Random Thoughts

最近の日本の経済政策についてのrandom thoughts。
  1. 消費税の税率引き上げが近づいている。現実をわかっていない僕のような経済学者にはその効果を数量化する能力も時間もないけれども、消費税増税の直前には駆け込み需要で消費が(消費税増税がなかった時に比べて)上昇し、消費税の増税後は、駆け込み需要の反動で消費が(消費税増税がなかった時に比べて)落ちるはずだ。政府は消費税増税のインパクトを和らげるために財政支出を拡大を決定したようだが、そもそも、財政状況の改善のために増税するのだから、財政支出の拡大の効果が消費税増税の効果を打ち消すほど強いわけがない。
  2. しかし、消費税の増税は今月や来月のGDPを高めたり、失業率を下げたりすることが目的ではないのだから、まともな経済学者であれば、そんなものに一喜一憂する必要はない。ああ上がった、ああ下がったと確認できれば十分だ。
  3. 各家計がどのように消費を調整したかというマイクロデータは、家計の消費決定プロセスへの理解を深めるためにとても有用だと思う。そして、そのようなデータを使った研究が出てきて欲しい。
  4. おそらくは、増税の恩恵をこうむる世代は現在の世代でないか、あるいは増税の恩恵はわかりにくいものなので、消費税の増税によって少なくとも(消費者が認識する)生涯の可処分所得は減少し、民間総消費のパスは増税前より下にパラレルシフトすることとなるだろう。ただ、その効果が経済の成長率に影響を与えるかはわからない。個人的には成長率のトレンドは影響を受けないのではないかと思う。そうだとすると、消費税増税の効果は消費のパスの下方へのパラレルシフトだけなのではと推測する。
  5. 消費税増税によって達成できることのひとつは、既に退職した世代への(税引き後の)所得移転(年金)の減額だ。もし、既に引退した世代からまだ引退していない世代への所得移転という効果を強めたいのであれば、財政支出の際に、公共投資のようなものではなく、退職前の世代に直接お金が行くような形態を取るのが効果的だ。
  6. あまり意見の統一が見られない経済学者であるが、「消費税の軽減税率は好ましくない」という点については、たぶんかなりの経済学者の間で意見の一致が得られるのではないかと思う。こういうときにこそ、皆が声をひとつにして政府・世論に働きかけるべきだと思う。小さいことかもしれないけれどできることからやらないと。
  7. 政府が私企業に対して名目賃金の引き上げを要請したり、私企業の賃金引上げ率を公開して引き上げ率が低い企業にプレッシャーをかけるというのはやめて欲しい。日本の経済政策はそもそも世界に誇れたものではまったくないが、私企業の意思決定に政府が介入あうるというのはおかしいと思う。
  8. それに、物価水準が上がっても、名目賃金も同じように上がったら、いわゆるニュートラルな状況になって、実質賃金を引き下げて雇用や投資を刺激するという目的が果たせないのではないか。どちらかというと、名目賃金を上げないように私企業に要請すべきだと思う。名目賃金が下方硬直的で、かつ首も切りづらいという経済なので、インフレ率が低いと生産性の低い労働者の実質賃金も下げられないし、そもそも企業の業績が悪くても容易には人件費を引き下げられないというところに問題があると思うのだが。インフレの恩恵は生産性の高くない企業が実質賃金を比較的簡単に下げられる、あるいは生産性の高い労働者と低い労働者の間の実質賃金の差をつけやすくするということだと思うのだが。
  9.  所得が低い人、社会的弱者への所得移転をもっと増やすべきだということを声を大にしていっている人が多い。もちろん、こういうことをいえば、冷徹な経済学者と違って、自分は所得が低い人への配慮もちゃんとしている、というアピール度が高いことはわかるので、経済学者ではない人がそういうことを言うのはかまわない。でも、(きちんとした)経済学者が、そういう政策を実施するコストにも言及せずに、弱者を守ろうみたいなことだけ主張するのはおかしいと思う。所得移転を手厚くするためにはどこかから財源を持ってこなければならない。誰の税率を高めるにしても、生産拡大や技術革新のインセンティブを何らかの形でゆがめることになる。所得が低い人が努力するインセンティブも何らかの形でゆがめられるかもしれない。そういうことを勘案した上で、まだやるべきというのはかまわないが、ただ単に所得移転を拡大して可処分所得の平等性を高めましょうというのはちゃんとした経済学者の態度ではないと思う。
  10. 金融緩和の主要な恩恵が、円を減価させるということであれば、財政政策が緊縮的な状況下、今後もがんがん緩和するのかもしれない。しかし、通貨を安くして輸出を増やそうというのは、いかにもどこかの発展途上国のような政策だ。

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