモデルに特化してそのモデルで何でも考える癖を身につけるのは、その訓練になるのかもしれない。
それに、個人的には、あまりモデルの推定にエネルギーを注ぎすぎるのはどうかなぁという気がする。誰が言ったか忘れてしまったが、「推定で大切なのは1にidentification、2にidentification、3にidentification」である。パラメーターの推定なんてのは、identification strategyがしっかりしていれば、モデルをcalibrateしてもそんなにおかしなことにはならないことが多い。このことはRios-Rull et al.による2012年のJMEペーパー"Methods versus Substance: Measuring the Effects of Technology Shocks"でより丁寧に示された点である。彼らは、identification strategyが同じであれば、calibrateしようがestimatesしようがパラメータの値は同じようなものとなり、その結果、モデルから得られる結果もあまり変わらないことを示した。identificationがよくわかんなければ結局「garbage-in, garbage-out」になるだけである。もちろん、identifyしづらい2つの効果があって、その効果の相対的な重要度を計算したいといった場合には高度な推定の技術が役に立つんだろうけれど、最初のうちは、パラメーターの推定に時間を割くよりは、面白いチャンネルを備えたモデルの開発し、重要なパラメータはどうやってidentifyできるか考えながらcalibrateする方が個人的には力になると思う。
それに、何も考えずに均衡の条件をDynareに突っ込むよりは、 いろいろな方法を用いて自分でコードを書いたほうが(少なくとも最初のうちは)勉強になるとも思う。
取りとめがなくいなってしまったのでこの辺でやめておく。
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