またしてもあけてしまったが、まぁ、気を取り直して。仕事柄たくさんの学会に出るのだけれども、主にマクロかなんでもあり(その場合マクロのセッ
ションをうろつくことになる)の学会に出ることが多い。だけれども、最近、ファイナンスの学会に呼ばれて発表してきた。僕のペーパー以外は、いわゆる
「experimental」あるいは「behavioral」な要素が感じられる、いかにも最近のファイナンスという感じで新鮮だったので、ちょっとメ
モしておく。今日は最も面白かったペーパーひとつについて書いて、明日、残りのペーパーに言及する予定。
一番面白く
て、かつ皆がこのペーパーは影響力の大きいものになるといってたのがUnderstanding Mechanisms Underlying Peer
Effects: Evidence from a Field Experiment on Financial Decisions, by
Bursztyn, Edeer, Ferman, and
Yuchtmanである。このペーパーのmotivationはこのようなものだ。ある人がある金融商品を持っていると、その人の知り合いも同じ金融商品
を持っている可能性が高い。このことはpeer
effectと呼ばれる。それはなぜだろう?2つの可能性がある。1つは、人は自分の友人が持っているという事実からなんらかの情報を引き出して、それを
元に自分も購入を決定するというものである(learning)。もう1つの可能性は、友人がある金融商品を持っていると、それと同じものを持つことで、
友人と同じ地位にいると感じられるなどといった幸福を感じるというものである(keeping up with the
Jonesesあるいはexternalityと解釈できる)。この二つは識別が難しいけれども、どのように金融商品を売るか、あるいはどのように規制す
べきか、という質問の答えは、どちらがpeer effectを生み出しているかによってぜんぜん異なってくるかもしれないので、どちらがpeer
effectを生み出しているかを知ることは重要であろう。
この識別問題を解決するために、著者らは、ブラジルの金
融機関と協力して、大規模な実験を行った。このメインの実験は以下のように行われた。まずは、その金融機関の顧客リストの中から、個人的に交友関係がある
ペアをたくさん抽出する。そして、ペアのうち一人(Aさんと呼ぶ)に電話して、ある金融商品を紹介し、その商品を買いたいか聞く。その商品は1000ドル
程度の投資を必要とする。但し、Aさんが欲しいといっても、Aさんはある一定の確率でしか買うことはできない。Aさんの答えを受け、実際にAさんがその商
品を買えるか否かが決まったら、ペアのもう片方(Bさん)にすぐ電話する(すぐに電話しないとAさんから話が行ってしまう可能性があるので)。Bさんに対
しては、以下の3つのうちのどれかひとつの対応をする。
(1) Aさんの答えそしてAさんが実際にその商品を購入できたかを知らせず、同じ金融商品の説明をして、Bさんが買いたいかを聞く。
(2) Aさんは購入したかったけれどもくじ引きの結果購入できなかったことを知らせた上で、同じ金融商品に興味があるかをBさんに聞く。
(3) Aさんが購入の意思を示し、実際に購入したことを知らせた上で 、同じ金融商品に興味があるかをBさんに聞く。
こ
の結果、Bさんのうち購入の意思を示した人の割合は、(1)のケースでは42%、(2)のケースでは71%、(3)のケースでは93%だった。(1)と
(2)の差は、情報(learning)の効果、(2)と(3)の差は、友人の同じものを持ちたいという要求(keeping up with the
Joneses)の結果と解釈できる。つまり、著者らの実験によると、peer effectはlearningとkeeping up with
the Jonesesの両方が影響しているということがわかった。
こんな大規模な実験をできてしまうのはすごい
と素直に驚いた。実験というと、せいぜい10ドルくらいのペイオフでボランティアの学生相手とかにやったものをよく聞くが、あんなものからシリアスな状況
における意思決定について学ぶものは少ないといつも思っていた。1000ドルの(これもたいした額ではないけれども)投資とか、実際の金融機関と連携とか
聞くと、真剣に聞く気になってくる。実験もこういうものが増えてきているのであろうか。
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