Diamond-Saezのペーパー(JEP2011)の最後では、Mankiw-Weinzierk-Yagan (JEP2009)で挙げられた最適課税理論のから得られた8個の教訓について、評価を下している。これを簡単にみていこう。
(1) 最適な限界税率のスケジュール(日本語が思いつかないのでスケジュールのままにしておく)は能力(個人の生産性)の分布によって決まってくる。
→同意する。
(2) 最適な限界税率のスケジュールは高所得者については所得が上がるにつれて低下するかもしれない。
→強く反対する。
理由:この結果は、シンプルなモデルで、能力の分布として右のテールが細いlog-normalを仮定した時に得られるもので、モデルが変わっても維持できるような一般的な結果ではない。テールが太いパレート分布を仮定したときにはこの結果は得られない。高所得者の所得をより正確に把握すると、テールはlog-normalより太いといえる。
(3) 定額補助金(lump-sum transfer)+定率課税(いわゆるFlat Taxといわれる税制)は最適な税制に近いかもしれない。
→強く反対する。
理由:この結果は、何時間働くか(intensive margin)という選択のみを 含んだモデルから得られるものである。何時間働くかという選択に加えて、働くか働かないかという選択(extensive margin)も含んだモデルを考えると、働くか働かないかの境界近くにいる労働者に働くインセンティブを与えるために、低所得者には補助金を与えつつも、中所得者に与える補助金はだんだん少なくするほうが最適となる。
(4) 最適な所得再配分の度合いは所得の不平等の度合いとともに上昇しなければならない 。
→同意する。
(5) 税率は所得とともに、個々人の特徴に応じて変化するべきである。
→幾分反対する。
理由:例えば背の高さやルックスに応じて課税することには、実施可能性や社会的に受け入れられるかと言う問題がある。税率は所得以外には、家族構成や障害の程度といった個人の特徴に応じて変化させる必要があるだろう。
(6) 最終財のみが課税対象となるべきであり、財の間では税率は一定であるべきだ。
→幾分反対する。
理由:付加価値税(所得税)の税率は基本的はすべての財において一定であるべきだが、いくつかの例外は認められるかもしれない。実際の税制においては例外が多すぎる。
(7) 資本収入(金利収入と考えてもよい)は課税されるべきではない。
→強く反対する。
理由:この結果は、個々人が長期にわたる消費計画についてすべてを計算した上で設定し、それに従って消費を実施していくという仮定に強く基づいているが、最近の行動経済学の研究結果は、このような仮定が非現実的であることを示している。もうひとつ重要な仮定は、個々人はその子孫の効用も十分に考慮した上で消費を実施する(ので個々人のとその子孫はひとつの永久に生きる個人のように見ることができる)言うものだが、個々人がその子孫とそのように綿密につながっているという仮定が成り立っているかというと疑わしい(このペーパーでは言及されていないが北尾さんのAERはこの仮定がない状態(OLG)で資本収入を課税することが最適であることを示したペーパーである)。
(8)ショックが存在する動的な経済においては、最適な課税体系はとても複雑になる。
→幾分反対する。
ショックがある状態では最適な税制は複雑になることは同意する。最適な課税体系を実施するためのメカニズムがどのくらい複雑になるか(複雑なものが存在してもそれより簡単なメカニズムがないとは言えない)についてはわかっていないことが多い。
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