Quality Trade-Down and Employment

Nir Jaimovich, Sergio Rebelo, and Arlene WongのNorthwesternグループによる論文"Frugal Consumers and the Labor Market"が面白かったので簡単に紹介する。

2007年から2012年まで続いた大不況(Great Recession)によって、アメリカの消費者の所得は大きく減少した。平均的な(medianでみた)家計の収入は約10%も落ち込んだ。このような所得の下落に対して消費者はどのように対応したであろうか?これまでの研究では以下の3つの消費者行動に焦点が当てられてきた。
  • すべての財・サービスに対して消費支出を切り詰める。
  • 耐久消費財(家電や自動車)の買い替えを延期する。ここ1-2年アメリカにおいては自動車の売れ行きが大変好調であるが、この背景には車の買い替えを控えていた消費者が一気に押し寄せているという背景がある。
  • 安い商品(セール)を探すのに時間をより費やす。これによって売り手側のマークアップが減少した。
このペーパーでは、新しいチャンネルを紹介する。そのチャンネルとは以下のものである:
  • 購入する商品の構成を変える。特に、ぜいたく品(luxuries)から必需品(necessities)へシフトさせる(「カテゴリーの下降シフト」)。
  • それぞれのカテゴリーの中の構成を変える。特に、より品質の高いもの方品質の低いものへシフトさせる(著者らはこのような行動を「品質の下方シフト」と呼ぶ)。
このペーパー第1のポイントは、大不況時のデータで実際にこのようなことが起こったことを示していることである。わかりやすい例として、レストラン産業を見てみよう。まず、彼らは、以下のグラフで、大不況の際に、外食から家で食べるほうに消費パターンがシフトしたことを見せた。

大不況の時期に、食費全体の支出(オレンジ色の線)はもちろん減少したが、外食での支出(濃紺の線)の方が大きく減少していることが見て取れるだろう。家での食事のための支出(水色の線)も下がっているが、外食ほどは下がっていない。 これが彼らのいう「カテゴリーの下降シフト」である。それと同時に、「品質の下降シフト」も起こっている。外食支出の中での構成を見たのが以下のグラフである。
フルサービスのレストランの支出(緑色の線)が大きく減少する一方、限定的サービスのレストラン(ファーストフードと考えればよい)の支出(ピンク色の線)はそれほど減っていない。つまり、外食のカテゴリーの中でも、フルサービスからファーストフードへのシフトが起こっているのだ。

ここでは、レストランだけを見てきたが、ほかにもカテゴリー内のシフトを見ることができる産業があるので、それらの変化を整理してみたのが以下のグラフである。下のグラフは、いくつかのカテゴリーの中で、2007年から2012年の間に、高品質(オレンジ色)、中品質(薄い青)、低品質(濃紺)の3つのカテゴリーのマーケットシェアがどのように変化したかを示している。もちろん3つ足し合わせればゼロである。
外食(右から2番目の棒グラフ)では高品質のレストラン(オレンジ色)はあまり変化していないが、中品質のレストラン(こなれない日本語で申し訳ない)のマーケットシェアは2007年から2012年の間で13%くらい落ち込んでいるのが見て取れる。その分シェアが増えたのが低品質のレストランである。ちなみに、レストランやホテルなどの「品質」を決めるにあたってはYelp(何にでも評価をつけるぐるなびのようなものである)のデータ(例えばレストランの場合、ユーザーはドルマークの個数でレストランの「格」を評価するが、そのデータを使ってレストランを「格付け」している)を使っているのが面白いところだ。General Merchandise Stores(一番右の棒グラフ)というのはどこのスーパー・デパートで買い物をするかというシェアの変化を示している。高級・中級スーパーから低級スーパーへのシフトが起こっているのが見て取れる。データのある6つの産業の平均を見ると(一番左の棒グラフ)、高品質のものへの支出にははっきりとしたパターンが見て取れないが、一般的に、中品質から低品質へのシフトが起こっていることがわかるであろう。

ここまでが、このペーパーの第1のポイントである。もうひとつ面白いポイントは、高品質のものほど、資本より労働を多く使うというデータを示したことである。イメージとしては、高級なブティックとかであれば店員が多くいて顧客の世話をするが、安売りスーパーとかでは、客はほおっておくので接客要員があまり多くはいらないと考えればよい。もし不況によって、高品質のものから低品質のものへ需要がシフトするとどうなるか。低品質のものは労働よりも資本を多く用いるので、労働需要が減少し、雇用の減少、賃金の低下を引き起こすのである。もちろん、不況が起これば雇用は減少し賃金は下落するのであるが、この、高品質なものから低品質なものへのカテゴリー内の需要のシフトが起こることで、労働需要の減少がさらに拡大するというのが彼らの主張するチャンネルである。

では、一例として、彼らの主張が一番きれいに出ているスーパーマーケットのデータを見てみよう。
上の図は、それぞれのスーパーマーケットで、ある一定の売り上げを生み出すために何人の従業員を必要としているかを示していえるものである。一番高品質のWholefoodsは一番低品質のCostcoに比べて同じ売り上げを生み出すために約3倍の従業員を使っているというのがこのグラフから見て取れる。まぁ、ほかの業界はこれほどきれいなデータとなっていないけれども、まぁしょうがない。それにCostcoは低品質なのではなくて、単にまとめ買いができるから安いのだと思うけれども。

最後に、彼らは、このような「カテゴリーの下降シフト」と「品質の下降シフト」を取り込んだRBCモデルを構築して、このような効果が、不況の際の雇用の減少をどのくらい増幅するかを計算している。 この計算はおまけのようなものなので省略する。Labor Marketに関するおもしろいfactsを持ってきて論文に仕上げるのがうまいJaimovichらしい論文である。

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