Self-Control Problem and Poverty Trap

詳細はぜんぜん理解できていないのだけれども、面白いペーパーだったので簡単にメモしておく。Bernheim, Ray, and Yeltekinによる"Poverty and Self-Control"という論文である。

貧困に苦しむ人は自己抑制(Self-Controlの訳語を知らないのでこうしておく。一般的に使われているものがあったら教えて欲しい。)にも欠けるという相関は広く知られている。しかし、これは相関であって、因果(何が何を引き起こしているのか)については教えてくれない。考えられる因果関係としては以下のようなものが考えられてきた。
  • 貧困に苦しんでいると、 自己抑制能力が失われてしまう(貧困→自己抑制の欠如)。
  • 世の中には自己抑制が得意な人と得意でない人がいて、得意でない人が結局貧困に陥ってしまう(自己抑制の欠如→貧困、self selection)。
どちらのケースでも、貧困に苦しむ人を助けるために、たとえば資産を与えるとしても、彼らは自己抑制能力がないのですぐ使ってしまって、 結局貧困解決には役に立たないかもしれない。このペーパーでは、別の理論を提供する。それは以下のようなものである。
  • 人々はそもそも自己抑制能力の欠如に苦しんでいるが、資産が多い人は比較的容易に自己抑制を自分にかけることができる。一方、資産の少ない人は自己抑制を自分にかけることができない。よって、前者は資産をより増やして貧困を脱出し、後者は貧困を脱出できないことになる。
つまり、ある量の資産がない人は自己に抑制をかけられないことから浪費してしまい、poverty trap(貧困のわな)に陥ってしまうというものである。このような理論を信じるのであれば、貧困のわなに陥っている人に資産を与えることでわなを脱出する手助けができるかもしれない。

このペーパーではこのような理論を構築する。キーとなるのは、消費者は自己抑制の問題を持っているということと、(アドホックな)借り入れ制約である。ちょっとテクニカルな点に言及すると、自己抑制の問題(temptation and self-control)を持っている消費者の動的最適化問題を解く際には、しばしばマルコフ均衡に限定して解くことが多い(それでも難しい)が、著者らはsubgame-perfect均衡を解くことで、上に挙げたような効果を得られると主張している。Laibsonや彼の弟子がコンピューターを使って解いているときは基本的にマルコフ均衡にのみ注目しているが、マルコフだと、ここで挙げたようなチャンネルが出てこないというのが面白い。

では、どうしてpoverty trapのようなことが起こるのか?単純なストーリーは以下のようなものだ。著者らはこのような単純なストーリーだけではなくて、もっと深いものがあるといっているが、何回か聞いてみたもののわかりやすく直感的に説明できる気がしないので単純なストーリーだけ紹介する。

消費者が自己抑制をできないということは、資産を多く持っていても浪費してその資産を使い切ってしまうということである。この場合、当初資産を多く持っている人のほうが豪遊してしまったときのダメージが大きい。そもそも10万円しか貯金がなければそれを使い切ったところでそんなにダメージはないかもしれないが、もともと10億円持っていた人が全部使い切ってしまうのは将来へのダメージが大きいというのはなんとなくわかるであろう。だから、もともと資産を多く持っている人のほうが、それを使い切ったときのダメージが大きいので(誘惑に負けたときの罰を強くできるので)、自己を律しやすいのである。

先ほど、アドホックな借り入れ制約が重要だと書いたが、アドホックな借り入れ制約がなければ、もともと10万円しか資産がない人でも、借りれえるだけ借りてしまうと、将来の消費がゼロになってしまう、効果的に自分にダメージを与えることができてしまう。つまり、アドホックな借り入れ制約がないときには、最初に10万円の試算があっても10億円の資産があっても、資産を使い切ったときのダメージが負の無限大となってしまい、両者ともに同じように効果的な自己規律ができてしまうのである(つまりpoverty trapが存在しなくなる)。

著者らはこのようなモデルから以下のような政策含意が得られると述べている。
  1. 貧困の解決のためには資産が少ない人に、 わなを抜け出すのに必要な資産を与えるという政策が効果的である。資産がそもそも多い人にはあげる必要がない。
  2. 借り入れをしやすくすることは、貧困のわな解消のために効果的だ。上で述べたように、借り入れがしやすいほど、借りれるだけ借りて豪遊したときのダメージが大きくなるので、自己規律が働かせやすくなるからである。
  3. 自己規律を助けるためのcommitment deviceを与えることは、消費者が自分自身で使っている commitment deviceを弱めることになるかもしれない。commitment deviceのクラウディングアウトのようなものである。言い方を変えると、消費者が自己抑制の問題に直面していると考えた際に問題となるのは、ではなぜ自己抑制を強めることのできるcomitment deviceを人々はもっと積極的に使っていないのか、という疑問である。彼らの理論によると、そもそも多くの人は自分自身でcommitmentをかけることができているので外部のcommitment deviceを必要としていないのだという解釈を与える。
  4. 貯蓄を促進するために退職貯蓄口座を消費者に与えることは有益かもしれない。その際には、ある一定額(貧困のわなを抜けるのに必要な貯蓄額)以上に貯蓄がたまるまでは貯蓄にタッチできないようにロックされることが望ましい。このような貯蓄口座の提供は実際に発展途上国で試験的に実施されている。
  5. このペーパーで構築された理論では、限界消費性向が消費者の資産額によって異なることになる。この理論は、データにおいて消費が過度に収入に反応する(excess sensitivity puzzle)ことに説明になるかもしれない。
最近のEconometrica (このペーパーはまだR&Rだけれども)の理論のペーパーはなんの役に立つのかよくわからないなぁと思うものが多いが、このペーパーは、理論的にとても難しいものの面白い結果を導き出していると思う。

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