A Model of the Twin Ds

今回は、簡単に、Na, Schmitt-Grohe, Uribe, and Yueによる"A Model of the Twin Ds: Optimal Default and Devaluation"を紹介する。

著者らは、多くの国に起こった政府債務のデフォルトにおいて、デフォルトの直後にその国の通貨が大幅に切り下げられたことをに注目した。(最近悪名高くなってしまったが…)Reinhartはこのような現象をTwin D(DefaultのDとDevaluationのD)と呼んでいる。但し、著者らが言うように、デフォルトの「前」に通貨が大幅に切り下げられた例も多数あるが、そのような状況は今回のペーパーで分析できない。デフォルトの直後に通貨が切り下げられた例として、以下の6カ国があげられている。
ではなぜデフォルトと通貨切り下げはリンクしているのか?この質問に答えるには、デフォルトと為替レートの入ったモデルを構築する必要があるが、そういったモデルは存在していなかった。このペーパーでは、そういうモデルを作り、そのモデルにおいては、デフォルトの後に通貨を切り下げることは最適な政策であることを示す。

彼らのモデルの基本的な構造を簡単に説明してみよう。ベースとなっているのは小国開放経済DSGEモデルである。国の経済は貿易財(tradable)セクターと非貿易財(nontradable)セクターから構成されている。貿易財セクターの生産は生産性ショックによって決まる。良い生産性ショックが実現すれば貿易財の生産量は高くなり、悪い生産性ショックが実現すれば貿易財の生産量は低くなる。貿易財の生産が低いときには国は外国から借り入れを行う。借り入れはドル(国際通貨と考えればよい)で行われる。国は債務の返済にコミットできない(コミットメントの欠如)と仮定されており、また、将来の生産性ショックに応じて返済額を変更することはできないと仮定されている(不完備市場)。この仮定は、Eaton-Gersovitz(REStud1981)およびArellano(AER2008)で構築されたソブリンデフォルトモデルと同じ構造である。デフォルトすると中間財の輸入がうまくできなくなったりする(このようなデフォルトのコストは明示的にモデル化されていない)ことによって、生産量が低下すると仮定されている。このような仮定の下では、国は生産性ショックが低い状態が続いて、債務を蓄積しすぎた場合、デフォルトするコストが返済のコストより小さくなり、最適な政策としてデフォルトを選択することとなる。彼らのペーパーでは、デフォルトすると国際金融市場からの借り入れは未来永劫できないと仮定されているが、数年後には再び借り入れできるようになるという仮定を入れてもモデルの挙動は同じようなものである(もちろんカリブレーションは変わってくる)。

ここまではArellanoのモデルと同じであるが、このペーパーで新しいのは、非貿易財があることである。非貿易財への需要は貿易財への需要が高まると高まると仮定されている。また、非貿易財の生産は労働の投入によって行われるが、労働者に支払われる名目賃金には硬直性があり、名目賃金の調整はゆっくりしか行われないと仮定されている。

このような状況下で、国がデフォルトすることになったとしよう。デフォルトすると、貿易財の生産性及び生産が低下する。貿易財の消費が減少すると消費者は非貿易財の消費も減らそうとする。非貿易財の需要が減少するのに応じて、企業は非貿易財の生産を縮小したいのだが、名目賃金が硬直的な場合、賃金が調整できないので、企業は労働者を解雇せざるをえず、失業が生じることになる。

ここで政府に何ができるかというと、為替を切り下げることで、ドルベースの(実質)賃金を引き下げることができるのである。 名目賃金は硬直性があってすぐに最適な反応ができないかわりに、為替を切り下げることで名目賃金の硬直性を乗り越えることができるのである。為替を切り下げることで実質賃金が下がり、失業が解消されることになる。つまり、彼らのモデルでは、デフォルトした直後は、為替を切り下げて実質賃金を引き下げるのが最適な政策として考えられるのである。

では、ユーロ圏について考えてみよう。ユーロ圏の国のデフォルトリスクが高まったときには、ユーロ圏の国は通貨切り下げができないということが懸念されていた。そのときには、為替を切り下げて実質賃金を下げ、貿易収支を改善することができないという点が問題視されていた。彼らのモデルでは貿易財の生産が直接的に賃金に影響を受けないので、このような懸念は分析できないものの、彼らのモデルでも、ユーロ圏のように為替がペッグされていることは効率性という点から問題が生じる。為替がペッグされていると、ある国がデフォルトした後に、実質賃金引下げを行うことができないからである。彼らのモデルでは、為替ペッグの代償は大きい。ある国がデフォルトして、為替がペッグされている場合、失業率は大幅に高まることになる。

既存のモデルを、わかりやすい形で拡張し、現実的でかつ面白い政策インプリケーションが得られるという、良い論文のお手本だと思う。

0 comments:

Post a Comment